放射線・化学物質影響科学

魚類への影響

ヒトが使用し環境中に放出した医薬品は、野生生物(魚類)に悪影響を与える


長江真樹先生

長崎大学 環境科学部 環境科学科 環境保全設計コース/総合生産科学研究科 総合生産科学専攻 共生システム科学コース(環境レジリエンス分野)

出会いの一冊

こんな研究で世界を変えよう!

ヒトが使用し環境中に放出した医薬品は、野生生物(魚類)に悪影響を与える

多種多量の医薬品が水環境中に放出されている

様々な人間活動によって環境中に放出された化学物質は、生物や生態系に対して重大な影響をもたらします。私たちが使用している「薬(医薬品)」もその一つです。現在、多種多様かつ多量の医薬品が使用されおり、その使用量は年々増大しています。それらの一部は、環境中に放出されており、世界各地の水圏で多くの医薬品が既に検出されています。

ヒト医薬品は野生生物に対しても高い「生物活性」を示す

医薬品はその使用目的から、ヒトに対する「生物活性(生体の特定の生理的調節機能に対して作用する性質)」が高い化学物質ですが、類似の生体機能を有する魚類など他の脊椎動物に対しても、高い生物活性を示すことが一部の医薬品で明らかになってきています。そのため、環境水中に放出されたヒト医薬品が、特に魚類などの水棲生物に悪影響を及ぼすことが懸念されていますが、その理解は殆ど明らかになっていません。

また、ヒトが病気等になった際には、ある特定の数種類程度の薬を服用すれば済みますが、魚類などの野生生物は、その流域に暮らす多くの人々が多様な病気・疾患に対して使用し環境中に放出した極めて多種類の医薬品に同時に曝露されるため、多種類の医薬品による「複合影響」が問題視されていますが、そのような影響理解は皆無と言っていい程、進んでいません。

抗うつ薬や抗精神病薬はメダカの行動や繁殖に悪影響を及ぼす

そこで私たちは、使用されている多種類の医薬品のうち、抗うつ薬や抗精神病薬などの精神疾患薬にまずは焦点を絞り、飼育下のメダカに対する生理的影響を調査しました。その結果、調査した殆どの抗うつ薬や抗精神病薬が、メダカの遊泳行動を変化させ、また産卵数の低下など繁殖機能にも悪影響を及ぼすことを明らかにしました。

ヒトに対する精神疾患薬が、魚類の繁殖機能に影響を及ぼすこの結果から、ヒトに対して特定の薬効(薬の効果)を示す医薬品であっても、それが野生生物に取り込まれた際には、想定していない効果(影響)をもたらすことがあることを痛感し、この分野の研究の必要性を強く感じています。現在、これら抗うつ薬や抗精神病薬を同時に複数種類曝露した際の「複合曝露影響」も調査しています。

メダカ飼育施設
メダカ飼育施設
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→学術研究、技術サービス、医療
●主な職種は→環境アセスメント、環境分析、研究開発、MR(医薬情報担当者)など

分野はどう活かされる?

環境分析、企業での研究職、製薬会社のMRなどで、生理学的知識や分析技術・知識を生かしています。

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解析実験室
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先生の学部・学科は?

長崎大学環境科学部は、文理融合の視点で環境問題について学ぶことができる、全国でも数少ない学部です。私は環境毒性学について教育・研究に携わっていますが、理系ではその他、保全生物学、大気環境学など幅広い自然科学に関する環境問題について学ぶことができます。また、文理融合学部の特徴を生かし、環境政策や環境法など、文系の学問分野に関する素養を身につけることができるため、環境問題を考える上で必須である「多角的な視野」を涵養することができる点が大きなメリットです。

先生から、ひとこと

大学への進学に際して、「どの学部を選択するか」は重要な問題です。高校生の段階で、大学進学を含めた「将来ビジョン」を明確にするのはかなり難しいことです。私自身は元々、「水産増殖学」を学びたいと高校生の時に思うようになり、大学では魚類生理学、魚類内分泌学を学び、現在はその知識・技術を生かして、魚類などの試験生物を用いた環境毒性学を研究しています。つまり、大学進学の際に選択した学部、その後の大学院で学んだことが、現在の仕事(研究内容)に大きく関連しています。

ホームページなどで多くの大学情報を短時間で得られることができますが、それらに加えて、オープンキャンパス等に参加し、さらに興味のある先生方の研究室を見せてもらうことも可能です。実際に大学に「触れる」こともとても大事です。このような「積極的な行動」を通して、自身の学問的興味が明確化していきますので、皆さんも積極的な行動を取って、進学の意図を明確にし、受験勉強に励んでほしいと願っています。高く、明確なモチベーションがあれば、きっと良い結果をもたらすと思います。

中高生におすすめ

奪われし未来

シーア・コルボーン、ジョン・ピーターソン・マイヤーズ、ダイアン・ダマノスキ(翔泳社)

野生生物から検出された、様々な異常。その原因の一つが、環境ホルモン、つまり内分泌かく乱化学物質であることを、膨大な科学的データに基づいて論証し、警鐘を鳴らしている。「化学物質影響科学」の学問としての発達の発端的存在となる本だ。


沈黙の春

レイチェル・カーソン(光文社古典新訳文庫)

1962年にアメリカで初版が出版されてから、今もなお世界中で読み継がれる名著。農薬などの化学物質の危険性を、生態系での異変を交えて克明に描写し訴えており、環境科学を志す高校生の入門書として最適と思われる。

一問一答