植物保護科学

ラン/タマネギ

菌やウイルスがどう関わる? 植物の生存戦略を明らかに


志村華子先生

北海道大学 農学部 生物資源科学科(大学院農学研究院)

出会いの一冊

風の谷のナウシカ

宮崎駿(アニメージュコミックスワイド判)

文明の発展とともに人類が汚染させた土壌や空気を、他の生物や微生物が修復してくれていたんだという設定のお話です。似たようなことは現実にもあり、バイオレメディエーションという技術をみるとこのマンガのことを思い出します。

人間同士の関係性に加え、人間と植物、人間と微生物、植物と微生物というように生物同士の関係性(つながり)の大切さ、それが成立するために必要なことは何かを考えさせられるところがとても面白いと思います。

人間以外の生物や微生物との関係性について知り、人間も含めた生態系全体を健全に保つことの重要性を理解するために、いまの高校生にもぜひ読んでほしいと多います。環境汚染が進んだ世界で人間同士が争う場面が多く描かれており、こうならないように何ができるか、何をしないといけないかを考えるきっかけになってほしいと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

菌やウイルスがどう関わる? 植物の生存戦略を明らかに

ランの発芽は菌根菌の力を借りて

私は植物がどのように生きているのか、その仕組みに興味があります。特に興味があるのは、植物の生存戦略にとって大切な「他者との関わり」や「体づくり」の仕組みです。

「他者との関わり」について、以前は植物と病原性ウイルスの関係について研究していましたが、現在は、様々な植物ー微生物相互作用の中でも、植物と共生関係にある菌根菌について研究しています。対象としているのは「ラン」です。

ラン科植物は単子葉植物の中で最大の種数を持ち、最も進化している植物の一つとされます。ランの根には菌根菌が感染していますが、この菌はランの発芽や幼少期の成長に必須の存在です。一大イベントである発芽を微生物の感染に依存するという興味深い戦略の基礎にあるメカニズムを解明したいと考えています。実は、菌根菌の中にはウイルス(マイコウイルス)が潜んでいることがあり、このウイルスがランと菌根菌の関係に影響を与える可能性も考えられています。共生関係の鍵となるウイルスがあるならとても興味深いと思っています。

タマネギの体づくり戦略

植物の「体づくり」の仕組みにも興味があります。これについては、身近なタマネギを材料に、葉の一部が糖分をためて肥大するメカニズムの研究を進めています。タマネギの食用部分(鱗茎)は葉の根元が肥厚したもので、これは鱗茎の中心にある成長点(すべての葉を生む幹細胞の集まり)を守るための体づくり戦略です。どのようにして葉の一部だけが変化して肥厚するのか、フルクタンという鱗茎に蓄積する多糖の代謝に注目して研究しています。

植物は見えない仲間とつながっている

一見すると別々の研究のようですが、どちらも、植物はどのように環境や見えない存在とつながり、自身の体を作って生き抜いているのかという問いにつながります。菌やウイルスといった“見えない仲間”が、植物の姿や生き方を大きく左右しているのはとても面白いと思います。

こうした仕組みを理解することは、希少な植物を守ることや、持続的な食料生産の発展にもつながります。植物とその見えないパートナーたちの世界を探ることは、未来を考えるうえでも大切な研究と考えます。

ランの菌根構造の様子。青く染色された糸状のものが菌根菌の菌糸。菌根菌はランの細胞の中まで侵入し、塊状に分枝した構造(ペロトンといいます)を形成します。ペロトンは形成と分解と繰り返し、分解されたペロトン由来の養分はランに吸収され、発芽の際に養分として利用されます。
ランの菌根構造の様子。青く染色された糸状のものが菌根菌の菌糸。菌根菌はランの細胞の中まで侵入し、塊状に分枝した構造(ペロトンといいます)を形成します。ペロトンは形成と分解と繰り返し、分解されたペロトン由来の養分はランに吸収され、発芽の際に養分として利用されます。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校の時の生物の先生の教えもあって、理系科目の中から生物を選び、大学進学の際の学部選択では、子供のころから好きだった植物について深く学ぶために農学部を希望しました。

北大農学部へ入学でき、学生時代に所属した研究室では自分よりもずっと植物好きの先生や先輩がいて、自分の知識の浅さを実感したものです。様々な学問分野がありますが、自分が興味あることなら、学ぶのは本当に楽しく、大学では興味あることを突き詰めて学べます。自分が好きな分野で頑張れるようによい選択をしてほしいと思います。

左から、イネ、コムギ、ラン(レブンアツモリソウ)の種子。ラン科植物の種子は非常に小さく、普通の種子が持つ養分貯蔵組織(胚乳や子葉)を持っていません。共生パートナーであるラン菌根菌が感染することでランの種子は発芽して成長していきます。
左から、イネ、コムギ、ラン(レブンアツモリソウ)の種子。ラン科植物の種子は非常に小さく、普通の種子が持つ養分貯蔵組織(胚乳や子葉)を持っていません。共生パートナーであるラン菌根菌が感染することでランの種子は発芽して成長していきます。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう
先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
タマネギの成長の様子。タマネギの食用部位「鱗茎」は、地上に見えている葉の根元が肥厚して形成されます。生育初期は肥厚はみられず、ネギと区別がつかないです。環境シグナルに応答して、葉の基部は形を変え、糖類と水分を蓄積する鱗茎へと変化します。
タマネギの成長の様子。タマネギの食用部位「鱗茎」は、地上に見えている葉の根元が肥厚して形成されます。生育初期は肥厚はみられず、ネギと区別がつかないです。環境シグナルに応答して、葉の基部は形を変え、糖類と水分を蓄積する鱗茎へと変化します。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

北大農学部にある7つの学科の中で、生物資源科学科の特徴は、農作物の栽培なども含め、直接的に植物に関わる機会が多いところです。植物を研究テーマに扱う研究室がたくさんありますが、昆虫など動物科学を扱う研究室もあります。遺伝子やタンパク質など分子レベルの研究から、圃場や自然の生態系における植物〜動物の研究まで、幅広く知識をつけられることが特色です。

先生の研究に挑戦しよう!

穀類の多くは種子(果実)の部分を食用としますが、野菜類は植物の体の様々な部分が食用部位となっています。ジャガイモは茎、タマネギは葉、サツマイモは根が養分貯蔵器官として肥大して形成されるものです。これらはどのような形態的、生理的特徴によって、葉である、茎であると定義されるのでしょうか?また、部位の定義が難しいものにナガイモがあります。ナガイモの食用部位は植物の体の構造のどこだと言えるのか?調べてみましょう。

中高生におすすめ

「利他」の生物学 適者生存を超える進化のドラマ

鈴木正彦、末光隆志(中公新書)

動物同士、動物と植物、動物と微生物など、色々な場面でみられる「共生」を紹介してくれる本です。自分と他者の相互作用の中で、欠点を補い自然淘汰に打ち勝つ、「共生」という戦略の面白さに触れることができると思います。


生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

いわずもがなの名著ですが、とても読みやすく、生命科学の面白さを深く考えることができる本です。時々難しい部分があるかもしれませんが、丁寧に読んで、理解できたとき楽しいと思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

農学部または理学部

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

イタリア。食べ物も飲み物も美味しいものばかりで、日本と食の感覚が合っていると思う

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

「鬼滅の刃」無限列車編

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

花屋さん

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

家族と過ごす時間、友人や同僚との飲み会

Q6.好きな言葉は?

七転び八起き、失敗は成功のもと