自然人類学

チンパンジーの排泄

チンパンジーだって、特定の場所でうんこする!?


松本卓也先生

信州大学 理学部 生物学コース 進化人類学分野

出会いの一冊

裸のサル 動物学的人間像

デズモンド・モリス 日高敏隆:訳(角川文庫)

私の人生を狂わせた本です。この本が投げかける、「人間とは何か」という問いの魅力にあてられて、私は霊長類を観察する研究者になりました。この本が書かれたのは1967年です。内容が古いだなんて、ご心配には及びません。なぜなら、かつても今も人間は、「裸のサル」のままなのですから。

こんな研究で世界を変えよう!

チンパンジーだって、特定の場所でうんこする!?

私には予想できていた!

森の中を歩いていたチンパンジーが、倒木の上でしゃがみ、間もなくうんこをし始めました。近くにいた欧米からの観光客たちは、「Oh~!」と笑い声を漏らしています。しかし、藪の間から双眼鏡でチンパンジーの排便を覗き見ていた私は、「やっぱりね」としたり顔です。なぜなら、私にはチンパンジーが排便することが予想できていたからです。

生物学の辞典を紐解くと、『排泄する場所を特定しない』動物種として、『ヒト以外の霊長目』が挙げられています。確かに、人間の公衆トイレのような意味での「特定の場所」は、おそらくチンパンジーには見当たらないでしょう。

しかし、例えば倒木、坂の上、少ししなるように樹間を伝う木本性のつる植物など、チンパンジーが頻繁に排泄をするミクロな「特定の場所」は存在すると私は考えています。チンパンジーたちにとっての排泄にまつわる(ゆるやかな)規則を明らかにすること。これが私の目下の研究テーマです。

トイレってそもそもなんだっけ?

いま、SDGs6では「安全な水とトイレを世界中に」という目標が掲げられています。私が「ヒト以外の霊長類」の排泄行動を通して考えたいのは、「トイレってそもそもなんだっけ?」ということです。私の直感が正しいとすれば、「便器」にあたるようなものは、ヒトとチンパンジーの共通祖先の社会にもあったかもしれません。では、なぜ人類の祖先は「特定の場所」で排泄をする必要があったのでしょう?

こんなふうに、人間社会では当たり前のことを、「そもそも○○ってなんだっけ?」と考え直すヒントをくれるところが、進化人類学・霊長類学の魅力ではないかと私は考えています。

坂の下に向けて排便する、テディと名付けられたオトナオスのチンパンジー@タンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園
坂の下に向けて排便する、テディと名付けられたオトナオスのチンパンジー@タンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「排泄人類学の創出:排泄の自然誌と人類誌、サニテーションと健康」

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チンパンジーの排便姿勢のまねをする私@タンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園
チンパンジーの排便姿勢のまねをする私@タンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

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◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

雄大な日本アルプスを窓から望む信州大学理学部生物学コースは、魅力的な野外フィールドが身近にあるため、早い段階でフィールドワーク研究を始められる点が強みだと思います。学生の中には、入学式の日の午後から進化人類学研究室に顔を出して研究を始めて、学部生のうちに査読付きの著名な国際学術誌に筆頭著者として論文を発表した人もいます。

倒木の上から排便するニホンザル(まだ顔の識別ができていないので名前はわかりません)@冬の上高地
倒木の上から排便するニホンザル(まだ顔の識別ができていないので名前はわかりません)@冬の上高地
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

うんこ文学 漏らす悲しみを知っている人のための17の物語

頭木弘樹(ちくま文庫)

漏らす悲しみを知っている同志に読んで欲しいです。


大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち

藤井一至(ヤマケイ文庫)

「自身の研究」という1つの切り口から地球の歴史を描き出す筆致がすばらしく、私も目標にしたいと思っています。


燃えよ剣

司馬遼太郎(新潮文庫)

フィールドワーク中のキャンプでヘッドライトの光を頼りに読みました。満月だから夜でもあたりがよく見える、という点は京都の三条河原もタンザニアの森も変わりません。

一問一答