トコトンやさしい養殖の本
近畿大学水産研究所(日刊工業新聞社)
世界初のマグロ完全養殖を成し遂げた近畿大学の研究者の方々が執筆した本書は、卵から商品サイズの魚に育てるために、どのような餌を使うのか、優れた養殖魚を作るにはどのような工夫が必要か、といった養殖の基礎から応用までを、タイトルの通り、丁寧かつやさしく解説しています。
さらに、遺伝子操作による品種改良など最新の養殖技術について、専門的な知識がなくても理解できるようにわかりやすく紹介されており、水棲生物を用いた研究に挑戦したい方にとって、貴重な一冊となっています。また、養殖の現場で実際に起きる課題や、その解決のための工夫も取り上げており、実践的な視点も兼ね備えている点が特徴です。
魚のストレスを可視化! 魚と環境にやさしい養殖技術を目指して
未だ謎の多い麻酔
皆さんも、歯医者さんなどで、一度は麻酔を受けたことがあるのではないでしょうか?記録に残る最も古い麻酔薬は、約200年前の江戸時代に華岡青洲が薬草などを調合して作った「通仙散」です。これは、近代西洋医学のエーテル麻酔よりも早い快挙でした。
一般的に、全身麻酔(以下、麻酔)とは、神経の働きを一時的に抑えることで、鎮痛・意識消失などを引き起こすことです。しかし、実はそのメカニズムは未だ不明な点が多く、ヒトでも完璧な麻酔薬は存在していません。
魚もヒトと同じように麻酔にかかる
魚類の麻酔には、薬品・炭酸ガスなどによる化学的麻酔、低温や電気ショックなどによる物理的麻酔があります。養殖現場では、魚の選別や採卵の際に、香辛料であるクローブ精油を含む麻酔薬と、化粧品などにも使われるフェノキシエタノールが承認動物用医薬品として用いられています。しかし、両者とも、麻酔液の濁りなどで麻酔にかかったことを見逃してしまい、麻酔死が起こることがあります。
ストレス軽減とオーガニック養殖の実践
魚もほ乳類と同様に、炭酸ガスによって麻酔作用を示します。これまで我々は一部の魚類の体色変化によるストレスの可視化に成功しました。そこで体色・ストレス関連遺伝子を指標として、承認麻酔薬に入れた魚と炭酸麻酔に入れた魚で比較したところ、炭酸麻酔の体色・ストレス関連遺伝子はいずれも承認麻酔薬より低い値、つまり、ストレスをあまり受けていないことがわかりました。現在は、飼育環境を工夫し、魚がよりリラックスした状態で麻酔にかかる条件を検討しています。
さて、農業では薬を使わないオーガニック生産が確立していますが、養殖ではまだ試行錯誤のレベルです。そこで、私は、先述の炭酸麻酔や、寄生虫駆虫にお茶に含まれるカテキンを用いるなど、薬を使用せずに安全でストレスの少ないオーガニック養殖技術の確立を目指しています。サクラマスでは、実践段階まで成功し、附属病院の病院食として提供されました。
あわせて、たくさんの飼育魚がいる利点を生かし、医学系研究者と共同で、魚をモデルに受精の分子メカニズムに関する基礎研究も行っています。これにより、養殖技術の発展と生命科学研究の両立を目指しています。
今から20年ほど前まで、ウナギの産卵場はわかっていませんでした。そのため、半世紀前に飼育環境下でのウナギ採卵研究が始まりました。水産試験場を定年退職し、個人で養鰻業を営んでいた亡き祖父もその研究に携わった一人でした。私は祖父の背中を見て、ウナギに興味をもちました。念願が叶い、大学院そしてポスドク時代は、ウナギの人工孵化と仔魚飼育研究の第一人者の先生方にご指導いただきました。
その後、北海道網走の東京農業大学に勤務してからは、漁師や料理人など現場の方と共に活動し、地域に貢献できる養殖を考えるようになりました。あわせて、同僚が行っていた魚類の麻酔研究についても興味を抱き、共同研究を行いました。こうした経験を基盤として、現在は、金沢大学にてオーガニック養殖に不可欠な魚類のストレスを軽減する麻酔、魚類の受精などについての研究を行っています。
「炭酸麻酔と光照射の併用により引き出される魚類に最適な麻酔環境」
◆主な業種
(1) 農業、林業、水産業
(2) 食品・食料品・飲料品
(3) コンピュータ、情報通信機器
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 生産管理・施工管理
(3) システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
卒業生は、国や県の水産系研究職、水産食品会社そしてI T業界で活躍しています。石川県の水産総合センターに勤務する卒業生は、石川県の重要な水産対象種であるトリガイの種苗生産を任されています。また、能登町に定住し、企業に勤めながら民宿を経営している卒業生もいます。
2019年に新設された能登海洋水産センターは、水棲生物の神秘解明に取り組むとともに、漁師さんとの交流を通じて、地域や世界に貢献できる人材の育成を目指しています。大きな水槽では、トラフグやサクラマスなどの水産養殖対象種にくわえ、サヨリなど当センターが飼育技術を確立した新たな養殖魚を数万尾飼育しています。また、水槽室の上階には、旧ホテルを改築した快適な居住空間が整っており、基礎研究から実践研究まで、魚のコンディションに合わせた研究を行うことができます。
当センターは、令和6年能登半島地震を被災しましたが、2025年度中にリノベーションが完了する予定です。不撓不屈の精神で、次世代の水産業の発展に全力で取り組んでいます。
プロジェクトX リーダーたちの言葉
今井彰 (文藝春秋 )
今から20年ほど前に放映されたNHK「プロジェクトX」に登場した戦後復興そして高度経済成長期にかけて日本を創った偉人たちの言葉をまとめた一冊です。戦後、資金もなく、チームにも恵まれずに立ち上げられた数々の難攻不落のプロジェクト。挑戦者たちは、絶望的な状況の中でも諦めず、互いを鼓舞し合いながら道を切り開いていきました。
今日、私たちが便利で豊かな生活を送れているのは、そうした先人たちの絶え間ない努力の集み重ねによるものです。「とにかく、やってみなはれ。やる前から諦める奴は、一番つまらん人間だ」ーこのような数々の名言が詰まった本書は、理系文系を問わず、すべての人に読んでいただきたい一冊です。
日本の養殖魚介・藻類図鑑 ―生態、歴史、技術、課題、展望―
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所:編(緑書房)
本書は、我が国で現在生産・研究されている養殖対象種161種を網羅的に取り上げた、総合的な解説書です。各魚種については、生態・分布などの生物学的基礎知識から、飼育管理などの課題とその解決策に至るまで、養殖に関連する幅広い情報を紹介しています。執筆には、国立研究開発法人 水産研究・教育機構を中心に、大学・都道府県水産試験場・企業などで活躍する約140名の専門家が参加しており、それぞれの分野における第一線で培われた知見を基に、科学的かつ実践的な視点から最新の情報が丁寧に解説されています。手前味噌ではありますが、私自身もいくつかの魚種を紹介させていただきました。
取り上げられた魚種は、マダイ・ブリ・ウナギ・ヒラメなどの主要な商業養殖魚をはじめ、地域の特産種・放流用種、さらには研究・試験段階にある魚種まで多岐にわたります。くわえて、絶滅危惧種や、種苗生産の初期段階で不可欠な餌料生物についても取り上げ、基礎・応用研究の両面から最新情報を提供しています。全編カラーで紹介しているため価格は高額ではありますが、本書は、わが国の養殖技術と水産資源管理の現状を俯瞰し、今後の養殖業の持続的な発展を見据えるための貴重な指針となる書籍です。
| Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? やはり、水産学を学びたいです。水産学は奥深いです。 |
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| Q2.一番聴いている音楽アーティストは? Metallica:お気に入りは「Battery」。学生の頃、彼らの歌詞を理解するため、スラング辞書を購入しました。 |
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| Q3.大学時代の部活・サークルは? 空手道部:礼儀を学びました。 |
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| Q4.好きな言葉は? 温故知新:過去の事例を学ぶことで、今や将来に生かせる新しい知恵が見いだされます。 |

