文化財科学・博物館学

トロロアオイ

植物バイオテクノロジーで、1000年続く手漉き和紙の伝統を守る!


池田美穂先生

福井県立大学 生物資源学部 生物資源学科(生物資源学研究科)

出会いの一冊

植物バイオテクノロジーでめざすSDGs 変わる私たちの食と薬

小泉望、加藤晃:編(化学同人)

植物バイオテクノロジーというと、多くの人が「遺伝子組換え」や「ゲノム編集」を思い浮かべるでしょう。確かにそれらはとても便利な技術ですが、なんでもすぐに解決できる魔法の道具ではありません。そして名前のイメージほど怖いものでもありません。

この本では、私たちの身近にある食べ物や薬に使われる植物について、最新の植物バイオテクノロジー研究が紹介されています。そして、その背景にある社会の課題や、植物と研究の歴史についても書かれています。

研究者がどんな課題を解決しようとして、どんな作戦で研究を進めているのか、そんなことが少し見えるかもしれない一冊です。

こんな研究で世界を変えよう!

植物バイオテクノロジーで、1000年続く手漉き和紙の伝統を守る!

植物の組織培養は「職人技」

皆さんは「伝統の職人技」というと、どんなものを思い浮かべますか。
 
私の大学がある福井県には、越前和紙や漆器、打ち刃物など、今も技を守る職人さんがたくさんいます。実は、私の専門である植物バイオテクノロジー研究にも「職人技」があります。その一つが、植物の組織培養です。植物の一部や細胞を培地の上で無菌的に育て、完全な植物体を再生したり、細胞を増やして医薬品や化粧品の原料にしたりする技術です。

私は、この技術を使って、日本の伝統技術である手漉き和紙に貢献したいと考えています。

流し漉きに欠かせないトロロアオイ

研究材料はトロロアオイです。根からとれる粘り気のある物質「ねり」は、紙の繊維を均一に広げ、丈夫で薄い紙を作るのに欠かせません。トロロアオイは日本の無形文化財である流し漉きに必須な植物です。

しかし、トロロアオイはまだほとんど研究されていません。そこで私は、組織培養を使ったクローン増殖や細胞培養に加えて、DNA解析や植物ホルモン分析で和紙用系統の特徴を調べる研究、さらに「ねり」成分の分析など、多角的な研究に取り組んでいます。

和紙職人さんや農家さんの声も大切に

研究を進める上では、和紙職人さんや農家さんの声も大切です。一緒に作業をして話を聞き、職人さんや農家さんが求める栽培しやすいトロロアオイの育種にも挑戦しています。

未来の職人さんたちが安心して紙を漉けるように、そして、1000年以上続く手漉き和紙の伝統が長く受け継がれていくように。私は植物バイオテクノロジーを使って貢献したいと思っています。

福井県立大学の圃場で栽培しているトロロアオイを授粉する様子
福井県立大学の圃場で栽培しているトロロアオイを授粉する様子
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私が植物研究を選んだきっかけは、小さな頃、祖父の農作業を手伝いながら、色々な植物の現象に不思議さを感じたことです。子どもなら誰でも感じる素朴な疑問ばかりでした。大学院時代、指導教員の先生が春の公園で何気なく「桜はどうやって春に咲くと思う?」と私に聞きました。その時、研究とは難しいことだけではなく、素朴な疑問を解き明かすものでも良いのだと気づきました。今も、素朴な疑問を大切に、研究に取り組んでいます。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「伝統文化の持続性に資する、植物組織培養を活用した和紙原料植物供給技術の開発」

詳しくはこちら

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もっと先生の研究・研究室を見てみよう
トロロアオイの培養風景
トロロアオイの培養風景
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(2) 農業、林業、水産業

(3) ネットサービス/アプリ・コンテンツ

◆主な職種

(1) 中学校・高校教員など

(2) 設計・開発

(3) システムエンジニア

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

多くの大学で「品種改良の研究」はできますが、農家が栽培する新品種まで生み出す研究室はほとんどありません。福井県立大学生物資源学部では、最先端バイオで有用遺伝子を発見し、育種技術を開発、さらに実用品種を創るまで一貫して学べます。1-3年生からラボや圃場で実験し、実践力を獲得。社会実装まで見据えたフルスペックの品種改良を体験できます。

無菌で組織培養の作業をしている様子
無菌で組織培養の作業をしている様子
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

夢十夜

夏目漱石(新潮文庫『文鳥・夢十夜』より)

すごく短くて読みやすい作品です。特に私が好きなのは第六夜、運慶が仁王を彫る話です。運慶が思いきりよく刀を入れて仁王を彫る姿に感心した主人公に、若い男がこう言います。「あれは仁王を鑿で作るのではなく、木の中に埋まっているのを彫り出すのだ」と。

これを読んだ時、私は自分の研究と似ているなと思いました。研究で探している「答え」は最初からどこかにあって、私たちはそれを彫り出すだけなのです。ただ、木の中の仁王が運慶に彫り出されるまでは見えないように、「答え」も私たちが見つけるまでは見えません。そして、運慶が才能と努力を重ねて腕を磨いたように、私たち研究者も努力して「答え」を見つける力を身につけなければならないのだと思いました。

もちろん、文学を研究する先生方の解釈はこれとは全く違います。でも、こんなふうに自分なりの読み方ができる短編を書いた夏目漱石は、本当にすごい作家だと思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

生物学。やはり植物を学びたいです。

Q2.大学時代の部活・サークルは?

混声合唱団

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

学会の受付、スライド係。勉強になりました。

Q4.好きな言葉は?

人事を尽くして天命を待つ


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