農業社会構造

山村の暮らし

残したい山村の暮らしの記憶と記録 住民とともに作る集落環境史


竹本太郎先生

東京農工大学 農学部 地域生態システム学科(農学府 農学専攻 地球社会学コース)

出会いの一冊

森林と時間 森をめぐる地域の社会史

山本伸幸:編(新泉社)

二十歳にもなれば子供がいて当たり前だった明治の若者と、大学に通っている令和の若者の生きている時間は異なります。このような時間のことを社会的時間と呼び、その中で生きることをライフコースと呼びます。人の時間と同じように、森林にも時間があり、植えた木を収穫するまでには人の一生よりも長い時間がかかります。

森林や林業に関わった人々は、これまでどのようなライフコースを辿ってきたのでしょうか。森林とともに暮らす村の時間、森林行政や林業会社に関わった人たちの時間、林業に関わった女性の時間、森林ボランティアの時間、そうした人材を作るための時間。人と森林の時間の中で、受け継がれるもの、途絶えてしまうものがあります。そうした生き様をみつめながら、自然と人間が織りなすこれからの時代を若い読者に考えてほしいと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

残したい山村の暮らしの記憶と記録 住民とともに作る集落環境史

人口減少を緩和させて長く暮らし続けたい

少子高齢化と人口減少は全国的にも大きな問題になっていますが、山村ではその動きが一歩先に進んでしまっています。行政だけではなく民間の力も使って、村づくりや地域振興といった取り組みがずっと行われていますが、実際の山村で調査をしながら見聞きするのは、高齢の住民たちが集落を死守するために手を尽くし、疲れている状況です。

いま山村の集落では、人口を増加させる「活性化」よりも、人口の減少を「緩和」させて住民が少しでも長く暮らし続けることが求められているのかもしれません。

集落の存続につながるような調査を

これまで市町村史などでは、産業や教育、民俗、あるいは政治や経済などの切り口からの記述が中心でした。しかし、そもそも山村における「暮らし」は自然の恵みと災いの中で日々営まれています。住民が残したい、そうした「暮らし」の記憶と記録を「住民参加型」で収集し、「集落環境史」を作成することで、住民が誇りを持ち、集落の存続につながるような調査・研究を目標にしています。

ムラ・イエ・ヒトの時間を記述

現在、約80世帯が暮らす新潟県F地区で調査を受け入れていただいています。F地区は、豪雪地域でありながらも雪解け水による豊かな水田地域です。住民(ヒト)の時間を分析する社会学のライフコース分析という方法を発展させ、住民(ヒト)と家族(イエ)と集落(ムラ)の時間を自然環境との相互作用に着目して記述しています。加えて、調査結果について住民と学習会で意見交換することにより、住民目線を担保しています。

田植えの頃のF地区。豪雪で地すべりの多い場所ですが、緩やかな棚田では雪解け水で美味しい米を作っています。
田植えの頃のF地区。豪雪で地すべりの多い場所ですが、緩やかな棚田では雪解け水で美味しい米を作っています。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「住民参加型による集落環境史の作成:ムラ・イエ・ヒトの記憶と記録の収集方法の構築」
詳しくはこちら

秋には稲刈りと稲架掛けを学生たちとお手伝いをしました。天日干しした美味しいお米を大学祭で販売しています。
秋には稲刈りと稲架掛けを学生たちとお手伝いをしました。天日干しした美味しいお米を大学祭で販売しています。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「住民参加型による集落環境史の作成:ムラ・イエ・ヒトの記憶と記録の収集方法の構築」

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先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
住民との学習会の様子。研究室の学生たちが調査内容を発表すると、たくさんの質問やコメントが飛び交いました。
住民との学習会の様子。研究室の学生たちが調査内容を発表すると、たくさんの質問やコメントが飛び交いました。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 農業、林業、水産業

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) 技術系企画・調査、コンサルタント

(2) 総務

(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

中谷宇吉郎(岩波文庫)

理系・文系を問わず、科学的な調査や研究とはなにかを教えてくれる名著です。いまでもときどき手にとってページをめくると、初心に帰ることができます。


ある町の高い煙突

新田次郎(文春文庫)

明治から大正にかけて鉱山の煙害に立ち向かった人々の苦労と勇気を描いた小説ですが、ほぼ史実にもとづいています。環境問題が起きたときに人々が合意を形成するための教科書としておすすめです。


KANO 1931海の向こうの甲子園

マー・ジーシアン:監督

日本統治下の台湾から甲子園に出場し、準優勝した嘉義農林学校の様子を描いた映画で、嘉義に灌漑用水を引いた八田與一の事績がサイドストーリーになっています。当時の社会や暮らしを生き生きと知ることができます。

一問一答

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