獣医学

ウイルス

すねかじりウイルスの生存戦略


松尾栄子先生

神戸大学 農学部 資源生命科学科 応用動物学コース(農学研究科 資源生命科学専攻 応用動物学講座)

出会いの一冊

復活の日

小松左京(角川文庫)

現在も面々と続くウイルスパニック小説の一つ。かなり昔のSF小説にしてはかなり綿密に、その時代の科学がしっかり取り入れられている(当然「そんなのは無理だ」という内容も)。

インフルエンザウイルス以外にもサテライトウイルス、ウイロイドやバクテリオファージなどの概念や変異やワクチン、神経伝達物質の話も出てくるため、高校生物と照らし合わせながら読むと楽しいかもしれない。他にも、放射線などの物理的な知識も出てきて勉強になる。ウイルスが他のウイルスの毒性を増強させるというシナジー効果がさりげなく出てきたり、ウイルスとウイルスの相互作用にも着目しているので、ぜひ病原体「MM-88」に関する記述を中心に読んでほしい。

こんな研究で世界を変えよう!

すねかじりウイルスの生存戦略

ウイルスは仲間のすねもかじる

皆さんは、「働きアリの法則」について聞いたことがあると思います。「真面目に働いているアリと、まあまあ働くアリと、サボりのアリは、2:6:2で存在し(注:アリの種類によって比率は異なるようです)、働き者のアリのすねをかじっているだけに見えるサボりのアリも実はアリの社会の維持に重要である」という話です。

それでは、「働かないウイルス(すねかじりのウイルス)」はご存じですか。ウイルスは子孫を残すためには生きている細胞(宿主)の機能を拝借する必要があるため、元々「すねかじり」の性質を持っています。しかし、実は宿主細胞だけでなくウイルスのすねも遠慮なくかじります。このウイルス同士のすねかじりを「相補現象」と呼びます。

拝借を繰り返すと、ウイルス種の存続が危ぶまれる

細胞内でウイルスの遺伝子のコピーが大量に作られる時、コピーを作るタンパク質がうっかり間違えることで、似て非なる遺伝子をもつ子孫ウイルスが大量に生み出されます。

これらの子孫から生存に適した機能をもつものが主に選択されてきますが、本来淘汰されてしまう機能不全の子孫も、同じ細胞内にいる他の子孫から機能を無断拝借することで生き延びることができます。

しかし、このような機能の拝借があまりに繰り返されると、そのウイルス種の存続が危ぶまれてしまうため、ウイルスは「すねかじりの子孫」をうまく制御しなくてはなりません。

そこで現在私たちの研究室では、ウイルスがどのように相補現象を制御しているかや、相補現象がウイルスの生存戦略や病原性(病気を起こすかどうか)にどのように関わっているかを明らかにしようとしています。

実験室での様子
実験室での様子
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

昔は「考古学者(歴史が好きだったので)」もしくは「獣医(飼ってた犬を寄生虫の病気で失ったので)」になりたかったのですが、高校では悩んで理系を選択しました。

その頃には自分の興味が臨床獣医ではなく基礎研究だなと思ったので寄生虫に詳しい先生がいる大学を選択して入学したのですが、色々あって当時新たに興味を持ち始めた「薬が効かない」細菌の研究をすることになりました。ドクター進学を考え始めた頃、ウイルスを光らせる技術を使ってウイルスの感染を光の動きで見た衝撃が忘れられず、ウイルスの世界へと進むことにしました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「イバラキウイルス感染における相補現象の分子基盤とウイルス生存戦略」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 食品・食料品・飲料品

(2) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(3) コンサルタント・学術系研究所

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 商品企画、マーケティング(調査)

(3) 品質管理・評価

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

(1) 獲得免疫とインフルエンザウイルスの変異について調べてみましょう。その上で、過去10年間に流行したインフルエンザの血清型(流行株)の変遷とインフルエンザワクチン株の変遷を調べ、ワクチン接種と流行株の変化の関係について考えてみましょう。

(2) 細菌を宿主とするウイルスをバクテリオファージ(ファージ)と言います。納豆菌や手の常在菌など身近な細菌に感染しているファージを分離してみましょう。

中高生におすすめ

そんなバカな! 遺伝子と神について

竹内久美子(文春文庫)

リチャードドーキンスの『利己的な遺伝子』(生物は遺伝子の乗り物であるという説を唱えた本)の内容を踏まえて人間の行動を面白おかしく「遺伝子」の立場から解説した本。

私が高校3年生の時に読んで、思わず自分や周りの人の行動を見返して進化的にどうなんだろうとか考えてしまった(受験前の現実逃避ともいう)思い出の本です。


隠された十字架 法隆寺論

梅原猛(新潮文庫)

法隆寺に隠された色々な謎にについて論じた本。学校で教えられる聖徳太子像がガラッと変わる内容。漫画家の山岸涼子氏が『日出処の天子』を書くきっかけになった本とも言われている(両方読むとより楽しめる)。

高校2年生の日本史の授業で先生が「聖徳太子にはこんな話もあるねんで」と勧めてくれた本。物事は多面的であることや、仮説をどうやって立てて実証して人に伝えるかということを教えてくれた。もしかすると、途中から難しくて投げ出したくなるかもしれない(何度も読み返しているお気に入りの1冊だけど、高校の時は第2部の途中を飛ばして第3部を読み始めてしまった)。


はたらく細胞

清水茜(シリウスコミックス)

人間の免疫機構の基本的なことを細胞などを擬人化して面白おかしく解説した漫画。高校生物の免疫で、訳がわからなくなってきた頃に読むのがおすすめかもしれない。時々、ざっくり描かれすぎているところもあるので、その点を自分なりに調べると勉強も捗るかもしれない。

一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

英国。留学時代の知り合いが多いので楽しそう。最近は日本食材も手に入りやすくなって留学時代苦しんだ食料問題も解決でき、なんとか生きていけそうだから。

Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

大学生時代はFFVII(ゲームをやる時間はあまりなかったで、約1年がかりで全てのチョコボを揃えて大陸を制覇し、全メンバーをカンストさせ、武器やマテリア等を最強にしてセXロスを瞬殺しました)。最近は全くゲームをしていません(時々ソリティアなどのカードゲームくらい)。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

邦楽部と居合道同好会

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

最近、居合と杖道を再び稽古し始めました。色々忘れていてあたふたしています。