精神と物質 - 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか -
立花隆 利根川進(文春文庫)
私は現在、麻布大学の獣医学科や動物応用科学科の学生さんに免疫学を教えています。私のラボも免疫の研究を行っています。私は大学生のころは免疫とは別の分野のラボに所属していましたが、そのラボにこの本がありました。
体内に侵入した病原微生物それぞれに対して排除可能な抗体がどのようにして作り出されるのかという謎を実験により明らかにし、ノーベル生理・医学賞を受賞した利根川博士自らによる発見の経緯が、対談形式で書かれています。
2020年代とは環境や技術がまったく異なりますので、若い人たちにはわかりにくいかもしれませんが、まず仮説を産み出し、それを実験でどう証明していくかを考え、そして実験を行い結果を出して証明する・・ということが明確に描かれています。これらが生物現象の新たな知見を得ていくための根底にあり、最も大切であるということを感じ取ってくれればと願います。
イヌの安全な抗がん剤となる物質を発見、実用に向け日々奮闘

イヌにも飼い主さんに精神的な負担
みなさんはイヌやネコも「がん」になることをご存知でしょうか。
例えば、肥満細胞腫という、イヌでよく発生する皮膚のがんがあります。ネコでも発生しますが、ヒトではほとんど起こりません。状況によっては他の臓器などにも転移して死に至ることもあります。また、例えば、肢にがんが発生したとき、断肢という選択肢をとらざるを得ない場合もあり、イヌ自身だけでなく飼い主さんにとっても精神的な負担がかかります。既存の抗がん剤により治療できるケースもありますが、副作用や耐性などが完全に解決されているわけではありません。
ヒトのサプリメントのある物質が有用
私の研究室ではイヌのがんに対する治療方法の基礎的な研究を行っています。その中でヒトのサプリメントとして利用されているある物質が肥満細胞腫の細胞死を誘導することを見つけました。この物質はヒトのサプリメントとして市販もされていますので、安全な抗がん剤としての期待がもたれます。
しかし、いいことばかりではありません。サプリメントとして利用されているということは、この物質は細胞を元気に生きさせようという作用も持っているのです。この物質を抗がん剤として利用していくためには、この物質の「(がん)細胞に死を誘導する作用」を残して、「(がん)細胞を生きさせようとする作用」のみを抑える必要があります。
このあたりのことについてはまだまだ未知の状態であり、私の研究室ではこの「生と死の調節」がどういう仕組みでなされているのかについて研究を行っています。日々悩み、考え、試行錯誤・奮闘しています。

「ニコチンアミドによるイヌ肥満細胞腫の死と生のシグナルバランス制御の理解に向けて」


獣医学科および動物応用科学科の学部学生さんと博士前期課程の学生さんが所属しています。
二重らせん
ジェームス・D・ワトソン 訳:中村桂子、江上 不二夫(ブルーバックス)
たしか中学生のころにDNAを学びました。その際にDNAが二重らせん構造であることを明らかにしたクリック博士とワトソン博士お二人の写真も目にしました。これまでどのようにして遺伝情報が子孫に伝わるのか長年の謎が、DNAが二重らせん構造をしていることによりスムーズに説明がいく衝撃は大きかったです。発見当時ワトソン博士がまだ20代であったことも驚きであり、当時はすごく憧れました。
この本は私が高校生の頃に読んだのですが、ワトソン博士が自らDNAの構造解明研究を行っていた頃を回想して書かれています。この本を読んで大学では自分もDNAを扱ってみたい!と思うようになりました。
現在とは環境や技術が異なる70年も前の話ですが、それでも、若い人たちに手に取ってほしい本です。