金属・資源生産工学

結晶

結晶の研究を通し、エネルギーの未来を支える“次の材料”を生み出す


野瀬嘉太郎先生

京都大学 工学部 物理工学科 材料科学コース(工学研究科 材料工学専攻)

出会いの一冊

こんな研究で世界を変えよう!

結晶の研究を通し、エネルギーの未来を支える“次の材料”を生み出す

原子が整然と並んだ“単結晶”に感動

私の研究は、いろいろな元素を組み合わせて「新しい結晶」を育てることです。結晶とは、原子がきれいに並んだ固体で、塩やダイヤモンドもその仲間です。原料を真空のガラス管に入れて高温で溶かし、ゆっくり固める方法のほか、気体の状態から原子や分子を少しずつ積み重ねて結晶をつくることもあります。

どんな方法で育てるかによって、できる結晶の形や性質が変わるところが面白い点です。中に境目のない透明な氷のように原子が整然と並んだ“単結晶”が得られたときは本当にうれしく、何度見ても感動します。

金属で培った結晶づくりの知識が活きる

学生時代、私は鉄や銅などを扱う金属工学という伝統的な学問を学んでいました。そこで「溶かして固める」「組織を制御する」という考え方を身につけました。現在はその知識を活かし、3種類以上の元素を混ぜてつくる「多元系半導体」を研究しています。

多元系半導体の魅力は、元素の組み合わせだけでなく、結晶の中の“組織”にもあります。ここでいう組織とは小さな粒の並び方や異なる相の共存など内部の構造のことであり、これが結晶中の電子や熱の流れを左右します。金属で培った結晶づくりの知識が、最先端の材料開発にもつながっています。

得られた結晶は「創エネ材料」に

こうして得られた結晶は、太陽電池や熱を電気に変えるデバイスを支える「創エネ材料」として研究を進めています。どの元素を混ぜ、どんな組織を設計するかによって、エネルギーをどれだけ効率よく変換できるかが決まります。私は、こうした結晶の研究を通して物質の可能性を探り、エネルギーの未来を支える“次の材料”を自分の手で生み出したいと考えています。

(左)研究室で育成した化合物半導体SnSの単結晶。(右)SnSは2D化合物なので、単結晶をテープで剥離できます。
(左)研究室で育成した化合物半導体SnSの単結晶。(右)SnSは2D化合物なので、単結晶をテープで剥離できます。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

中学のころはむしろ歴史が得意でした。大学に進んでからも実験はあまり好きではなかったのですが、4年生になって自分の手で材料をつくるようになり、材料科学の面白さに気づきました。大学院に進んだ1年目には、基礎から学び直しながら研究にのめり込んでいきました。熱心に指導してくれた研究室の先輩の影響も大きかったと思います。

学生時代は金属材料を扱っていましたが、就職を機に半導体分野に移り、学生時代に学んだ知識と現在の研究が融合して、今のテーマにつながっています。振り返ってみると、若いころは興味が変わることを恐れず、思い切って新しいことに挑戦する勇気が大切だと思います。

自身のベンチャー企業との共同で作製した化合物半導体薄膜です。半導体の性質によって、青や緑の光は吸収し、赤い光が透過して見えます。このように光を吸収する性質は、太陽電池の性能にとってとても重要です。
自身のベンチャー企業との共同で作製した化合物半導体薄膜です。半導体の性質によって、青や緑の光は吸収し、赤い光が透過して見えます。このように光を吸収する性質は、太陽電池の性能にとってとても重要です。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「低融点金属液相を反応場とした半導体気相成長プロセスの開拓」

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石英管をバーナーで加工しているところ。我々の研究では必須の技術です。
石英管をバーナーで加工しているところ。我々の研究では必須の技術です。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 半導体・電子部品・デバイス

(2) セラミクス、ガラス、炭素

(3) 非鉄

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

PVU -PhotoVoltaics University−太陽光発電大学

峯元高志(YouTube)

太陽電池やエネルギー変換の基礎から最前線までを、研究者がわかりやすく解説しているYouTubeチャンネルです。実際の太陽電池の構造や材料開発の考え方、最新の技術動向(ペロブスカイト、CIGS、シリコンタンデムなど)も取り上げられており、映像を通して「エネルギーを生み出す材料の科学」に触れることができます。

[webサイトへ]


下町ロケット

池井戸潤(小学館文庫)

池井戸先生の本が元々好きなのもありますが、小さな工場の技術が最先端のロケットに活かされる物語は、モノづくりの情熱が科学を支えていることに深く感銘を受けます。特に、金属の研磨の重要性を語る場面が印象的で、学部実験や研究室でも共感します。


天野先生の「青色LEDの世界」 光る原理から最先端応用技術まで

天野浩、福田大展(ブルーバックス)

2014年に青色LEDでノーベル物理学賞を受賞された天野浩先生の著書。膨大な実験の中からセレンディピティ的に生まれた低温バッファー層の発見をはじめ、結晶成長の工夫が世界を変えたことがわかります。


沈まぬ太陽

山崎豊子(新潮文庫)

高校生には少し重たいテーマかもしれませんが、理不尽な中でも信念を貫く人間を描いた物語です。背景の航空機事故は、私が小学生のときに起きた出来事で今も記憶に残っています。研究でも新しい考えは時に否定されますが、真理を信じて貫く姿勢が大切だと感じます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

考古学:歴史も好きなので。文理融合な分野であることも魅力的です。

Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

桃鉄:地理をこれで学んだので、地方に出張に行ったときなど、名物がすぐにわかります。

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

ゴルフ:スイングを自分なりに工夫したり、コースの戦略を考えるところは研究に似ているところがあります。

Q4.好きな言葉は?

人間生きていれば、なんとかなる


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