建築史・意匠

近代建築史/建築保存再生論

近代建築の歴史的価値を特定し、その価値を守り活かしながら保存再生


笠原一人先生

京都工芸繊維大学 工芸科学部 デザイン・建築学課程

出会いの一冊

訪ねてみよう 戦争を学ぶミュージアム/メモリアル

[記憶と表現]研究会(寺田匡宏+笠原一人)(岩波ジュニア新書)

日本や海外の戦争の記憶を伝えるミュージアムやメモリアル(記念碑)を紹介し、その展示や表現が意味すること、その記憶の伝え方を考察した中高校生(ジュニア)向けの書籍です。私(笠原)は主に、建築やメモリアルを担当しています。

建築は機能性や合理性、快適性、性能を追求するだけのものではありません。建築は常に時代の産物であり、設計者や施主などの個性が表れます。建築とは常に表現物なのです。メモリアルもまた、出来事の記憶を伝える表現物です。本書では、メモリアルが何をいかに表現しているか、読み解いています。

戦争という負の出来事や記憶の伝え方を扱っているだけでなく、表現物としての建築を理解するための入門書だと言えます。

こんな研究で世界を変えよう!

近代建築の歴史的価値を特定し、その価値を守り活かしながら保存再生

日本近代を代表する建築家・村野藤吾を再評価

私は建築史の研究を行っています。特に近代建築史、中でも日本近代を代表する建築家・村野藤吾について重点的に研究しています。村野は1920年代から80年代まで大阪を拠点に活躍し、文化勲章まで受章した建築家です。しかし同時代の建築家・丹下健三らモダニスト(近代主義者)が主流をなす時代にあって、十分に評価されていませんでした。

しかし私が勤務する京都工芸繊維大学美術工芸資料館が収蔵する村野作品の5万点以上におよぶ図面資料を用いた研究により、村野の思想や発想、デザインの豊かさが詳細に明らかになってきました。

2025年にはフランスのパリで、海外で初めての村野についてのシンポジウムが開催され、私も登壇しました。村野は世界でも評価される存在になりつつありますが、それこそ私たちの研究の成果です。

歴史的建築物のリノベーションの理念と方法を考える

私は建築保存再生論という分野も専門としています。前述の建築史研究で特定した建物の歴史的価値をしっかり保ちつつ、耐震性や機能性を現代に合うものに高めるリノベーションの理念や方法を研究する分野です。

いわゆる近代建築は、社会では歴史的価値があまり認識されておらず、経済活動が盛んな都市部に建っていることが多いため、壊されることが多いのです。しかし、近代建築はすでに100年以上の歴史を持ち、現在の社会を支える重要な存在です。近代建築も歴史的建築物として、その価値を評価し残していく必要があります。

そのための理念や方法を様々な視点から検討し、新旧の価値の共存を図ろうとしています。それによって様々な時代の建物が層をなし、人間の生活環境を豊かにすることに繋がります。

2025年2月にフランスのパリ日本文化会館で開催された、建築家村野藤吾についてのシンポジウム「L’énigme Tôgo Murano」の座談会の様子です。建築家の隈研吾氏や村野藤吾の孫の村野朋子氏、アバロス村野敦子氏らとともに私(笠原)も、講演と座談会に登壇しました。私の講演では、村野藤吾の作品の豊かさや多彩さを紹介し、それらが日本の伝統的な和風建築である「数寄屋」の方法に支えられていることを指摘しました。海外での初めてとなる村野藤吾についてのシンポジウムでしたが、会場は200名以上の聴衆で満席状態。座談会後、現地のフランス人などから質問がたくさん出て、関心の高さが感じられました。
2025年2月にフランスのパリ日本文化会館で開催された、建築家村野藤吾についてのシンポジウム「L’énigme Tôgo Murano」の座談会の様子です。建築家の隈研吾氏や村野藤吾の孫の村野朋子氏、アバロス村野敦子氏らとともに私(笠原)も、講演と座談会に登壇しました。私の講演では、村野藤吾の作品の豊かさや多彩さを紹介し、それらが日本の伝統的な和風建築である「数寄屋」の方法に支えられていることを指摘しました。海外での初めてとなる村野藤吾についてのシンポジウムでしたが、会場は200名以上の聴衆で満席状態。座談会後、現地のフランス人などから質問がたくさん出て、関心の高さが感じられました。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

中学生の頃に、白井晟一という著名な建築家の建築作品を見て感動し、建築家を志しました。大学時代は、安藤忠雄や原広司、磯崎新といった著名な建築家の事務所でアルバイトしたりしました。

しかし、次第に建築を論じることの面白さ、歴史を繙いて建築家や建築の特徴を捉えて行くことの面白さに目覚め、近代建築史研究に取り組むようになったのです。また2010年から1年間、歴史的建築物のリノベーションや保存再生の先進国オランダでの在外研究を経験し、日本でも建築の保存再生学を構築する必要があると考え、こちらにも取り組んでいます。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「村野藤吾による戦中期および終戦直後の建築活動についての研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
京都工芸繊維大学では、2020年度より、社会人講座「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」を開催しています。歴史的建築物の活用や改修、リノベーションの設計者などを養成する、日本で初めての講座です。約半年間かけて、歴史的建築物の活用や改修、リノベーションのための理念や方法を学びます。建物の調査、マネジメント、構造、技術、法規、デザインなどについての「講義」と、京都市内の実際の近代建築を選び、改修設計を行う「プロジェクト」から成っています。東京を含む北海道から九州まで、全国各地から受講生が参加しています。写真は、その講座の改修の対象となる1915年に建設された京都市考古資料館(旧西陣織物館)の見学会で、私(笠原)が建物について解説している様子です。
京都工芸繊維大学では、2020年度より、社会人講座「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」を開催しています。歴史的建築物の活用や改修、リノベーションの設計者などを養成する、日本で初めての講座です。約半年間かけて、歴史的建築物の活用や改修、リノベーションのための理念や方法を学びます。建物の調査、マネジメント、構造、技術、法規、デザインなどについての「講義」と、京都市内の実際の近代建築を選び、改修設計を行う「プロジェクト」から成っています。東京を含む北海道から九州まで、全国各地から受講生が参加しています。写真は、その講座の改修の対象となる1915年に建設された京都市考古資料館(旧西陣織物館)の見学会で、私(笠原)が建物について解説している様子です。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 建設全般(土木・建築・都市)

(2) 不動産、賃貸・リース

(3) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 製造・施工

(3) 技術系企画・調査、コンサルタント

◆学んだことはどう生きる?

建設会社や設計会社、設計事務所などで、建築物の設計や建設の仕事に携わっている人が多いです。近年、日本でも歴史的建築物の活用や改修、リノベーションの事例が増える中で、私の専門領域は、重要な位置を占め始めています。

リノベーションの対象となる建物の歴史を調査して歴史的価値を解き明かし、それを踏まえた上で、その価値を十分に残しながら、機能性を改め高めるような活用や改修、リノベーションが求められます。その際、建築史研究と建築保存再生論の、両方の知識やノウハウが必要になるのです。

先生の学部・学科は?

建築の設計教育と歴史研究、また保存再生学については、日本で最も盛んな大学です(世界的にも有数です)。もちろん建築構造学や環境工学、建築計画学などの分野も最先端の研究者が揃っていますが、他大学では、設計教育と歴史研究、また保存再生学の研究者や教員が一番少ないのですが、京都工芸繊維大学はこの分野が最も充実しています。

社会の第一線で活躍している卒業生も多いです。特に、建築家や建築士になりたい人、建築の歴史や文化財、保存再生、リノベーションに関わりたい人には、ぜひ目指してほしいと思います。

京都工芸繊維大学では、2015年より、大学院修士課程に「建築都市保存再生学コース」を設置し、教育に取り組んでいます。歴史的建築物の活用や改修、リノベーションの設計者などの養成を目的とした、学生向けとしては日本で初めての専門的な講座です。学生は、1年間かけて、歴史的建築物の調査や、活用、改修、リノベーションのための理念や方法を学びます。歴史的建築物の保存や活用のための理念や方法、マネジメント、構造、技術、法規、デザインなどをテーマとする「特別講義」と、京都市内の実際の近代建築を選び、チームに分かれて改修設計を行う「プロジェクト」から成っています。写真は、1916年に建設された旧山口銀行京都支店を対象とした、ある学生チームの改修設計の模型です。
京都工芸繊維大学では、2015年より、大学院修士課程に「建築都市保存再生学コース」を設置し、教育に取り組んでいます。歴史的建築物の活用や改修、リノベーションの設計者などの養成を目的とした、学生向けとしては日本で初めての専門的な講座です。学生は、1年間かけて、歴史的建築物の調査や、活用、改修、リノベーションのための理念や方法を学びます。歴史的建築物の保存や活用のための理念や方法、マネジメント、構造、技術、法規、デザインなどをテーマとする「特別講義」と、京都市内の実際の近代建築を選び、チームに分かれて改修設計を行う「プロジェクト」から成っています。写真は、1916年に建設された旧山口銀行京都支店を対象とした、ある学生チームの改修設計の模型です。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

人類と建築の歴史

藤森照信(ちくまプリマー新書)

建築の歴史を人類の始まりから説いた稀有な書籍です。通常、建築の歴史は、紀元前数千年頃から書き始められるものですが、本書では、紀元前100万年ぐらいから紀元頃までの歴史の記述が大部分を占めています。建築は人類の営みと共に始まるので、当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、これまでそれを当たり前と捉えた人はおらず、そもそも史料もほとんどないため、大きな「謎」となっていました。しかしそれを藤森先生が読み解き、語ってくれています。

「歴史」というものは、中学や高校で習うような事実の羅列によるのではなく、想像力と創造力に支えられた壮大な物語であることを実感させてくれます。


モダン建築の京都100

石田潤一郎、前田尚武:編(ECHELLE-1)

京都で明治期以降に建設された近現代建築を意味する「モダン建築」100件を取り上げ、写真や資料を多用しながら建物を紹介する書籍です。私(笠原)も執筆しています。

京都は「古都」のイメージが強く、江戸時代までの神社仏閣が観光名所となっていることが多いです。しかし明治以降の近代になると、西洋建築が伝来し多数の洋風建築が建設され、伝統的な日本建築も洋風化や近代化が進んでいきます。その混ざり合いが面白いのですが、そんな京都に現存する優れた近代建築やモダン建築を紹介しています。

所在地を示すマップも載っていますので、現地に行き実物を見ながら建物の歴史や特徴を理解することができます。この本を持って京都の街を散策し、「モダン建築の京都」を楽しんでみてください。


村野藤吾建築案内

村野藤吾研究会:編(TOTO出版)

戦前1920年代から戦後1980年代まで大阪を拠点として活躍し、文化勲章まで受章した建築家・村野藤吾(1891-1984)についての建築ガイドブックです。私(笠原)も執筆しています。村野の作品が建物の種別(ビルディングタイプ)ごとに分類され、解説付きで掲載されています。作品の所在地がわかるマップ付きです。

村野藤吾は、近年再評価が進み、大変人気の高い建築家となっています。しかしその作品の多彩さや豊かさは、訪問してようやく理解できるものだと言えます。ぜひ本書を持って全国を旅し、村野の豊かな建築世界に触れ、楽しんでほしいと思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

建築

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

オランダです。性差関係なく平等で、働く人にとっての環境が充実しており、歴史的建築物の保存再生やリノベーションが盛んで豊かな生活環境が整っているからです。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

建築家の安藤忠雄や磯崎新、原広司の設計事務所や現場事務所でアルバイトしたこと

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

展覧会巡りや旅行