通信・ネットワーク工学

ワイヤレス通信

「いつでもどこでもつながる」ための多段階協調中継通信の開拓


井田悠太先生

山口大学 工学部 知能情報工学科(大学院創成科学研究科)

出会いの一冊

図解でわかる!モバイル通信のしくみ

神崎洋治、西井美鷹(日経BP社)

この本では、いまや世界中の多くの人々が持つスマートフォンなどで広く利用されているLTEや5G、Wi-Fiといった近年の通信サービスや技術がどのようなものか、またどのようなサービスが提供されているのかが紹介されています。

さらに、私の研究テーマでもある通信システムの信号処理や通信路についても触れられています。専門用語が多いため、初めて読む方は少し難しく感じるかもしれませんが、通信の流れが多くの図を用いて解説されているので、現在の通信の仕組みを理解する手がかりになると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

「いつでもどこでもつながる」ための多段階協調中継通信の開拓

情報を別の場所へ届ける仕組み

通信システムを簡単に言うと、情報をある場所から別の場所へ届ける仕組みです。その形態は、会話や手紙といった昔からのものや、電話、メール、SNSなど現代の手段まで多岐にわたります。

かつて会話は直接会う必要があり、電話も場所が限られていましたが、今ではスマートフォンなどのモバイル機器を使い、世界中どこでも情報をやり取りできます。私は、このような「いつでもどこでもつながる」ワイヤレス通信の研究に取り組み、近年は多段階協調中継通信に焦点を当てています。

通信性能を向上させるには、通信路がカギ

IoTや5G以降の社会では、多数の機器を相互に接続する通信システムが求められています。多段階協調中継通信は、隣接する機器の協調や、送受信局間に中継局を設けることで通信性能を向上させます。ただし、その性能を十分に引き出すには、機器間を結ぶ「チャネル」と呼ばれる通信路の状態を把握し、その特性を活かすことが不可欠です。

信号が遅れて届く「マルチパス」現象も

ワイヤレス環境のチャネルには有線のようなケーブルがないため、信号は直接届く場合もあれば、建物などに反射して遅れて届く場合もあります。この現象は「マルチパス」と呼ばれ、やまびこのように音が遅れて届く現象にたとえるとわかりやすいでしょう。また、周波数の観点では異なる変動が現れ、さらに各機器は独立しているため、チャネルの状態は環境ごとに存在します。

そこで、私が現在進めている多段階協調中継通信の研究では、これらのチャネル特性を活用し、最適な信号構築による新しい情報伝送手法を検討し、柔軟かつ高精度な通信システムの実現を目指しています。

RapLabというソフトウェアを用いて、ワイヤレス通信のチャネルをシミュレーションしたものです。ここで示されているのは「マルチパス」と呼ばれる現象で、送信局と受信局の間のチャネルは、直接届く経路だけでなく、壁や柱に反射して届く経路が存在することがわかります。
RapLabというソフトウェアを用いて、ワイヤレス通信のチャネルをシミュレーションしたものです。ここで示されているのは「マルチパス」と呼ばれる現象で、送信局と受信局の間のチャネルは、直接届く経路だけでなく、壁や柱に反射して届く経路が存在することがわかります。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校時代には、数学や物理でサインやコサインなどを学び、数式によってさまざまな現象を表現できることに興味を抱きました。大学ではその関心を深め、4年生のとき、研究室への配属後に指導教員から与えられた「無線信号の超遅延に対する補償」に関する研究テーマをきっかけに、現在の研究分野に進みました。

こうした背景のもと、現在取り組んでいる通信方式の研究では、信号をいかに効率的に大量に送信し、かつ誤りなく受信するかという手法を創出する点に魅力を感じています。

USRPと呼ばれるソフトウェア無線機を用いた伝送実験の様子です。
USRPと呼ばれるソフトウェア無線機を用いた伝送実験の様子です。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「時間-周波数チャネル学習による多段階協調中継通信の信号構築」

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先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室のゼミの様子です。参加者はノートパソコンで資料を閲覧し、Zoomを用いたハイブリッド形式で学外の方も参加しています。
研究室のゼミの様子です。参加者はノートパソコンで資料を閲覧し、Zoomを用いたハイブリッド形式で学外の方も参加しています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 通信

(2) コンピュータ、情報通信機器

(3) ソフトウエア、情報システム開発

◆主な職種

(1) システムエンジニア

(2) 設計・開発

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

山口大学工学部知能情報工学科は、2026年4月に情報学部情報学科として生まれ変わります。新しい情報学部では、これまでの情報システム分野に関連する「システム情報学」と人工知能分野に関連する「知能情報学」に加え、リモートセンシングや地理情報システムに関連する「空間情報学」、さらにマルチメディア情報処理や認知科学に関連する「人間情報学」が新たに加わります。これにより、情報専門技術の深い知識に加えて、複数分野にまたがる横断的な学びを身に付けることができます。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

十二国記

小野不由美(新潮文庫)

古代中国を思わせる異世界を舞台にした物語です。好きな世界観で内容がおもしろく、大学時代には何度も読み返しました。小説はシリーズ化されており、過去にはNHKでアニメ放送もされました。


「電波と光」のことが一冊でまるごとわかる

井上信雄(ベレ出版)

ワイヤレス通信は、情報を電波に乗せて送信局と受信局の間でやり取りします。その電波についてわかりやすく解説されており、高校で学ぶ物理の知識でも理解できる内容になっています。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

量子力学、暗号化技術

Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

モンスターハンターポータブル 2nd G

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

今も昔も阪神タイガースのファンです

Q4.好きな言葉は?

継続は力なり


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