ナノ構造化学

分子の結晶

分子たちは狭い結晶の中、どうすれ違って入れ替わるのか


太田俊先生

弘前大学 理工学部 物質創成化学科(理工学研究科)

出会いの一冊

あれもカガク、これもカガク サクッと錯体

中沢浩、西原康師、長谷川靖哉(化学同人)

私の専門分野は錯体化学です。錯体は、私たちの生命活動や豊かな暮らしなど、とても身近なところで活躍しているのですが、残念ながら、錯体の存在は、ほとんど知られていません。これは多くの錯体化学者にとって共通する課題だったと思いますし、私自身もオープンキャンパスで「錯体って何?」というタイトルで展示をしていたこともあります。この書籍では、そんな錯体について、わかりやすく解説しています。

こんな研究で世界を変えよう!

分子たちは狭い結晶の中、どうすれ違って入れ替わるのか

分子がつくる結晶の構造や機能

高校化学の教科書によると、物質を構成しているそれ以上分けることができない最小の粒子を「原子」といいます。この原子が、いくつか結びついてできた粒子が「分子」であり、代表的なものに水分子などがあります。

私たちは、分子がつくる結晶(粒子が規則正しく並んでいる固体)の構造や性質、機能について研究を行っています。

50年以上前から知られている謎

分子の結晶の中には、とても小さな「トンネル」のような空間ができることがあります。そのトンネルの中には、ゲストと呼ばれる別の分子が入っているのですが、このゲストは、他のゲストと入れ替わることがあります。

最近、私自身の作った結晶でもその現象を観察しましたが、「トンネルがびっしりゲストで埋まっているのに、どうしてすれ違って入れ替われるのか?」という疑問が湧きました。ゲストが置き換わる現象は、50年以上前から知られています。しかし、どの文献を調べても、明確な説明は見つかりませんでした。

分子たちも「どうよける?」かうかがっている

私は、この疑問に対して「どのようにゲストが入れ替わっているのか」、そしてそのとき「分子たちはどんな構造・状態になっているのか」を知りたいと考えています。

みなさんも、学校の狭い廊下などで人とすれ違う時、「どうよける?」的に相手の動きをうかがったり、肩をすぼめたり、体をひねったりしますよね。ゲストとなる分子たちもそんなふうに普段とは違う姿をみせてくれるかもしれない。そう思うととてもワクワクします。

グローブボックスを使った作業。空気中の酸素や水分と反応してしまう分子は、この中で取り扱います。
グローブボックスを使った作業。空気中の酸素や水分と反応してしまう分子は、この中で取り扱います。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

元々は「混ぜると色が変わる」という現象への興味から化学が好きになりました。その後、学生時代に配属された研究室で単結晶X線結晶構造解析という手法に出会ったことにより、観測される現象を分子レベルで説明することに興味の対象が変わっていき、現在に至ります。

単結晶X線構造解析装置。この装置で結晶中の構成成分の構造とその配列を調べます。最近、装置が更新され、性能が格段に向上しました。
単結晶X線構造解析装置。この装置で結晶中の構成成分の構造とその配列を調べます。最近、装置が更新され、性能が格段に向上しました。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「水素結合性有機構造体のゲスト交換機構の解明」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
実験室の様子。まずはここでオリジナルな分子を合成するところから研究が始まります。
実験室の様子。まずはここでオリジナルな分子を合成するところから研究が始まります。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) その他の化学系

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

◆学んだことはどう生きる?

私の研究室で、分子結晶の研究の黎明期を支えてくれた学生さんは、在学時代、特許を2件出願し、その経験も活かして、現在、化学系メーカーで、悪臭成分などを吸着する材料の開発業務に携わっています。

学生時代の研究テーマをそのまま活かせる職種につくことが果たして本当に良いのか、私自身少し疑問もありますが(学生時代の経験を他分野に応用した方がイノベーションを起こしやすいのではないかとも思います)、私の研究室での経験が卒業後の活動に活かされた好例かと思います。

先生の学部・学科は?

教授から助教まで全員が研究室を主宰している点に特徴があります。最近では、若手も研究室主宰者とする気運が全国的に高まりつつありますが、私の所属学科では、1997年10月以降、このシステムで運営されています。

そのため、若手教員の研究室へ配属された学生さんは、研究の黎明期に、まさにゼロから1を立ち上げる瞬間に立ち会えるチャンスがあるのではないでしょうか。 指導経験の少なさが懸念されるかもしれませんが、メンター教員がつくので、若手の研究の自由度は保ちつつ、学生指導へのアドバイスが受けられる状況になっています。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

理系大学生活ハンドブック

原田淳(化学同人)

理系学部の新入生向けに書かれています。受験勉強の気分転換に「大学へ入ったら自分もこんな感じで過ごすのかな?」と思いを巡らすのに最適な一冊です。


ドラゴンクエスト ダイの大冒険

三条陸・稲田浩司(集英社文庫(コミック版))

ストーリーの完成度も高く、素晴らしい漫画ですが、ここでは、ポップという魔法使いの成長に着目してほしいです。呪文という専門分野を突き詰めた先にある景色は、研究者が見ているものに通じるところがあると感じます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

戦国史。中高生の時は、戦国史の研究もしたいと思っていました(兵法論が好き)。学び直すならこちらかな、と。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

ドイツ。博士課程在学中と博士研究員時代に2回留学しましたが、考え方が自分と近くて、住みやすかったためです。ビールが安くて美味しいです。

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

将棋。地道にオンライン対戦やアプリで鍛えています。娘と近所の道場に通っていたこともあります(最近、行けてないですが...)。中継を観るのもおもしろいです。

Q4.好きな言葉は?

"当たりが入っているクジを全て買えば、必ず当たりをひける”
"仕事量 = 効率×時間"
"Think simply"
"ただ新しいものを作っただけじゃダメ。新しい機能も引き出しなさい"
全て、研究活動でお世話になってきた先生からいただいた言葉です。研究に対する私の向き合い方の礎になっています。


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