左右非対称な生命の謎に迫る
左右の非対称性の原因は分子構造にある
私たちの体は一見左右対称に見えますが、実際には、心臓が左側にあったり、右利きの人が多かったりすることから、左右非対称であることがわかります。このような左右の非対称性の原因の一つに、生物を構成する分子の構造があります。
生物を構成するアミノ酸や糖、リン脂質の多くは、左右非対称な構造を有する「キラル化合物」であり、生物の体内では右型か左型のいずれか一方に偏っています。
タンパク質もDNAも右巻き
たとえば、人の体を構成するタンパク質は、20種類のアミノ酸が連なってできていますが、そのうちグリシンを除く19種類が「左型」のアミノ酸です。タンパク質は、αヘリックス構造と呼ばれるらせん構造を形成する場合があり、どのらせん構造にも「右巻き」と「左巻き」がありますが、αヘリックス構造は、一般的に「右巻き」のらせんを形成します。遺伝子を司るDNAも「右型」の糖を含み、「右巻き」の二重らせん構造をしています。
「なぜ生物の体内では分子が左右いずれか一方に偏っているのか?」という問いは生命ホモキラリティーの謎と呼ばれ、未解明の研究テーマです。現在の研究では、自然界で生じたわずかな偏りが、何らかの仕組みによって増幅され、このような非対称性が形成されたと考えられています。
右型と左型で作用が異なる
キラル化合物は、医薬品や香料、甘味料、除草剤などにも見られます。特に医薬品では、右型と左型で作用が異なることがあり、代表例として、サリドマイドが挙げられます。サリドマイドは、右型は鎮静・催眠薬作用を持ちますが、左型は胎児に悪影響を及ぼすことが知られています。
そのため、左・右いずれか一方の化合物を選択的に合成する「不斉触媒」や、左右の構造が混ざったもの(ラセミ体)からそれぞれを分離する「光学分割剤」、左右の偏りを可視化する「キラルセンサー」などの技術が求められています。私はこれらの分子の合成や理論的解析に取り組んでいます。
私は大学生の時は教養学部に所属し、生物・化学・物理のうち、何を専攻するか迷っていました。中でも化学は「目に見える物質の形や性質を、分子レベルで理解・説明できる点」に魅力を感じていました。
ある授業で右型と左型のアスパラギン酸の味を比べる機会があり、右型と左型で味が異なることに驚いた経験が、化学への関心を深めるきっかけとなりました。学部4年生の卒業研究でキラリティーに関するテーマを選んで以来、キラル化合物の合成・分離・検出や、それに関連した理論の構築に取り組んでいます。
「不斉環境への応答性を有する二次元分子集合体の機能発現と理論解析」
◆主な業種
(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品
(2) その他の材料・製品
(3) 自動車・機器
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 生産管理・施工管理
(3) 法務、知的財産・特許、その他司法業務専門職
◆学んだことはどう生きる?
私の所属研究室の卒業生のうち、約8割は大学院に進学し、専門性をさらに深めています。大学院修了後は、高分子に関連した製造業に就職する方が多く、研究開発や品質管理などの業務に携わり、学部・大学院で培った知識や技術を活かして活躍しています。
特に、研究活動を通じて身につけた「誰も答えを知らない問題に対してアプローチする力」や「論理的に研究を進める力」は、業務の中で課題解決に役立ちます。一方で、特許関連業務やシステムエンジニア(SE)として活躍する卒業生も1〜2割程度おり、研究室での経験が異なる分野でも活かされています。
神戸大学工学部応用化学科の特色は、化学工学と物質化学の両分野を、基礎から応用まで体系的に学べる点です。分子の性質を理解して新しい材料をつくる物質化学と、それを効率よく生産する技術を学ぶ化学工学の双方を学ぶことができる数少ない学科です。
ここでは、社会に役立つ技術の開発はもちろん、現時点では用途が未確定ながら、将来的な応用が期待される新しい物質を生み出す研究にも挑戦できます。理科の幅広い知識を活かしながら、革新的な材料や技術の開発に挑戦できる学びの場です。
身の回りの製品には、左右非対称なものはどんなものがあるでしょうか?たとえば、印字のないピンポン玉は丸くて左右の違いはありません。一方、野球のグローブは右手用と左手用があります。では、バイオリンはどうでしょうか?左右の形や使い方に違いはあるのでしょうか?メガネは?自動販売機は?
身の回りの製品が、なぜそのような形になっているのかを考えてみると、使う人の体の動きや目的に合わせた工夫が見えてくるかもしれません。
| Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 物理学を学びたいです。化学では新しいものを「創る」ことが多い一方、物理は不思議な「原理」を数学を使って解明します。化学に関連する現象でも、複雑でよくわからない現象と遭遇することがあり、物理学をより深く学べればもっといろいろなことを解明できると感じます。 |
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| Q2.大学時代の部活・サークルは? 吹奏楽部でユーフォニウムやチューバなどの金管楽器を吹いていました。地道な基礎練で培われた忍耐強さは研究にも活かされていると感じます。 |
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| Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 授業の課題で、学生さんに「不思議だと思ったこと」、「素朴な疑問」を書いてもらっています。それを読むと、「確かに!なんでだろう?」と思うことが沢山あり、それについて学生さんと一緒に考えるは楽しみの一つです。 |
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| Q4.好きな言葉は? ふしぎだと思うこと これが科学の芽です |

