医療技術評価学

失明疾患

視力を失った患者さんの視覚機能の再建を目指す


野村修平先生

帝京大学 福岡医療技術学部 医療技術学科

出会いの一冊

私たちは電気でできている 200年にわたる生体電気の研究の歴史と未来の展望

サリー・アディー 飯嶋貴子:訳(青土社)

生体のすべての細胞が電気を帯びているという驚きの事実を出発点に、その発見の歴史と未来の可能性を概説した一冊です。

物理学者ガルバニのカエル実験から始まった「生体電気」の研究は、人工記憶や感覚器インプラントなど最先端の医療応用へと広がっています。生命の神秘に触れながら科学の面白さと未来の可能性を実感できる入門書です。

こんな研究で世界を変えよう!

視力を失った患者さんの視覚機能の再建を目指す

網膜の細胞が壊れると視力を失う

光を当てると分子が形を変えて神経の働きを制御する——まるで小さなスイッチのように働く不思議な化合物があります。私はこのような化合物を利用して、失われた視覚機能の再建を目指す研究に取り組んでいます。

私たちが外界の物や景色を認識できるのは、目の奥にある光センサー「網膜」の働きによるものです。光は網膜で電気信号に変換され、脳へ伝わることで視覚として認識されます。しかし、網膜の細胞が壊れると光を感じられなくなり、「失明」の状態になってしまいます。

たとえば網膜色素変性症や加齢黄斑変性症が代表的な疾患で、いまだ有効な治療法がありません。視力を失った患者さんにとって、視覚機能を再建する技術の実現は大きな希望となります。

患者さんの身体的負担を抑えた再建技術

この課題に対し、再生医療や遺伝子治療、人工網膜(目に埋め込み、網膜の働きを代替する医療機器)など、多様な研究が進められています。私はその中で「光薬理学」という方法に注目しています。

光に応答して形を変える化合物を網膜に届け、残された神経に光の信号を伝えることで視覚機能の再建を目指す技術です。細胞移植や遺伝子改変を必要とせず、人工網膜のように体内に機器を埋め込む手術も不要で、患者さんの身体的負担を抑えられます。

ヒトの感覚機能は精妙で神秘的です。その仕組みをひも解き、そこで得られた知見によって科学技術や医療技術の発展に貢献できることが研究の魅力だと感じています。

化学実験(有機合成)。原料や触媒となる試薬を添加し、特定の条件下で化学反応させることで目的の化合物を合成します。
化学実験(有機合成)。原料や触媒となる試薬を添加し、特定の条件下で化学反応させることで目的の化合物を合成します。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「失明疾患への治療応用を目指した光薬理学的網膜刺激法による神経応答様態の評価」

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微細な電極の上に播種した培養細胞の様子を確認しています。
微細な電極の上に播種した培養細胞の様子を確認しています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 病院・医療

(2) 医療機器

◆主な職種

(1) その他医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士等)

(2) 保守・メインテナンス・維持管理、運用・システムアドミニストレータ・サービスエンジニア

(3) セールスエンジニア・技術営業

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

私たちはなぜ外界の景色を「視覚像」として認識できるのでしょうか。

目に入った光は網膜で処理され、神経電気信号に変換されます。その信号は視神経や外側膝状体を経て大脳の視覚野に届き、はじめて景色として「認識」されます。では、この流れの中でどのような細胞や物質が働いているのでしょうか。

視覚情報の伝達と処理の仕組みを調べることで、ヒトの感覚機能の精妙な働きとその神秘に触れることができます。

中高生におすすめ

本当に感動する サイエンス超入門!人体最後の秘境 脳はどこまでわかったのか

河西春郎:監修(ニュートンプレス)

脳科学の基礎から最新研究までを、イラストとやさしい言葉でわかりやすく解説した入門書です。右脳と左脳の違いから「意識とは何か」という問い、さらにはブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の技術まで紹介されています。脳の神秘と魅力を身近に感じられる一冊です。


神経とシナプスの科学 現代脳研究の源流

杉晴夫(ブルーバックス)

「神経科学」の土台がどのように築かれてきたのかを知ることができます。18世紀末に「生き物に電気が流れている」ことを発見した物理学者ガルバニの実験から、日本人研究者による大きな発見、そしてイオンチャンネルやシナプス研究の進展まで、科学者たちの挑戦が描かれています。


生体電気信号とはなにか 神経とシナプスの科学

杉晴夫(ブルーバックス)

脳や神経は「電気の流れ」で情報を伝達しています。その不思議な仕組みがどのように発見され、解き明かされてきたのかをたどる一冊です。

「流れないのに流れる電流」など、生体内で生じる不思議な現象が紹介されています。電気と生命が結びつく世界に触れることで、神経科学の魅力と研究の面白さを実感できます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

数学・物理学。理論系の学問や研究に取り組む際に役立ちます。

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

パッチ・アダムス。ユーモアと愛を重視した医療を実践する実在の医師をモデルにした映画。心温まるストーリーです。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

卓球部。相手との距離が最も近いネット競技で駆け引きの妙が魅力です。老若男女問わず楽しめます。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子育て。日々新たな発見・気づき・学びがあります。


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