治療時に血管にかかる力を視える化する

カテーテル治療時の血管への負荷
カテーテル治療は、患者さんの身体への負担が少ないため、ここ20-30年ほどで様々な病気で普及してきました。
カテーテル治療では、太ももの付け根などの皮膚を小さく切開して血管を露出させ、医療機器を格納した細い管を血管のなかを通して病変部に届けることで治療を行いますが、治療中にどれだけの力が血管にかかっているか確認する手段は確立していません。この課題に対し、私の研究では薄くて柔軟なセンサフィルムを使ってその力を計測しています。
きっかけは開発者だった自分のニーズ
もともと私は血管にできたコブ(動脈瘤)を治療するためのステントと呼ばれる筒状のメッシュのカテーテル機器の開発をしていたのですが、その開発のなかで「もっと血管のリスクが評価できる試験はないかなぁ」と思うことがあり、そのニーズを自分で解消しようとこの研究をはじめました。同じようなことをみんな感じていたのか、これまでにいろいろなお医者さんや医療機器メーカーさんと共同研究を進めています。
トレーニングシミュレータへ応用
最近では単に血管への力を測るだけでなく、センサフィルムがはじめから内蔵されたシミュレータ(模擬血管)の開発を進めています。センサを内蔵し誰でも簡単に血管への力が視えるようにすることで、若手医師の手術トレーニング(習熟度向上)や新たなカテーテルを開発する際に用いる評価システム(条件の最適化)へと活用できないかと考えています。

大学では機械系の学科で学んでいたのですが、漠然と「機械系の技術はほぼ成熟済みで、面白いことをするには他分野応用かなぁ」と考えていました。ちょうどiPS細胞などの再生医療ブームの時期ということもあり、医用工学の道に入りました。当時は人工血管やカテーテル機器の開発をしていて、そのときに開発者として「こんな評価技術があったらいいな」と感じていたことを、いまは自分で研究開発しています。
「血管への接触圧力分布を可視化するカテーテルシミュレータの開発」


◆主な業種
(1) 医療機器
(2) 自動車・機器
(3) 半導体・電子部品・デバイス
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 設計・開発
(3) 生産技術(プラント系以外)
◆学んだことはどう生きる?
医療機器メーカーで研究開発をしている学生がおり、いまはコイルと呼ばれる血管にできたコブ(動脈瘤)を詰めるカテーテル機器の開発を任されているそうです。私の研究室では血管に関する力学、特にカテーテル機器を使用したときに血管にどのような負荷がかかるかを研究しているので、安全な医療機器開発に活かしてもらえていたら嬉しいです。
弘前大学の機械科学科は2年生の後期から「知能コース」と「医用コース」に分かれ、一般的な機械系の学科に比べて医療への貢献や生命現象の解明に関係する先生がたくさんいます。「医療機器の開発/改良」や「VR/ARによる手術支援」、「ウェアラブルデバイスによる動作解析」や「細胞や生体分子に関した力学研究」など、機械の枠にとらわれず電子情報や生物にもまたがる研究を、多くの医師や医療機器メーカーの方々との共同研究によって実施しています。
「カテーテルの簡易通過性試験」
柔軟なチューブ(模擬血管)とさらに細い管や棒、ひもなど(模擬カテーテル)を準備し、曲がりくねった模擬血管のなかに模擬カテーテルを通してみましょう。模擬カテーテルが針金のように硬すぎると曲がった模擬血管の壁を突き刺してしまい、また、ひものように柔らかすぎると手元の力が先端まで伝わらず、カテーテルを深くまで到達させるには硬さ(コシ)の調整が重要であることがわかると思います。
人工臓器とは
日本人工臓器学会
医工学に携わるには、その名の通り、医療(対象/ニーズ)のことも工学(技術/シーズ)のことも考える必要があります。学会というと身近に感じられないかもしれませんが、日本人工臓器学会では多くの医療従事者や工学技術者が現在や未来の医療機器の開発や活用のために活動しており、この記事もヒトの臓器として使うにはどういう仕様を満たさないといけないからこういう技術が使われているということがわかりやすく紹介されています。
例えば、私が関係している循環器では、心臓はポンプで心臓弁は逆流防止弁、血管は配管というように、血液に関する水道設備であることがよくわかると思います。
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教科書
世の中には魔法のように見えるものや技術がたくさんありますが、ひも解いていくとその多くが単純な原理や現象から成り立っています。教科書はその基本をわかりやすく習得するための写真や図、文章などが非常にうまくまとめられています。問題をただ解けるだけではなく基本的な内容を「理解」することは、受験勉強のみならず大学や社会でのさらなる成長を促してくれると思います。
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Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? いまと同じく機械工学や医工学を学ぶ気もしますが、宇宙や発電、生物学など別のトピックの自然科学も面白いかもしれません。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 歴史や文化を感じる街並みが好きなのでヨーロッパで暮らしてみたいです。 |
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Q3.学生時代に/最近、熱中したゲームは? ファイナルファンタジーX。それまで家にはファミコンやゲームボーイしかなかったので、グラフィックの進化に「映画!?」と驚きました。 |
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Q4.大学時代の部活・サークルは? バスケットボールをやってました。 |
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Q5.好きな言葉は? よく学び、よく遊び、よく寝る |