環境リスク制御・評価

毒性リスク

複数の化学物質が同時に体に入ったら、体の中で何が起こる?


飯田緑先生

九州工業大学 情報工学部 生命情報工学分野

出会いの一冊

沈黙の春

レイチェル・カーソン 訳:渡辺政隆(光文社古典新訳文庫)

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、環境分野では定番の入門書です。化学物質の紹介から始まり、身近な生き物たちへの影響を、生物学者であるレイチェル独自の視点でつぶさに感じられる一冊となっています。

土壌・海洋・大気の汚染とその影響について、それぞれが短めの章でまとめられているので、気になる章から読んでみるといいかと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

複数の化学物質が同時に体に入ったら、体の中で何が起こる?

健康被害の懸念がある有機フッ素化合物

私が取り組んでいるのは、有機フッ素化合物(PFAS:ピーファス)と呼ばれる化学物質の健康への影響を調べる研究です。PFASは水や油をはじく性質があるため、フライパンのコーティングなど、身近な製品に広く使われてきました。

しかし分解されにくく、環境中や私たちの体に長く残ってしまうことが問題になっています。近年では、がんや免疫異常など、複数の病気との関連も報告されています。

実際は多くの化学物質に同時にさらされている

これまでの毒性学の研究は「ひとつの化学物質が、ひとつの病気にどう影響するか」を調べることが中心でした。でも実際の暮らしでは、私たちは多くの化学物質に同時にさらされています。

そこで私は、「複数の化学物質が同時に体に入ったとき、どんな仕組みで病気が引き起こされるのか」を、タンパク質など生体分子の関係性(ネットワーク)をもとに解き明かそうとしています。これは、ひとりの登場人物だけを追うのではなく、登場人物同士の人間関係や行動を読み解きながら物語の真相に迫る探偵のような研究です。

化学物質と健康の謎解き

この研究の面白さは、単に「危ない/安全」と判定するのではなく、化学物質と体内の分子の間で“どんな物語が展開して病気が生まれるのか”を描き出せる点にあります。その仕組みが明らかになれば、新しい予防法や治療法の開発、さらには化学物質の規制や使用量を考える上での大切な手がかりになります。

中高生の頃、私は推理小説に夢中でした。今はその延長線上で、化学物質と健康の謎解きという“科学の冒険”に挑んでいます。皆さんが抱く小さな疑問も、大冒険への入口です。さあ、一緒にその扉を開けてみませんか。

研究室のロゴ。点(ノード)と線(エッジ)で描き出された、魚型のネットワーク図となっています。研究室では、「世界は化学物質でつながっている」をテーマとし、化学物質の生体への影響を調べています。ロゴになっている魚類だけではなく、ヒト・ワニ・コウモリなどさまざまな生物を対象としています。
研究室のロゴ。点(ノード)と線(エッジ)で描き出された、魚型のネットワーク図となっています。研究室では、「世界は化学物質でつながっている」をテーマとし、化学物質の生体への影響を調べています。ロゴになっている魚類だけではなく、ヒト・ワニ・コウモリなどさまざまな生物を対象としています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は、小さい頃に水族館でイルカに触れ、鯨類の虜となりました。私の部屋の天井や壁・カーテンはすべてイルカ柄になっていたほどです。そのイルカたちを眺めながら、大学では何を学びたいのか、何ができるのかを考えていました。海洋生物学者、獣医師、イルカのインストラクター…、たくさんの選択肢が頭に浮かびましたが、いよいよ進路を決めなくては!という段階になり、彼らの住む環境を丸ごと改善できる、海洋環境汚染の研究ができる大学へ行こうと思いました。

大学では、環境毒性学という学問と恩師に出会い、「環境中に放出された化学物質の生物への影響を調べる」という大きなテーマを研究テーマとして掲げるようになりました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「毒性発現機序を考慮したPFASの複合疾患に対する毒性リスク評価手法の開発」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
居室の棚を組み立てる2期生。新設の研究室なので、居室を自分たちで作るところから始まりました。ゼミ生たちの相棒は、好きなカラーのiMacと同じ色の椅子、ノートパソコンの3つです。好きな場所にノートパソコンを持っていって、研究をすることもできます。研究に疲れたら、手前のフットレスト&椅子を使って休みます。
居室の棚を組み立てる2期生。新設の研究室なので、居室を自分たちで作るところから始まりました。ゼミ生たちの相棒は、好きなカラーのiMacと同じ色の椅子、ノートパソコンの3つです。好きな場所にノートパソコンを持っていって、研究をすることもできます。研究に疲れたら、手前のフットレスト&椅子を使って休みます。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンピュータ、情報通信機器

(2) 半導体・電子部品・デバイス

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) システムエンジニア

(2) 技術系企画・調査、コンサルタント

(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる?

私の研究室は設立からまだ3年目ですが、ここで学んだ学生は博士課程に進んで最先端の研究に挑んだり、国の研究機関で新しい科学を切り拓いたり、情報学の力を武器にソフトウェア開発の世界で活躍したりしています。

これからは、動物実験に頼らず、情報を用いて化学物質の安全性を評価する技術が世界的に求められていきます。環境分野だけでなく、医薬品や化粧品の分野で、人々や地球の未来を守る研究に関わることができる――そんなフィールドが、皆さんを待っています。

先生の学部・学科は?

私の所属する生命情報工学分野では、生物学と情報学を融合させたユニークな研究に取り組んでいます。生き物の仕組みを理解するだけでなく、コンピュータを駆使して膨大なデータを解析し、目に見えない生命のルールを明らかにするのが特徴です。

他大学にはない強みとして、実験とデータ科学を組み合わせ、環境問題から医療まで幅広いテーマに挑戦できる環境があります。ここに来れば、生物学の“なぜ?”を情報学の力で解き明かす研究ができます。

コウモリ捕獲調査に同行した時の様子。かすみ網という大きな網を張って、コウモリがかかるのをひたすら待ちます。本研究室で扱うのは、基本的にはデータベースに登録されているデータ(情報)です。が、希望者は自分が使うデータがどのように得られたのかを実際に見たり、実験系の研究室の協力を得て、自らデータを採ることもあります。
コウモリ捕獲調査に同行した時の様子。かすみ網という大きな網を張って、コウモリがかかるのをひたすら待ちます。本研究室で扱うのは、基本的にはデータベースに登録されているデータ(情報)です。が、希望者は自分が使うデータがどのように得られたのかを実際に見たり、実験系の研究室の協力を得て、自らデータを採ることもあります。
先生の研究に挑戦しよう!

・データサイエンス入門としての公開データ解析

国や研究機関が公開しているデータを使い、簡単な統計やグラフ作成に挑戦してみましょう。例えば、九州工業大学のメインキャンパスがある北九州市では、トンボなど、身近な生物の観測数の情報をホームページで公開しています。どの年に観測が多かったのか、少なくなったのか、またそれはなぜなのかを気温や緑地面積などのデータと合わせて考えてみましょう。

中高生におすすめ

プラスチックの海

クレイグ・リーソン:監督

実際の環境問題を映像として目の当たりにすることで、より身近に環境問題を感じ、自分の行動を考えるきっかけとなるでしょう。

[webサイトへ]

一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

オランダ。海外の方がたくさん来るので、フラットな風土でとても過ごしやすかったです。

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

『魔女の宅急便』:夢に向かってがんばるキキの姿にいつも勇気をもらえます。
『フリッパー』:私が大好きなイルカ&高山みなみさんが吹き替えを担当していて、好きなもの祭りです。

Q3.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

樽枝:大学時代、演劇部の稽古でよくやっていました。その場で走りながら、掛け声に合わせて樽(ジャンプ)や枝(しゃがむ)をよけます。たまに、ヘビが出てきたり、大きな岩が後ろから転がってきたりします。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

みかん狩り。愛媛だったので。

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

電車に乗るのが、けっこう好きです。最近は息子と一緒にポケモンスタンプラリーに参加して、いろいろな駅を巡ってきました。

大学時代には、大阪から千葉まで青春18きっぷで帰省したこともあります。時間はかかりましたが、窓の外に広がる景色や、乗り合わせた人たちの言葉が少しずつ変わっていくのが楽しくて、気がつけば17時間、ずっと電車に揺られていました。

研究もそれに似ている気がします。ゴールにたどり着くことだけが目的ではなくて、途中で出会う失敗や挫折もまた、旅の風景のように味わい深いもの。そうした時間を楽しむことが、長く研究を続けるうえで大切なのだと思います。

Q6.好きな言葉は?

「声なきものの、声をきく」:環境汚染が進んでも、環境中の生物は声をあげてはくれません。声もなく消えていってしまう生命の声をきき、より良い地球環境を作ることを目指しています。


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