博士研究員、船乗りに

私は船乗りでした。大学院の博士課程を修了して博士研究員をしている時に、長崎丸の船長から「船に乗ってみらんね？（長崎弁で”船に乗ってみないか？”という意味）」と声を掛けられたのがきっかけです。

長崎丸とは、長崎大学の練習船でとても大きな船です。楽天家な私は、「船？なんか面白そうかも」と軽い気持ちで乗ってみたのが運の尽き(？)、気づけば5年間、船を中心とした生活でした。朝晩、乗組員の人たちと寝食を共にして、海洋観測や漁業実習をしました。5年は一人の男を船乗りにするには充分な時間です。ついには、航海士の資格も取得して船乗りになっていました。

船乗り、環境問題を意識

その間、色々な海の表情を見てきました。朝靄にけぶる凪の海、波高5メートルを超える狂気の海、そして陸地が全く見えない太平洋のど真ん中にもかかわらず大量のプラスチックごみに汚染された海ーー。

私は、船乗り研究者として、環境問題との関わりを強く意識するようになりました。

今、取り組んでいる研究「海洋マクロ・マイクロプラスチックの高密度帯の探索と魚類への取り込み実態の解明」もその一環です。

9割のプラスチックはどこに

現在、海には大量のプラスチックごみが流出し続けており、その総量は少なくとも2500万トンはあるだろうと推定されています。しかし、実際の野外での調査結果から推定されたプラスチックの量は300万トン程度で、1割程度しか確認されていないのです。

9割のミッシングプラスチック（行方不明のプラスチック）はどこにあるのでしょうか。本研究は、このミッシングプラスチックの謎に深海域や生物による誤食という切り口で迫ろうとしています。海はまだまだ謎だらけです、船乗り研究者の航海は続きます。