環境影響評価

放射線の生物影響

放射線の植物への影響は? 植物細胞を現場で培養し、DNA損傷生成とその修復を調査


高橋真哉先生

筑波大学 生命環境学群 生物資源学類(環境科学学位プログラム/環境学学位プログラム/ライフイノベーション学位プログラム)

出会いの一冊

放射線利用の基礎知識 半導体、強化タイヤから品種改良、食品照射まで

東嶋和子(ブルーバックス)

タイトルの通り、放射線利用に関して、基礎から産業利用の実用例まで紹介されています。放射線は危険だというイメージを持つ方も多いと思います。しかし、管理された環境で適切に使用することで、医療への応用、新素材の開発、また短期間での作物品種改良も可能にします。この本では、そのような実用例だけでなく、放射線に関する基礎知識も非常にわかりやすく記載されています。

発行年が2006年と古めです。そのため、冊子体としての入手は難しいかもしれません。もっと最近の類似の内容を扱った書籍もあると思いますが、ここまで広範囲に扱った書籍はあまりないと考えます。

こんな研究で世界を変えよう!

放射線の植物への影響は? 植物細胞を現場で培養し、DNA損傷生成とその修復を調査

わかっていなかった弱い放射線の影響

2011年3月11日、福島第一原子力発電所が巨大津波により甚大な被害を受け、機能不全により放射性物質を含む蒸気が大気中へ放出されました。その一部は、東日本の広範囲の土壌に沈着し、野生生物への影響が社会的関心を集めました。それは「放射性物質から出る放射線には生物に悪影響がある」ということがわかっているからです。

放射線は、直接あるいはこれによる活性酸素生成を介して生物のDNAに作用し、損傷を与えます。強い放射線照射により大量のDNA損傷が生成し放置されると、突然変異や個体死の原因になります。

しかしながら、原発事故によって放出された放射性物質から発せられる放射線はこれに比べてはるかに弱く、実際の生物への影響はわかっていませんでした。

生物に備わったDNAを修復する仕組み

私は、国立環境研究所の玉置雅紀博士と、その影響を知る方法を考えました。我々は植物培養細胞を現場で培養し、弱い放射線(低線量放射線)によってできるDNA損傷の数を調べました。

その結果、福島県内の放射線量が比較的高い地域においてもDNA損傷はできるものの、その後突然変異の誘発には至らないことを明らかにしました。これは、生物が備えるDNA損傷を修復する仕組みによるものと考えました。

DNAが修復されるのに何が起きているのか

一方で、植物体内で低線量放射線照射によりDNA損傷ができて修復されるまでに、どのようなことが起こっているのか、はっきりとわかっていません。

私は、一度に多種類の遺伝子発現量の変化を明らかにすることで得られる、遺伝子発現パターンを指標として詳細を知りたいと考えており、最終的に低線量放射線による生物影響を理解したいと思っています。

シロイヌナズナの植物培養細胞(カルス)。シャーレ内で固形培地の栄養のみで培養が可能(上)。放射線量が比較的高い現場で植物培養細胞(アルミホイルで包んである)を埋設する様子(国立環境研究所 玉置博士提供)(下)。
シロイヌナズナの植物培養細胞(カルス)。シャーレ内で固形培地の栄養のみで培養が可能(上)。放射線量が比較的高い現場で植物培養細胞(アルミホイルで包んである)を埋設する様子(国立環境研究所 玉置博士提供)(下)。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私の故郷は霞ケ浦のすぐ近くであり、子供のころから水質汚染などの環境問題に関する話題が身近にありました。そのせいか、高校生のころには「環境問題の研究をしたい」と思うようになっていました。その後縁があって、大学院生の時、国立環境研究所で紫外線が植物に与える影響について研究を行うことができました。紫外線と放射線の生物影響は似ているところがあり、この時の知識や経験が、現在の研究につながっています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「環境放射線の生物影響評価のための植物培養細胞における遺伝子発現プロファイルの利用」

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学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 食品・食料品・飲料品

(2) ソフトウエア、情報システム開発

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 品質管理・評価

(3) システムエンジニア

◆学んだことはどう生きる?

食品業界で製品開発をしている卒業生がいます。私の研究室では植物の代謝物に関する研究もしており、彼女は初めてその研究テーマに携わってくれた学生です。植物は実験しても思う通りに結果が出ないことも多いのですが、彼女は粘り強く実験を重ねて、最終的に一つの研究を完結させて卒業していきました。卒業して数年後、自身が製品化に携わった食品を持ってきてくれて、大変嬉しかったのを覚えています。

先生の学部・学科は?

筑波大学生命環境学群生物資源学類は、農林生物学・応用生命化学・環境工学・社会経済学の4つのコースで構成されており、動植物、微生物に関する基礎的な内容から、食品や医薬品などの生産、環境保全や地域社会の持続的発展に関する応用的な内容まで幅広く学ぶことができます。学生は多岐に渡る内容を学んだ後に、いずれかのコースに所属して専門的な研究に携わります。英語の講義やコースも充実しており、グローバルな視点を養うこともできます。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか

永井孝志、村上道夫、小野恭子、岸本充生(ブルーバックス)

原発事故後に大きな議論となったのが、放射線量の‟基準値”です。基準値はリスクを避けるために定められますが、なぜその数値になったのか、根拠を知ることは重要です。この本は、様々な基準値について専門家の視点で詳細に、かつ、わかりやすく書かれています。


基礎研究者 真理を探究する生き方

大隅良典、永田和宏(角川新書)

基礎研究という言葉を聞いて、皆さんはどう感じますか。難しく取っつきにくいと感じる人も多いと思います。この本では、生命科学分野をリードし続ける2人の研究者が、ご自身の言葉でその魅力と現状について語っています。探究することの魅力について知りたい方におすすめです。


アルジャーノンに花束を

ダニエル・キイス(ハヤカワ文庫NV)

何度かドラマ化もされている有名なSF小説です。扱われている内容はもちろんフィクションですが、先端科学は人を幸せにするはずだけど果たして本当にそうなのだろうか、と考えさせられる内容です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

文化地理学。その土地にある神社やお祭りがどのような経緯で現在の形になっているか研究したいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

ポリネシア(フランス)。食事がおいしくて、一年中穏やかな気候で、ゆったりと過ごすことができそうでした。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

学術研究会という名称のサークルで、日々、友人と遊びに行ったり、飲み会をしたり、(たまに)研究もしてました。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

遺跡発掘のバイト。生物学をやらなかったら、考古学をやっていたかもしれません。


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