免疫学

酸化ストレス

免疫細胞の働きはなぜ落ちた? 酸化ストレスマウスで検証


大谷真志先生

東邦大学 理学部 生物分子科学科

出会いの一冊

ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい

トッド・ローズ、訳:小坂恵理(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

テストの平均点や平均身長、平均年収など、平均値を基準にしてものを考えることが多いと思います。ですが、あらゆる面で平均的な能力を持つ人は誰1人としていません。運動や勉強が苦手でも人の顔と名前を覚えるのが得意、というように人それぞれ個性があります。様々なことを人並(平均)にできるようにするよりも、個性を生かすことが大事だ、と分かる本です。

こんな研究で世界を変えよう!

免疫細胞の働きはなぜ落ちた? 酸化ストレスマウスで検証

活性酸素が増えすぎると「酸化ストレス状態」に

呼吸で取り込んだ酸素の一部は、体内で活性酸素に変化します。この活性酸素が過剰になると細胞にダメージを与え、がんや心臓病などの病気につながる可能性があります。そのため、体には活性酸素を除去する抗酸化機構が備わっていますが、この機構を上回る量の活性酸素ができると酸化ストレス状態になります。

私たちは、抗酸化機構を担う遺伝子の一つが欠損して酸化ストレス状態になりやすいマウス(酸化ストレスマウス)を使って、酸化ストレスと免疫の関係を調べています。

予想外!炎症は悪化ではなく軽減

免疫は、細菌やウイルスなどの異物から体を守るしくみで、働くときには発熱や痛みなどの炎症が起きます。通常、酸化ストレスは炎症を悪化させると考えられていたので、正常マウスと酸化ストレスマウスに細菌成分を投与して免疫(炎症)反応を比べました。

結果は予想外で、酸化ストレスマウスでは炎症が軽減されていました。学生たちと一緒にこの結果に頭を悩ませつつ、新しい発見があるんじゃないかと期待しながら、マウスの免疫細胞の状態を詳しく調べました。すると、酸化ストレスマウスではナチュラルキラー(NK)細胞の働きが弱まっていることが分かりました。

酸化ストレスがNK細胞の働きを抑える

普通は、細菌成分を投与するとNK細胞を含む免疫細胞が過剰に反応して激しい炎症が起きますが、酸化ストレスマウスではその一部が抑えられたため、炎症が軽くなったと考えられました。今は、酸化ストレスがNK細胞の働きを下げるしくみを分子レベルで調べています。

NK細胞は感染症やがんに対して重要な役割を果たしているので、この研究がこれらの病気の理解や治療法の開発に貢献できればと考えています。人の役に立つだけでなく、予想外の結果に興奮し、その理由を解明した時の達成感を味わうのも、研究の魅力だと思います。

血液や組織から取ってきた細胞をフローサイトメーターという装置で解析すると、免疫細胞の種類や状態がすぐに分かります。
血液や組織から取ってきた細胞をフローサイトメーターという装置で解析すると、免疫細胞の種類や状態がすぐに分かります。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

小さいころから理科が好きでしたが、中学生の時にNHKの『驚異の小宇宙・人体』というテレビ番組を見て免疫に興味を持ちました。当時としては珍しいCGで、色々な免疫細胞が体の中で病原体と戦うシーンがかっこよく表現されていて、体の中ではすごいことが起きているんだなと興奮した記憶を、今でもはっきり覚えています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「酸化ストレスが生体内のNK細胞に与える影響の解明」

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研究室メンバー(学部4年生と大学院生)
研究室メンバー(学部4年生と大学院生)
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 病院・医療

(2) 薬剤・医薬品

(3) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

◆主な職種

(1) 技術系企画・調査、コンサルタント

(2) その他医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士等)

(3) 中学校・高校教員など

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

生物分子科学科は、生物と化学の両方を学び、化学の知識や手法を用いて生命現象を探究する学科です。その教育や研究を通して、医療・創薬・化学工業・分子育種など多様な分野に貢献できる人を育てています。

東邦大学理学部は、前身が日本初の女子理学専門学校であったことから、他大学より女子学生の比率が高く(生物分子科学科では6割以上)、女性研究者の育成に強く取り組んでいるのが特徴です。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

マンガでわかる免疫学

河本宏(オーム社)

免疫学は難しいですが、マンガを交えて分かりやすく書かれている数少ない本です。マンガ『はたらく細胞』を読んだ人にはおススメです。免疫をさらに理解できますよ。


免疫ふしぎ未来

主催:日本免疫学会(後援:文部科学省)

年1回夏休みに実施されるイベントで、免疫の研究者が一堂に集い、小学生から大人までを対象に、免疫や研究の楽しさを伝えています。実験をしたり、パネルを見たり、ショートトークを聞いて免疫に触れるだけでなく、40名以上の研究者と直接話すことができます。

免疫や病気のことだけでなく、研究者になった理由や研究の面白さ・大変さ、どうしたら研究者になれるかなども聞けますよ。これだけ多くの研究者と話せる一般向けイベントは他にないと思います!
免疫ふしぎ未来2023ホームページ:http://fushigimirai.umin.jp/2023/

[webサイトへ]

一問一答
Q1.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

ゼルダの伝説(ティアーズ オブ ザ キングダム)。フィールドの探索だけでなく、色々な道具や乗り物を自由に作ることができるのが面白い。探究心や発想力が刺激されるので、研究と似ているかも。

Q2.大学時代の部活・サークルは?

水泳部。運動が苦手で大学まで避けてきましたが、体を鍛えようと意を決して入りました。今では泳ぐのが大好きです。

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

家庭菜園で作ったハーブ(バジル、ローズマリー、ルッコラなど)を使ったパスタやサラダ、肉料理を作って、食べること。


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