「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか
林(高木)朗子、加藤忠史(ブルーバックス)
脳を調べるのには、いろいろな研究手法があります。例えば脳を構成する神経線維の繋がりを全て明らかにしてデータベースを作り、それを元に脳のはたらきや精神疾患の成り立ちを解釈しようとしたり、ゲノム解析によって遺伝子レベルから脳を理解しようとしたり・・。近年は機能的MRIや機械学習(AI)など新しい手法を用いて、脳のブラックボックス的な部分に切り込めるようになってきました。
この本では最新の脳研究の方法を紹介するだけでなく、特に「心の病」の発症メカニズムについてどこまでわかってきたのかを第一線で活躍する研究者が丁寧に解説しています。特に、神経のつなぎ目にあるシナプス構造に注目して精神疾患の原因解明に挑戦されている林朗子先生は、女性研究者を目指す高校生のみなさんにとって素晴らしい目標になるのではないかと思います。
霊長目の記憶回路に法則性を見つけ、ヒトの記憶のしくみに迫る!
人間の脳は「人間の脳」を理解できるか
中高生の頃、「脳はわからない」と思っていました。医学生になっても「脳はやっぱりわからない。世の中の研究が進んでも人間の脳に『人間の脳』は理解できないだろう」と思っていました。
でも一見無秩序に見える脳の構造に、実は目に見える法則や秩序のようなものがあるということを新たに見つけたとき、脳は結構「わかる」ものなのかも!と、感動を覚えました。
ラット、ウサギ、マーモセットの記憶回路に共通部分が
構造上の秩序には意味があり、大抵はその構造の機能(はたらき)を反映しているはずですので、脳も構造を見ただけで機能がわかるかな?というのが私の研究の原点です。
脳の中の神経線維を目に見えるようにする手法を用いて、いろいろな動物の脳の海馬や海馬周辺の脳領域の繋がり方を調べて比較したところ、齧歯目(ラット)、ウサギ目(アナウサギ)、霊長目(マーモセット)で記憶を司る神経回路の基本部分が共通していること(その共通部分が最も根本的な機能を担っていると考えられます)、ウサギやマーモセットではこの共通回路に、ラットにはない複数の神経線維連絡が付け加わっている、ということを発見しました。
霊長目マーモセットの記憶回路を調べる
動物種が変われば記憶の量や質も変わります。ヒトを含む霊長目の記憶回路に特有の神経線維連絡や繋がり方の法則性が見つかれば、それが記憶のしくみや記憶障害のメカニズムを解明するきっかけになるかも知れません。現在は東京都医学総合研究所の共同研究者と共に、霊長目(マーモセット)の記憶回路を中心に調べています。
小さい頃から寝食を忘れて研究に没頭するのに憧れ、研究者になりたくて医学部に入りました。大学院時代は生理学分野で当時最先端の実験手法を教わりましたが、イオンやタンパクや遺伝子より、「目に見える物」の地道な観察が性に合うとわかり神経解剖学分野に落ち着きました。
最初に非常にマイナーな脳領域を研究テーマとして与えられましたが、世界中で誰にも調べられていないのが嬉しくてそこばかり20年近く研究していたら、希少価値的な意味合いで注目されるようになりました。
「動物種を超えた記憶の基盤構造解明と霊長目マーモセットにおける付加的線維連絡の探索」
◆主な業種
(1) 病院・医療
◆主な職種
(1) 医師・歯科医師
(2) 大学等研究機関所属の教員・研究者
東京女子医大は創立120年を超え、様々な分野に卒業生がいます。女性研究者として国際共同研究、AIを用いた研究、医学と工学など異分野の橋渡し研究で活躍する先輩もいますし、行政や地域医療に身を置いて日本の医療を良くしようと努力する先輩もいます。
子育てや介護などのライフイベントと両立し、やりたいと思ったことを諦めずにやるタイプの卒業生が多く、そんな女性医療人の活躍を多方面から支援しているのが女子医大の一番の特徴だと思います。
ヒトを含む哺乳類の脳にはたくさんの部位があり、多くの脳部位には特有のはたらき(機能)があることがわかっています。下記の中から、興味のある脳部位について、ヒトの脳の中での位置や形、はたらきを調べてみましょう。また、それらの脳部位に問題が起きた場合、どのような症状が出るか想像してみましょう。
・延髄
・海馬
・視床
・前頭連合野
・運動野
Q1.感動した/印象に残っている映画は? 『コンタクト』 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? 箏曲部 |
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Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 研究活動の一環になってしまいますが、AI(人工知能)です。現在、AIの専門家の方々と共同で、海馬周辺の神経線維連絡をAIに組み込んだ脳型ソフトウエアを開発する活動に参加しています。 |
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Q4.好きな言葉は? 知足知恩 |