進化生物学

タツノオトシゴ

オスが子どもを産む魚、タツノオトシゴの進化を遺伝子から解き明かす


川口眞理先生

上智大学 理工学部 物質生命理工学科

出会いの一冊

タツノオトシゴ図鑑

サラ・ローリー、訳:曽我部篤(丸善出版)

タツノオトシゴの形態や生態の紹介、どのような種がいるのか、など図鑑としての基本的な情報が得られるのはもちろんのこと、分布状況や進化、保全状況の説明や商業利用など様々な側面から紹介されています。国際自然保護連合によるIUCN絶滅危惧種レッドリストへの登録状況などタツノオトシゴがおかれている状況を知り、生物多様性や環境保護を考えるうえで役立ちます。

こんな研究で世界を変えよう!

オスが子どもを産む魚、タツノオトシゴの進化を遺伝子から解き明かす

子育てする袋をもつオス

タツノオトシゴは、馬のような頭、猿のように巻き付くしっぽ、鎧のような「骨板」で体全体を覆って身を守っていて、見た目は魚とは似ても似つかないのですが、鰓や鰭をもった魚類の一種です。

他の魚にはないタツノオトシゴの特徴は、オスが子育て器官である育児嚢(いくじのう)をもち、オスが出産することです。 メスは卵を育児嚢内に産み、オスは受け取ると同時に受精させます。胚は育児嚢の中で発生が進み、オスが出産します。

なぜ他の魚とは違う形をしているのでしょうか?
進化の過程でどうやって育児嚢を獲得したのでしょうか?
育児嚢はどのような働きがあるのでしょうか?

遺伝子の90%近くは他の魚と共通なのに

生物の営みは、ホルモンや酵素などタンパク質によって行われていて、これらのタンパク質は遺伝子によって制御されています。ヒトは数万個の遺伝子で制御されていますが、その遺伝子の90%近くは魚など他の動物と共通です。

ところが、遺伝子が発現するタイミングや部位が異なることによって、それぞれの動物に特徴的な形ができあがります。タツノオトシゴも、共通の遺伝子をもっているのにその使い方が異なって独特な形態を獲得したのです。

他方、残りの10%の遺伝子はそれぞれの種に特有の遺伝子で、それもまた、その系統に特有の形態を作り出しています。実際に、私たちの研究室ではタツノオトシゴに特有の遺伝子を発見していて、タツノオトシゴの形や育児嚢の機能の進化にどのように貢献しているのか解き明かそうとしています。

研究室で撮影したタツノオトシゴの一種ハチジョウタツのオス
研究室で撮影したタツノオトシゴの一種ハチジョウタツのオス
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

タツノオトシゴのオスは出産までの間に胚に栄養を供給したり、老廃物を除去したり、浸透圧の調節をしたりしていると考えられています。しかし、本当にそのような機能があるのか、あるとしたらどの遺伝子が関与しているのかよくわかっていません。また、育児嚢はタツノオトシゴが属しているヨウジウオ科のオスに見られますが、育児嚢の形態は多様です。進化の過程でどのように育児嚢を獲得し、どの遺伝子が子育てに関わるようになったのかを解き明かそうと研究を始めました。

研究室で撮影したタツノオトシゴの産卵シーン。左がメス、右がオス。
研究室で撮影したタツノオトシゴの産卵シーン。左がメス、右がオス。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「タツノオトシゴの育児嚢における胎盤様構造とその機能」

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先生の学部・学科は?

上智大学理工学部物質生命理工学科には、グリーンサイエンスコースという英語のみで授業が行われるコースもあります。4年になると、物質生命理工学科とグリーンサイエンスコースの学生が合流して研究室に配属されますが、配属の時期が異なり、物質生命理工学科は4月に配属、グリーンサイエンスコースは9月に配属されます。

東ティモールからの留学生(左から5人目)の歓迎会を研究室で行ったときのものです。左から2人目はアメリカからの修士2年の留学生、一番左は台湾から留学して2020年度に学部4年として所属していた卒業生です。
東ティモールからの留学生(左から5人目)の歓迎会を研究室で行ったときのものです。左から2人目はアメリカからの修士2年の留学生、一番左は台湾から留学して2020年度に学部4年として所属していた卒業生です。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

私はチョウザメが食べたかった。

末広陽子(河出書房)

黄色の目立つ背表紙に書かれた斬新なタイトルに魅かれました。チョウザメについて、キャビアのおすすめの食べ方、チョウザメの歴史や養殖など様々なことを学べます。この本を読んでチョウザメ料理を食べたくなりました。


トリノトリビア

川上和人、マツダユカ、三上かつら、川嶋隆義(西東社)

身近でよく目にするスズメやカラスたちの生き残り戦術などを、4コマ漫画を交えて面白く紹介しています。イラストがかわいいですし、読んでいて楽しいです。


ネアンデルタール人は私たちと交配した

スヴァンテ・ペーボ 、訳:野中香方子(文藝春秋)

絶滅したネアンデルタール人がホモ・サピエンスと交雑していたことがわかるまでの30年にわたるペーボ博士の回想記。2022年ノーベル医学・生理学賞受賞。
研究過程ではうまくいかなくて苦労することも多いですが、その様子が生き生きと伝わってきます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

生物学。大学受験のとき、周囲の大人に生物学科に進学すると思われていたのが面白くなくて、化学科に進学しました。結局、生物学の研究がしたくて大学院から生物学を専攻しました。生物学の基礎は独学なので、もう一度大学に入るなら、生物学を学びたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

スウェーデン。スウェーデンの大学に訪問した時に、10時半ごろと3時ごろに「フィーカ」と呼ばれるコーヒーブレークの時間があって、キッチンにみんなで集まって研究の話などをしていました。自分の研究のヒントを得たり、刺激し合える環境がいいなと思いました。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

ZARD

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

趣味は魚のイラスト作成です。研究室のホームページで公開しています。


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