生理機能を調節するアルギニンで、より安全に牛を増やす
肉や牛乳を安定して生産する
わが国の食料自給率は約40%で、過半を海外から輸入しています。世界中で異常気象や紛争が絶えない中、安心して持続的に生活するためには、ある程度国内で食料を生産することが求められます。お肉や卵、牛乳といった畜産物は、国民の健康に資する重要な食品で、これらを安定して生産することは食料安全保障上も大きな課題です。
優良な牛の増殖技術を活かすには
牛肉、牛乳を生産するためには、牛を効率的に増殖する必要があります。これまで多くの技術革新がなされており、たとえば人工授精や受精卵移植といった技術を用いて、人が必要とする特長を有した優良な牛を増殖してきました。
しかしながら、お母さん牛が妊娠してくれないとせっかくの技術を活かすことができません。いかにして妊娠させるか、というテーマは古くて新しい研究課題です。
アルギニンで牛は妊娠しやすくなるか
そこで私たちはアルギニンに着目しました。アルギニンは皆さんご存知の通り、耳慣れたアミノ酸の一種なのですが、単にタンパク質の構成材料というだけではなく、たとえば成長ホルモンの分泌を促進したり、血中アンモニアを処理したり、血流量を高める一酸化窒素の原料になったりして、生理機能を調節します。このアルギニンが、卵巣の中の卵胞や卵子の成熟、子宮の妊娠しやすさにどのような影響を与えるのか研究しています。
アルギニンは食べ物にも一般的に含まれるアミノ酸なので、ホルモン剤や抗生物質などの薬物で妊娠しやすさをコントロールするよりも、より安全で安心な動物増殖技術に結びつく可能性があります。
「アルギニン製剤の給与が定時胚移植後の受胎率に及ぼす影響」
大学には様々な附置研究所や附属施設等があり、たとえば各地の農学部には大学附属の農場、牧場、演習林、動物病院などが設置されています。これらの施設には学生が配属することが多く、生産現場に近い研究テーマに興味がある学生にとっては魅力があるコースになっています。
私が所属する御明神牧場では黒毛和種という牛を120頭、羊を15頭ほど飼育しており、学部研究室や都会の大学よりも、大中家畜に直接触れ合える研究環境が魅力です。
岩手大学御明神牧場では、たとえば下記のような研究ができます。
1)牛の人工授精や胚移植技術について研究したい。
2)牛の経腟採卵、体外成熟・受精・培養技術について研究したい。
3)雌牛の妊孕性(妊娠しやすさ)について研究したい。
4)子牛の哺育育成法について研究したい。
5)牧草や放牧について研究したい。
6)クマやイノシシなどの野生動物について研究したい。