海洋の貧栄養化は夏眠するイカナゴの行動リズムを乱す
7月から半年、砂に潜って夏眠
生物の休眠は、非常に不思議な環境適応能力の一つです。
海産魚類であるイカナゴも休眠する生物です。イカナゴは食用としてだけではなく、海の生態系では高次捕食者の餌としての水産重要種でもあります。そしてとても面白い生態を持ちます。
瀬戸内海のイカナゴは1ー6月の間、明るい時間に遊泳して餌を食べ、夜になると砂に潜るという規則正しい生活リズムを持ちます。この時期にしっかり栄養を蓄積して、7月頃になると砂から出ず餌を食べない夏眠期に入ります。夏眠は約半年間も続きます。
イカナゴ減少の要因か
しかしこの昼夜および季節的な行動パターンは「海洋の貧栄養化」により崩されます。海洋の貧栄養化は餌となるプランクトンを減少させてイカナゴの栄養状態を低下させます。栄養不足状態のイカナゴは夜に砂から出て泳いだり、夏眠に入れなかったり、夏眠の途中で目覚めたりと、行動のリズムが乱されてしまうことがわかってきました。
自然環境下での行動リズムの異常は生命の危険を招きます。例えば、夜間の遊泳や夏眠できずに彷徨い続けることは被食率の上昇を招く可能性があるからです。現在、日本沿岸においてイカナゴは激減しています。私はこの減少要因の1つとして、栄養状態の悪化によるイカナゴの行動パターンの変化があるのではないか? と考えています。
学生たちと休眠の謎を追究
そして私が知りたいのは、生物の持つ究極の環境適応能力の1つである休眠の仕組みです。どのように休眠は開始され終了するのか、生物はどのように休眠生態を獲得したのか。学生たちと共に、生理学や行動学的な解析により、休眠の謎を追究しています。
大学の講義で先生たちが自分の研究を話す時の楽しそうな感じが非常に印象深く、研究というのはそんなにも楽しいものなんだと興味を持つと同時に、好きな研究を通してそれを次世代の人(学生)に伝えられるお仕事に憧れを持ちました。
実際に研究をしてみると本当に楽しく、上手くいかないこともたくさんありましたが、研究者になりたいという夢がブレることはなく、周りの人たちのサポートのおかげで夢を叶えることができました。
今の研究テーマはこれまでベースとしてきた内分泌学と、挑戦したかった行動学、そして何より自分が知りたいと思える現象である休眠の研究ができ、その成果は少しでも水産分野に貢献できるので最高です。
「海洋の貧栄養化はイカナゴの行動リズムを乱す ~夏眠と潜砂様式からの検証~」
◆主な業種
(1) 食品・食料品・飲料品
(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(3) 農業、林業、水産業、水族館
◆主な職種
(1) 品質管理・評価
(2) 中学校・高校教員など
(3) 生物系
◆学んだことはどう生きる?
大型魚(マグロなど)の養殖場に就職した学生の話をしましょう。業務内容は養殖魚の飼育管理、出荷作業などです。
養殖魚の体調管理は毎日の行動観察、摂餌の様子などから判断することになります。その時には、卒業研究で行った魚類の行動観察で養われた魚を観る目が活かされているようです。魚類の健康状態は非常にわかりにくいです。そのためただ魚を見ていれば良いのではなく、行動パターンなどを見極めて、日々、丁寧に観察することで、いかに早くそのわずかな異変に気づけるかが重要になります。また、どのように給餌をすることで対象魚の摂餌活性を高めることができるかなどにも、飼育実験の経験が活かされているようです。
北里大学の海洋生命科学部には、小さな水族館があります。これは、将来、水族館や生物に携わるお仕事に就くことを目指している学生が自主的に行なっている水族館(無料)です。近所の方や保育園の子供たちなどが遊びにきています。
学生の時に実践的なことを学べるのは非常に重要だと感じます。また、水槽室があり飼育実験もできます。海水を購入していますので、目の前が海ではありませんが、しっかりと海産魚の飼育実験もできます。この場所がなければ私は行動実験に挑戦できませんでした。
私も本学部の卒業生ですが、先生たちとの距離が近いので、研究に対する熱い思いがこれでもかというくらいに伝わってくるのも、本学の特徴の一つだと思います。
魚類(無脊椎動物でも)の行動をじっくり長期間、観察してみましょう。
なんとなく観るのではなく、愛でるだけではなく、その動きにパターンはあるのかどうか、どのような条件で変化する行動であるのか、飼育されていることで生じた行動なのか、年齢や性別による違いなのか、時期により異なるのか、個体ごとの差なのか。そしてその行動にはどんな意味が隠されているのかを考えながら観察してみましょう。
一見、何も起きていない状況の中に、意外と生物の不思議な生態が隠されているかもしれません。何かに気づくことができたら、同じように行動する生物を調べてみましょう。そこにどんな繋がりがあるでしょうか?
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? もちろん海洋生命科学です! |
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Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは? 『あつまれ どうぶつの森』 釣った魚を展示できるのが最高に楽しかった。 |
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Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? ティーカップ集め |