IT技術で水産業に利益を! 海洋レーダーで経済効果の高い漁業を実現
漁業者とともに、水産現場の課題を見つける
私は、水産業全体で利益が一番高くなる生産、流通、消費のあり方を提案し、持続可能な水産業に貢献する研究に興味を持っています。そのため、私の研究では、とにかく現場に行き、漁業者等との意見交換を通して水産現場の課題を見つけ、関係者と一緒に取り組みながら、情報科学を駆使して課題解決していきます。
そのための要素研究として、海の流れを計測する海洋レーダーの活用、ズワイガニ資源量の推定、養殖魚のブランド化など、他大学、国や地方公共団体、民間企業と協働しながら、水産現場の課題解決に向けて、情報科学を切り口に色々な研究を行っています。
漁場の指標となる潮目を計算
一例として海洋レーダーの研究を紹介します。海洋レーダーは、陸上から電波を送り、帰ってきた信号を処理して、海岸線から数十km沖合までの流れと波高を測定する装置です。
海洋レーダーで得られた流れから漁場の指標となる潮目を計算することができ、潮目情報を漁業者が利用して漁獲に繋がれば1回あたり数百万円の経済効果がうまれます。さらに、縄などの漁具が入れられない速い流れ情報を提供して漁業者が出漁自体をとりやめることで、燃油削減効果にも繋がります。
費用の課題は会社設立で解決
水産業に役立つ海洋レーダーですが、機器導入費と運用費が最大の課題でした。その課題を民間ビジネスで解決するORNIS株式会社が2022年に立ち上がりました。私は、ORNIS株式会社の技術顧問としても参加しており、産学官を経験した私だからできる、海洋レーダーの水産業への展開に向けた研究や社会実装の提案を行っています。
私は海が身近にある沖縄県で生まれ育ち、小さい頃からスノーケリングや磯遊びなどをしていました。私が中高生の時からサンゴの白化現象など発生するようになり、海洋環境に対する関心を持つようになりました。
大学で海洋環境に関する研究を続けて博士号を取得した後、宮崎県の水産職員として、水産現場の課題を解決する仕事を15年間携わりました。そこで実感したのが、持続可能な水産業を確立するためには、儲かる産業として発展する必要があることです。そのためには、生産技術の開発に加えて、流通、消費を含めた水産業システム全体で考える必要があると思うようになりました。
2022年4月に福井県立大学海洋生物資源学部に、水産増養殖が学べる「先端増養殖科学科」が開設されました。当学科は、水産科学、ゲノム科学、環境科学、情報科学など幅広い分野の教員による少人数制での研究指導が行われます。
また、設備の整った新しい飼育施設と目の前の若狭湾を実験フィールドにして、増養殖の基礎から応用までの知識と技術をシームレスに学ぶことができます。4年間で先端技術を実践的に活用する能力を身に付け、地域、国内はもとより海外でリーダーシップをもって活躍できる人材を育成します。