作物生産科学

イネ

風がお米の生産を左右する! ~温暖化に負けないイネづくり


小林和広先生

島根大学 生物資源科学部 農林生産学科(自然科学研究科 農生命科学専攻)

出会いの一冊

地球温暖化と農業 地域の食料生産はどうなるのか?

渡邊紹裕(昭和堂)

農業は地球温暖化による気温の上昇、それにともなうさまざまな気象変動(大雨、強風、台風の増加、大雨かと思えば、雨が降らないような気象の極端化)によって大きな影響を受け、食糧生産が今後、不安定になりかねません。しかし、実は農業そのものもその生産過程でメタン、一酸化二窒素などの温室効果ガスの排出の原因ともなっていて、近代の効率優先な農業の在り方自体が問われています。

この本では地球温暖化で日本や世界の農業がどのような影響を受けるのか、どのような対策をとればよいのかをいろいろな観点から解説しています。地球温暖化にも負けない食糧生産を目指す上でぜひ読んでもらいたい本です。

こんな研究で世界を変えよう!

風がお米の生産を左右する! ~温暖化に負けないイネづくり

開花時間を早くして高温を避ける

わたしは地球温暖化で気温が上昇した場合にイネがどのような影響を受けるかを研究してきました。

特に花が咲くときに高温に遭遇すると花粉がダメージを受けて、受精に失敗し、お米が取れなくなってしまうのですが、開花時間(ふつう日本では10~12時頃)を早くしてやると高温を避けられます。そこでイネの開花時間はどのようにして決まるのかを環境要因(気温、湿度など)から明らかにする研究をしてきました。

風速が開花に影響

研究過程で風速は開花時間に影響していることに気づきました。さらに近年の地球温暖化とそれにともなうさまざまな気象変動では、風(台風、突風、フェーンなど)が関与します。

開花しているときの風が開花時間だけでなく、花と関係し、しかもお米の生産とも密接に関わる現象(受粉、受精、種子の発達など)にもいろいろな問題を引き起こすことから、花と風の関係をもっと詳しく調べようと考えました。

簡易的な風洞と3D画像解析で

これまでにオーストラリア、ミャンマーなどの水田で実験してきましたが、気象は人間が操作できないので、思ったような実験条件はいつでも得られるわけではありません。

そこで風速を変えるために電動ファンと簡易的に作った風洞をつなぎ、花が咲くときにイネをその中に入れて、実験してみました。

田んぼではイネがたくさん植わっているので、1個体だけに強い風を当てても風の影響を受けるイネを再現できません。3D画像解析を利用して模擬的に作成したイネを実験対象のイネの周囲に置くことによって風の影響を再現しようとした実験を行っています。

ミャンマー中央部での実験の様子です。イネが開花する時刻を測定するためにインターバル撮影をデジカメを設置して行っています(写真の中に田んぼに竹の棒が立っている先端にある黒い物体がデジカメです)。ミャンマーの中央部は4月終わりから5月始めにかけて日中の最高気温が40℃を超すくらい暑くなり、イネの受精に障害が発生します。
ミャンマー中央部での実験の様子です。イネが開花する時刻を測定するためにインターバル撮影をデジカメを設置して行っています(写真の中に田んぼに竹の棒が立っている先端にある黒い物体がデジカメです)。ミャンマーの中央部は4月終わりから5月始めにかけて日中の最高気温が40℃を超すくらい暑くなり、イネの受精に障害が発生します。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

中学、高校の時から農業と食糧問題に強い関心を持っていたので、大学は農学部に入り、主食と関係の深い作物学を専攻しました。海外の農業に関心があったので、松井勤先生(現岐阜大学)がイネの高温障害の研究で海外に行くというので、同行して、そこから高温障害をテーマとして研究を始めました。

他の研究者がまだやっていないことをやろうということで開花時刻に注目しました。開花時刻を調べているうちに開花時刻には風の影響があるので、風と花の関係を深く追究してみようということになりました。

開花し終わったイネから花をサンプリングしているところです。イネの花から柱頭、葯を取り出し、調査します。高温によって葯の中にある花粉にダメージがあると受精できなくなります。葯を調べると花粉がダメージをどの程度受けたかがわかります。さらに柱頭についている花粉の数、柱頭に着いた花粉の発芽状態を調べることによって、高温によって花粉がどんなダメージを受けたかを推測できます。
開花し終わったイネから花をサンプリングしているところです。イネの花から柱頭、葯を取り出し、調査します。高温によって葯の中にある花粉にダメージがあると受精できなくなります。葯を調べると花粉がダメージをどの程度受けたかがわかります。さらに柱頭についている花粉の数、柱頭に着いた花粉の発芽状態を調べることによって、高温によって花粉がどんなダメージを受けたかを推測できます。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「3D画像解析と簡易型風洞を利用したイネの気象障害抵抗性の解析」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
イネの柱頭を顕微鏡で観察しています。イネの柱頭は2つに分かれていて、ブラシのようになっています。風で飛んできた花粉を受け止めるためにブラシのような形をしています。ただし栽培イネは実際には自家受粉(自分の花粉を自分で受け取るだけ、花粉の入っている袋である葯が柱頭より上に移動し、葯が開くと重力で花粉が落ちる)がほとんどです。写真にたくさん見える、小さな丸いものが花粉です。いくつかの花粉からは下にある胚のうへ向けて花粉管が伸びています。花が咲くときに高温に遭遇すると、花粉がダメージを受けて、柱頭に着く花粉の数が減ったり、花粉の発芽率が低下したりします。
イネの柱頭を顕微鏡で観察しています。イネの柱頭は2つに分かれていて、ブラシのようになっています。風で飛んできた花粉を受け止めるためにブラシのような形をしています。ただし栽培イネは実際には自家受粉(自分の花粉を自分で受け取るだけ、花粉の入っている袋である葯が柱頭より上に移動し、葯が開くと重力で花粉が落ちる)がほとんどです。写真にたくさん見える、小さな丸いものが花粉です。いくつかの花粉からは下にある胚のうへ向けて花粉管が伸びています。花が咲くときに高温に遭遇すると、花粉がダメージを受けて、柱頭に着く花粉の数が減ったり、花粉の発芽率が低下したりします。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2) 農業、林業、水産業

(3) 食品・食料品・飲料品

◆主な職種

(1) セールスエンジニア・技術営業

(2) 営業、営業企画、事業統括

(3) 一般・営業事務

◆学んだことはどう生きる?

公立の農業試験場でその地域の農業の発展のために作物を扱ったさまざまな試験研究を行っています。栽培方法の改善、その地域に適した品種の選定、新しい品種の育成などです。学会や論文の発表も行いながら、地域の問題の解決に尽力しています。

農業はさまざまな要素(植物だけでなく、気象、微生物などの周囲の環境)の影響を受けます。学生のときの授業にはデータ解析から実際の農業まであり、研究テーマも気象の測定なども含めた多様な環境を把握しながら、作物の成長と収量の決定までを扱うものだったので、現在の仕事に直接に活用できているように思います。

先生の学部・学科は?

農林生産学科では世界あるいは日本と各地域(特に島根県のように山あいの農地が多いところ)の農業に関わる研究ができます。

栽培、飼育などで生産を高めたり、環境変化にも負けない食糧生産を維持したりする研究だけではありません。森林学コースのように森林を林業だけでなく、地域経済や環境保全などと結びつけ、農業経済学コースでは農業を地域経済の活性化の軸と据えて研究しています。

このように農林生産学科は文系とか理系とかいう枠にはあまりとらわれないで、農林業を対象に研究しています。

先生の研究に挑戦しよう!

最近はスマホのカメラやセンサーも充実しているので、これらを使って、植物を観察することができます(市販のデジカメだと定点観察も簡単にできます)。

近所にある田んぼや畑を定期的にスマホやデジカメで画像などを記録して、もし台風、洪水、潮風などによって作物に被害が生じたら、被害の経過観察を画像を使って行えます。現象発生現場に居合わせたように画像を撮ることができれば、いつ来るかわからない気象災害ですので貴重な記録となります。

中高生におすすめ

人類の歴史をつくった17の大発見

コーディー・キャシディー(河出書房新社)

先史時代、つまり文字による記録はないし、遺物もなかなかない時代の大発見、人類はいつどのようにしてだれがこんな大発見をしたのだろうか?現代に伝えられた痕跡(DNAも含まれる)を頼りに人類の歴史あるいは人類そのものをつくった17の大発見を著者が多数の人の意見なども聞きながらまとめた本です。例えば「火」、「弓矢」、「車」などをこの本で取り上げています。

さてこの本が掲げる人類最初の発明は?それは本を手に取って確かめていただきたいと思います。


インフィニティ・パワー:宇宙の謎を解き明かす微積分

S. ストロガッツ(丸善出版)

微分・積分とはとても難しい。でもこの考えの登場で生まれた微分方程式は未来を予測できるようになったり、いろいろな現象を数式で表現できるようになりました。

だれがどのようにしてこのようなアイデアを発見したのかを古代ギリシャからニュートン、ライプニッツによる微分・積分の発見に至るまでを著者は数式はほとんど用いないで、絵と比喩で説明しています。


巨大翼竜は飛べたのか スケールと行動の動物学

佐藤克文(平凡社新書)

動物そのものの目線で観察したらどうなるだろうか?例えば、ウミガメの食事はウミガメの糞などから分析してきました。しかし、ウミガメにカメラを設置して、ウミガメが何を見ているかを記録すると食事の瞬間を記録できます。糞の分析ではわからないこと、すなわち消化の結果、糞として残らないクラゲを意外と食べていることが見つかります。

このような動物の行動を動物自体につけたカメラやセンサーで追いかけるとふだんの観察では見えてこないことがわかります。

一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

ミャンマーで研究で訪問したときに住民の温和な人柄、独特な食べ物文化、豊かな自然などに見せられましたので、ミャンマーに住んでみたいかも。ただ今は政情が不安定ですので、むりでしょうが。

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

ヒッチコックの『めまい』です。見ているわたしが映画を見ていてめまいがして、最初は(そんなに難しいものではないにもかかわらず)トリックがわからなかったです。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

ユースホステルクラブ。信州や北海道の山にも登りました(八ヶ岳、旭岳など)。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

左官屋の手伝い。1日だけですが、職人の仕事を垣間見ました。

Q5.好きな言葉は?

「たとえ明日、世界が滅びるとしても、わたしは今日、リンゴの木の苗を植える」


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