植物栄養学・土壌学

マイカ

放射性物質を捕まえる、マイナー鉱物「マイカ」の特殊能力


中尾淳先生

京都府立大学 農学食科学部 農学生命科学科(生命環境科学研究科 応用生命科学専攻)

出会いの一冊

大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち

藤井一至(ヤマケイ文庫)

地味にスゴイ土の面白さや大切さをユニークな文体で表現しており、専門的な知識が無くても気軽に読めます。著者の藤井氏は大学研究室の後輩で、学生のころから文章が抜群に上手かったですが、とっつきにくい土の話をエンターテインメントに引き上げたのは奇跡の業と思っています。

同氏の別著『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』(光文社新書)もおすすめです。

こんな研究で世界を変えよう!

放射性物質を捕まえる、マイナー鉱物「マイカ」の特殊能力

化粧品にも使われる「マイカ」

何を面白いと思うかは人それぞれです。 私は、時間をかけて熟成されたものに魅力を感じますし、あまり人に注目されていないものに光を当て価値を見出すことに面白味を感じますが、皆さんはどうでしょうか。

土(土壌)は地下にあり、水や空気と比べて注目されない、文字通り“地味”な存在ですが、たくさんの面白い生き物や物質を隠しています。

その中でも私が特に注目しているのは、化粧品のパール顔料にも使われる鉱物、マイカです。

僅かな歪みがセシウムを捕まえる

マイカは金属イオンが規則的に酸素と結びついた平べったい鉱物です。

化粧品としては、その美しい配列によって光沢感のある肌に仕上げるのを助けますが、土の中ではその配列がほんの少し、0.0000001mmだけ歪んだときに特別な力-放射性物質(セシウム)を捕まえる力-を発揮します。この力は非常に強力で、土に僅か数%あるだけで、放射性物質による作物汚染のリスクを劇的に下げてくれます。

土の中のマイナー鉱物、マイカの僅かな歪みだけが持つ特殊能力、まさにオンリーワンの輝きです。

X線で見つける土の面白さ

しかもマイカが空を飛び10万年かけて日本に降り積もったなんて信じられますか?

私はX線や同位体の技術を応用することで、日本の土に含まれるマイカの多くが大陸乾燥地から黄砂として飛来・堆積したものであり、この“黄砂マイカ”が土の放射性セシウムを捕まえる力を大きく高めていることを明らかにしました。

現在は、X線回折技術を応用した土の全組成解析法の開発にも挑んでおり、土が隠している面白いものをどんどん見つけてやろうと意気込んでいます。

アメリカ合衆国アリゾナ州の土の中から取り出したマイカの結晶です。日本の土にこんな大きな結晶が含まれることは珍しいですが、これが小さくなったものが隠れています。
アメリカ合衆国アリゾナ州の土の中から取り出したマイカの結晶です。日本の土にこんな大きな結晶が含まれることは珍しいですが、これが小さくなったものが隠れています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

中~高校生の頃に漫画「美味しんぼ」を読んで食の安全や環境保全に関心を持つようになり、農学部へ進学。

学部での専攻は農業経済。台湾でのエビ養殖池の調査中に養殖排水による農地塩害の実態を知り、環境修復技術を学ぶために大学院では土壌学を選択。院合格後に教授から「中尾~、塩害はなあ、おもろないんや~」という衝撃の一言を受け、放射能汚染の実態解明に向けた研究を始める。

その研究が面白かったので、現在に至る。

島根県雲南市で撮影した、黄砂と火山灰が積もった土のプロファイルです。黄砂だけでも2メートルは堆積していると見積もっています。
島根県雲南市で撮影した、黄砂と火山灰が積もった土のプロファイルです。黄砂だけでも2メートルは堆積していると見積もっています。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「元素組換え雲母を利用した放射性セシウム土壌‐植物間移行制御機構の解明」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンピュータ、情報通信機器

(2) 食品・食料品・飲料品

(3) コンサルタント・学術系研究所

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) システムエンジニア

(3) 技術系企画・調査、コンサルタント

◆学んだことはどう生きる?

卒業生の一例として、株式会社飛騨の森でクマは踊るに勤務するOGを紹介しましょう。

彼女は、在学中は土壌化学研究室に所属。研究活動やフィールドワークを通して自然科学の面白さを知りました。卒業後は高分子材料の試験機関に勤めたのち、現在の会社(ヒダクマ)に転職。飛騨の広葉樹の森を育て、その資源を様々なアイデアで形にするのが現在の仕事です。森や自然に対して多くの人が目を向けてくれるような活動も行っています。

先生の学部・学科は?

京都府立大学の農学生命科学科では「ゲノムから生産まで」をキーワードに、遺伝子技術を用いた短幹イネの開発やダチョウ抗体を利用した抗菌製品の開発、異種交雑を利用した新しい果樹の育成など、社会実装を強く意識した基礎研究が展開されています。本学の地域未来創造センターや新自然史科学創成センターとの協力体制のもと、京都ならではの風土を活かした農業システムの構築や自然資源の開拓にも挑んでいます。

先生の研究に挑戦しよう!

・土に住む微生物の呼吸を調べよう

スプーン1杯数十億と言われる微生物の姿は目に捉えることはできませんが、簡単な実験で「生きて呼吸をしている」ことがわかります。ペットボトルなどに土を入れ、そのうえにフェノールフタレイン液で赤く染色したアルカリ溶液に浸したろ紙を置いてふたをします。微生物の呼吸によって出てくるCO2がアルカリ溶液のpHを下げることで赤い色が消えていきますので、その速度を比較することで微生物が多く住む土と、少ない土を見分けることができます。

中高生におすすめ

大気を変える錬金術 ハーバー、ボッシュと化学の世紀

トーマス・ヘイガー 渡会圭子:訳 (みすず書房)

地球と人へのインパクトが余りにも大きいアンモニア合成法、ハーバー・ボッシュ法はいつ、どのようにして開発されたのか?2人の偉大な研究者の生涯を振り返りながら、開発の歴史的必然性や、科学と政治・宗教との切り離せない関係性について学ぶことのできる良書です。


人新世の「資本論」

斎藤幸平(集英社新書)

特に読んで欲しいのは、地下資源に依存した資本主義ってヤバいよね、もう終わらせようぜ!というメッセージが記された前半部分です。感情論ではなくデータに基づいた現状認識には説得力がありますので、ぜひ読んでみてください。


「地球温暖化」狂騒曲 社会を壊す空騒ぎ

渡辺正(丸善出版)

電気化学者、地球環境化学入門の翻訳者として心から尊敬する先達ですが、本書における地球温暖化に対する見解には強いバイアスを感じています。本書における広義の「温暖化懐疑論」を懐疑的に読んでみてください。それはなかなか難しい作業ですが、その過程でデータの正しく見る力や論理展開に潜む恣意性を見破る力が養えるでしょう。

一問一答
Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

くるり 『京都の大学生』

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

『鬼滅の刃 無限列車編』

Q3.大学時代の部活・サークルは?

サッカー

Q4.好きな言葉は?

置かれた場所で咲きなさい


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