テロメアの帽子 不思議な遺伝子の物語
森川幸人(新紀元社)
私の重要な研究ターゲットにテロメアDNAからなる4本鎖DNAがあります。テロメアDNAは染色体の末端に存在しており、細胞が分裂するたびに短くなるので細胞の時計のような働きをしています。
この本では、テロメアDNAの繰り返し配列をテロメアちゃんの帽子に見立てています。テロメアちゃんはたくさんの帽子をかぶっていますが、起きるたびにテロメアちゃんの帽子が1個なくなっていきます。また、最後に帽子がなくなると、起きられなくなります。このように細胞分裂と細胞死を説明しています。
ウイルスの感染についても別のストーリーが展開されており、巻末には解説もあります。
短時間でPCR検査ができる、新型コロナウイルスの新たな検出法
DNAの「呼吸」
DNAの塩基は水素結合で2重らせんを形成し、A(アデニン)はT(チミン)と、G(グアニン)はC(シトシン)と水素結合しています。この塩基対はずっと水素結合しているのではなく、水素結合が形成されたり、解消されたりという平衡状態にあります。
このようにDNA2重らせんの塩基対の水素結合が、数十塩基単位でまとめて開裂したり、戻ったりすることを、DNAの「呼吸」といいます。DNAの呼吸は、DNAの末端でよく生じます。
DNAの末端に結合する分子を合成
DNAに結合する分子であるナフタレンジイミドが2本鎖DNAに平衡挿入されると、塩基対と重なるようにナフタレンジイミドが配置され、2本鎖DNAを安定化します。
私たちは、ナフタレンジイミドを環状にして、DNAの末端の塩基対間に結合するような分子を設計、合成しました。DNAと環状ナフタレンジイミドはDNAが呼吸によって塩基対間の水素結合を開裂したときに結合します。結合の様子はリング状の分子が2つ結合したような形状(カテナン構造)になっているのではないかと予想しています。
ウイルスのDNAを電極上に素早く捕獲
他方、現在のPCR検査は、まず検体に含まれる新型コロナウイルスのRNAからDNAを複製し、微量のDNAを検出できる量まで増やして判定する手法のため、時間とコストがかかることが課題です。
そこで私たちは、電極平面上に環状ナフタレンジイミドを固定化しておき、2重らせんDNAを振りかけると、電極上にDNAが固定化されることを明らかにしました。そしてこの方法を利用して、新型コロナウィルスのPCRサンプルを電極上に固定化して電気化学という方法で検査することで、PCR検査時間をもっと短くすることに成功しました。
妹が小児白血病でしたが、数年の闘病で寛かい(症状や検査異常が消失した状態)となりました。その後の定期健診で染色体の検査をしたところ、「転座(染色体がちぎれて、ほかの染色体にくっついている現象)」という特有の現象が見られました。
高校生の頃に「もうこんな検査ができるのか」とびっくりし、遺伝子の世界に興味を持ちました。ちなみに、「転座」は、遺伝子の機能が失われているわけではないので、妹は今も元気に生活しています。
「環状ナフタレンジイミド-DNAによるカテナン構造を利用したDNAの固定化法開発」
◆主な業種
(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品
(2) 医療機器
(3) 自動車・機器
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
DNAに結合する分子、インターカレータについて研究を進めています。DNAの検査試薬のほか、抗がん剤も開発しています。抗がん剤では、テロメアDNAなどによって形成される4本鎖DNAをターゲットにしており、副作用のない抗がん剤の開発をを目指しています。DNAインターカレータについての研究・開発は、日本でもトップレベルだと思います!
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 医学部 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スペイン。料理がおいしい! スペインを起点にヨーロッパの美術館巡りをしたい。 |
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Q3.学生時代に/最近、熱中したゲームは? 『ファイナルファンタジーVII』 |
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Q4.好きな言葉は? 明けない夜はない |