結晶工学

結晶成長

複雑な結晶成長をコンピュータで再現、物理法則を発見する


三浦均先生

名古屋市立大学 総合生命理学部 総合生命理学科(理学研究科 理学情報専攻)

出会いの一冊

結晶は生きている その成長と形の変化のしくみ

黒田登志雄(サイエンス社)

結晶成長学という、高校生にとって(あるいは理系の大学生にとっても)なじみの少ない学問に対する入門書として最適な一冊。結晶の成長という身近な自然現象の物理的な見方や、それを数式で表す方法が紹介されています。

一般向けというには少々(?)難度は高いですが、物理学という学問の懐の深さを感じることができると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

複雑な結晶成長をコンピュータで再現、物理法則を発見する

結晶のバリエーションは環境の違い

私たちの身の回りには、多くの結晶があります。

雪、食塩、鉱物や宝石、半導体、医薬品、中には、タンパク質やアミノ酸からなる結晶など。自然界で作られた結晶もあれば、人間が作り出した結晶もあります。

結晶は、温度や湿度、溶液濃度、不純物の有無など、それが作られた環境の違いによって、形や色、大きさ、物性が大きく変わります。水分子からなる雪の結晶が千差万別の形を示すように、たとえ同じ材料から作ったとしても、同じ結晶が作られるとは限りません。

結晶成長をシミュレーション

私が取り組んでいる研究は、この複雑な結晶成長という自然現象に関する普遍的な物理法則を発見することです。

そのために、結晶成長においてもっとも重要だと思われるいくつかの物理過程に着目し(モデル化)、それぞれの過程を微積分の式を用いて表現し(定式化)、これらの式を組み合わせてコンピュータで解きます(数値計算)。その計算結果が思わしくなければ、モデル化に立ち返って再検討します。

これを繰り返し、実際の結晶成長現象を正しく再現できたとき、物理法則のひとつを解明できたと言えます。

結晶の理解が、宇宙の理解にもつながる

物理法則は、自然科学や科学技術における考え方の基盤です。鉱物結晶の形成時にその内部に残された痕跡から、地球内部や初期太陽系の環境を推測できるように。窒化ガリウムの結晶成長技術が青色LEDの発明に繋がったように。

結晶成長に関する物理法則をひとつひとつ積み上げ、物質科学の発展に貢献したいと考えています。

結晶表面におけるらせん成長の数値計算結果(奥)と、それを3Dプリンタで「印刷」した模型(手前)
結晶表面におけるらせん成長の数値計算結果(奥)と、それを3Dプリンタで「印刷」した模型(手前)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

自宅にあった図鑑の影響か、宇宙に対して漠然とした興味を持っていました。高校では数学と物理学が得意だったこともあり、宇宙物理学が学べる筑波大学に進学しました。

卒業研究のテーマ決めで「空間スケールが小さいテーマ」という漠然とした希望を出したところ(あまりに大きいと頭の中でイメージできないと思った)、隕石に含まれる結晶組織の成因に関する天体物理現象に取り組むことになり(博士論文もこのテーマ)、その後、結晶成長過程そのものへと興味が移りました。

宇宙スケールの物理学から始まって、原子スケールの物理学に落ち着くことになろうとは、高校生のときには想像もしていませんでした。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「微小重力環境下での結晶成長過程における不純物効果の理論的解明」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ホワイトボードを使って数値計算方法を検討している様子
ホワイトボードを使って数値計算方法を検討している様子
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 金属製品

(2) コンピュータ、情報通信機器

◆主な職種

(1) 製造・施工

(2) システムエンジニア

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

私が所属する名古屋市立大学総合生命理学部の特徴は、「一学科制」である点です。生命科学、化学、物理学、数学、情報科学といった広い理学分野の基礎を学んだ上で、専門分野を選ぶことができます。

高校卒業時点で具体的にやりたいことが決まっていなかったとしても、大学進学後にいろんな分野に実際に触れた上で進路を決めることができるので、私のようにやりたいことが漠然としている学生(「テーマや研究分野に出会ったきっかけ」を参照)にもおすすめです。

先生の研究に挑戦しよう!

・表計算ソフトを使った数値計算

物理現象の多くは、微分を含む方程式(微分方程式)で表されます。結晶成長も例外ではありません。微分方程式をコンピュータで解くことを数値計算といいますが、微分や数列の知識があれば、Microsoft Excelのような表計算ソフトを使って、簡単な問題を解くことが可能です。高校物理で扱うテーマを超えた現象(例えば、空気抵抗を考慮したときの斜方投射など)を数値計算してみると、物理学の広がりを感じることができるでしょう。

中高生におすすめ

ご冗談でしょう、ファインマンさん

リチャード・P・ファインマン(岩波現代文庫)

ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマン博士の自伝です。

相手がどれほどの大人物であっても、自分が正しいと思うことは正しいと真正面から主張する信念。自然現象を表現する新しい方程式を発見し、そこから算出される数値がさまざまな実験データとぴたりと一致することを一人確認し続けるときの静かな興奮。「考える」ということの楽しさや素晴らしさを疑似体験させてくれる自伝です。

物理学に限らず、科学者を目指す人にぜひ読んで欲しい一冊です。


天地明察

冲方丁(角川文庫)

江戸時代に、日本初となる国産歴「貞享暦」を作り上げた天文学者・渋川春海を主人公とした時代小説。現在では当たり前のようにそこにある「暦」というものの、巨大な「権力」としての側面を垣間見ることができます。

一介の囲碁棋士に過ぎなかった主人公が、何度も挫折を繰り返しながら、「暦」という巨大なものに算術を武器として立ち向かっていく姿には、同じ研究者として心を震わされます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

物理学(今と同じ)

Q2.大学時代の部活・サークルは?

陸上同好会

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

フラミンゴを観賞できるレストランのウェイター。閉店後にフラミンゴが過ごしている区画を掃除する仕事があったのですが、すごく臭かったのを覚えています。


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