日本のデザイン 美意識がつくる未来
原研哉(岩波新書)
「デザイン」という言葉を聞いてもいったいどんな対象を扱うのか、「デザイナー」という職能についてもどんな仕事なのか、イメージし難い人もいるでしょう。著者はグラフィック・デザイナーですが、デザインの意味の広がりから、日本文化の独自性とデザインの展望まで、社会文化的・歴史的な視角から論じています。
デザインとは、未来を構想すること。人が豊かに暮らせる/あるべき生活環境をどのようにつくるかという構想(思想)から完成形(具現化)までを指します。デザイン史は、そうした人間の知恵と技によってつくられる環境の総体を美術・社会・経済・技術など多角的に検討します。グローバル化が進む現在、日本のデザインの可能性を考えるよい機会になるはずです。
19世紀、英国の産業デザインが東洋の芸術と出会い、何が起きたのか
英国製品の芸術性には課題があった
現代社会と生活を考えると、その根っこは近代にあります。産業革命に伴って、技術革新、エネルギー・通信技術・輸送の発達、都市化、貿易の活発化、国際交流、メディアの発展など、社会・文化はそれ以前と大きく変わったのです。
この意味で、1851年の第一回ロンドン万国博覧会は象徴的なイベントでした。主催の目的は、世界の産業の成果を集め一堂に披露することでした。ですが、自国と諸外国の産業製品が並置されて、英国デザインの課題が浮き彫りになりました。英国の産業技術は優れていても、製品の芸術性は他国より遅れているというわけです。
官・民のデザイン改革運動
私が研究テーマに据える「デザイン改良運動」は、1830-80年代の英国で行われた官・民のデザイン改革運動を指します。英国政府は、1837年に国立のデザイン学校を創設して産業振興に関わるデザイナーを育成するとともに、博物館の収集品を国民の実物教育に役立てようとしていました。続いて民間では、芸術と社会の関係を捉え直しながら高品質の手工芸を復興する運動も出てきました。
東洋趣味ジャポニスム、シノワズリへの関心
先述の万博を契機にデザイン改革の機運が盛り上がっただけでなく、デザイン改良に携わる人々は非西洋圏のデザインに目を向けました。東洋の建築や工芸を美的モデルだと評価し、異文化の造形原理・装飾形式・色彩・技術等を積極的に取り入れようとしたのです。そうした東洋趣味には、ジャポニスムと呼ばれる日本の芸術文化のブーム、シノワズリという中国趣味も含まれていました。
東洋の工芸と西洋の産業デザインが接触した時、一体何が起きたのでしょうか。東洋の諸芸術は、産業化時代の視覚文化・物質文化にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。このように、私は19世紀英国の装飾デザインを分析して、近代のグローバルな芸術文化交流の実態を明らかにしようとしています。
大学では19世紀英国の文学を専攻しましたが、美術作品を見ることが好きでした。そうしたわけで卒業論文は、文学作品と挿絵の関係性について書きました。卒業後、英国旅行で訪れた教会でウィリアム・モリスという工芸家のステンド・グラスを見て、その印象がずっと心に残っていました。芸大で芸術学を学ぶことを決意して、大学院ではデザイン史を修めました。遠回りでしたが、英国の文学と芸術文化の双方を勉強できたことは良かったと思っています。
「19世紀英国のデザイン改良運動におけるオリエンタリズムの総合的研究」
◆主な業種
(1) 小売(百貨店、スーパー、コンビニ、小売店等)
(2) ホテル・宿泊・旅行・観光
(3) 外食・娯楽サービス等
◆主な職種
(1) 営業、営業企画、事業統括
(2) 一般・営業事務
(3) サービス・販売系業務(店長・マネージャーも含む)
◆学んだことはどう生きる?
歴史文化学科には、兵庫県淡路島の珉平焼に源流をもつタイルメーカー(製陶業)に就職した卒業生がいます。江戸時代の女性の日常生活を調べるために、出身地西宮の庄屋日記を読破して、卒論を書きました。京都にあるアンティーク店でバイトをするほどの骨董好き。戦前の銭湯を改装したカフェでマジョリカタイル(19世紀英国の装飾タイルを模したもの)に出会って魅せられ、その製造会社を一心に調査して就職を果たしました。
自分の興味やルーツを深掘りしてとことん研究を行い、やりたいことを実現する力は素晴らしいの一言です。
京都は世界最大の国際観光都市で、日本屈指の歴史文化都市でもあります。この京都にある歴史文化学科では、歴史文化力・英語力・デジタル力という3つの力を育成します。
学生の皆さんが自分の好きなことを追求できるよう受講科目を選択できます。歴史学や美術史・京都文化学・民俗学や妖怪文化論など多様な科目を自由に選択して授業メニューをつくれます。観光に興味があれば、先端ツーリズムコースがあります。さらに、絵画や古典文学をデジタル化してコンピュータで解析するデジタル人文学も学べます。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 芸術大学で工芸やデザインの実技を学びます。頭/知を使う史学や理論だけでなく、身体と心を動かすものづくり双方を行いたいです。その他にも、植物学を学びたいです。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 英国です。緑に囲まれた地方の田舎で、ガーデニングを学び自然保護の活動をしながら暮らしたいです。都市・ロンドンで1年近く暮らしてみて、英国人が田舎に憧れる気持ちがよくわかりました。 |
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Q3.感動した/印象に残っている映画は? 『英国王のスピーチ』です。きつ音に悩むアルバート王子が言語療法士と出会い、症状を克服して力強い国王になってゆく姿が描かれます。エリザベス2世の父・ジョージ6世が、試練と心の葛藤を乗り越え、戦争下の国民を勇気づけるスピーチを行うラストが印象的です。 |
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Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 海外調査に行く度に、アンティーク市に行くのを楽しみにしています。19世紀英国で使われた日用品に触れると、当時の生活がリアルに偲ばれます。自分の研究に関わる掘り出し物を見つけると、もっとわくわくします。 |