応用微生物学

汚染浄化

微生物が地球を復元する!微生物を使った環境浄化


黒田真史先生

常葉大学 社会環境学部 社会環境学科

出会いの一冊

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

J. ロックストローム、M. クルム、監修:武内和彦、石井菜穂子、訳:谷淳也、森秀行ほか(丸善出版)

今、我々は持続可能な世界を実現できるか否かの岐路に立たされているとされています。持続可能な世界の実現は世界共通の目標であるはずですが、世界の人はその目標を共有できておらず、十分な対策を協調して進めることができていません。

この本は、世界的な環境学者であるJ.ロックストロームが写真家であるM.クルムと共に、世界の危機的状況を科学と芸術の両面から伝えようと執筆した本で、科学に基づいたわかりやすい文章と美しい写真で、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)と我々が進むべき道について教えてくれます。現代社会に住む全ての人が知っておくべき内容だと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

微生物が地球を復元する!微生物を使った環境浄化

人間活動が汚染を増やす

化石燃料や鉱物などの資源の不足、化学物質による環境汚染など、現代の社会は多くの資源・環境問題に直面しています。なぜ、これらの問題は生じるのでしょうか。共通して言えるのは、「地球の物質循環のバランスが崩れている」ことです。

地球は本来、復元力を持っており、自然の営みの中で長い時間をかけて化石燃料や鉱物が生成し、汚染物質は分解され無害な物質に変わることで物質が循環しますが、現代の社会では、この復元力を超える活発な人間活動が行われているために、資源が枯渇し、汚染物質が蓄積し、問題が顕在化しています。

分解と合成で物質循環を担う

生態系において、地球の復元力を担っているのが微生物です。地球上のあらゆる場所に存在する多種多様な微生物が、代謝を通じて絶えず物質の分解と合成を行うことで地球の物質循環を促しています。

私の研究室では、環境中の微生物の働きを理解し、地球が本来持つ復元力を活用することで、資源・環境問題の解決に貢献することを目指して研究を進めています。

セレンを固体や気体に変換する細菌に注目

現在、特に力を入れているのは、セレンの代謝細菌に関する研究です。セレンは半導体原料などに使われるレアメタルですが、毒性が高く水や土壌の汚染物質としても知られています。セレン代謝細菌は水に溶けているセレンを固体や気体に変換することができるため、これを利用することで汚染の浄化と資源の回収を同時に達成できます。

私は、自然環境中のどこにセレン代謝細菌がいるか、またそれをどのように扱えば力を発揮してくれるのかを明らかにするために、水や土からセレン代謝細菌を新たに分離し、セレンの代謝の仕組みを詳しく調べています。

セレン代謝細菌RP3株の寒天培地上での培養の様子。セレンを含まない培地上(A)とセレンを含む培地上(B)での様子を比較すると、セレンを含む培地(B)では、RP3株がセレンを代謝することにより、赤色の単体セレンが生成していることがわかります。
セレン代謝細菌RP3株の寒天培地上での培養の様子。セレンを含まない培地上(A)とセレンを含む培地上(B)での様子を比較すると、セレンを含む培地(B)では、RP3株がセレンを代謝することにより、赤色の単体セレンが生成していることがわかります。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私が育った町には、当時、日本の一級河川の中で最も水質が悪いと言われた川がありました。近所に昔から住む人の話では、以前は泳げるくらいにきれいな川だったとのことで、なぜ川が汚れるのか、どうすれば浄化できるのかに興味を持ちました。

高校時代に進路を考える中で環境浄化には微生物が関わっていることを知り、応用微生物学を大学で学んだことが、現在の研究にまでつながっています。

嫌気チャンバーを用いた作業の様子。酸素のない環境で増殖する微生物を培養する場合は、窒素で満たした嫌気チャンバー内で培地を作成しています。
嫌気チャンバーを用いた作業の様子。酸素のない環境で増殖する微生物を培養する場合は、窒素で満たした嫌気チャンバー内で培地を作成しています。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「土壌微生物の代謝活性化によるセレン汚染土壌の浄化とセレンの回収」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 食品・食料品・飲料品

(2) 薬剤・医薬品

(3) その他の化学系

◆主な職種

(1) 生産技術(プラント系)

(2) 品質管理・評価

(3) 中学校・高校教員など

◆学んだことはどう生きる?

常葉大学は静岡県内の企業への就職にとても強い大学ですので、卒業生の多くは県内企業に就職しています。私の研究室の卒業生は、微生物、環境、化学分析に関する知識を活かして食品製造業、医薬品製造業、分析会社、分析機器販売業等の企業で活躍しています。また、教員免許を取得して、教員になる卒業生もいます。

先生の学部・学科は?

常葉大学社会環境学部では地球環境と防災について総合的に学ぶことができます。2年次に理系の環境・自然再生コースと文理融合型の防災・地域安全コースに分属され、さらに専門性を深めます。

私が所属する環境・自然再生コースでは、化学・生物・地学に関する幅広い内容を学ぶことで、地球環境について多角的に理解することができます。また、教職課程を履修することで、中学校・高校の教員免許を取得することもできます。

採泥器を用いて川底の泥を採取している様子。様々な環境から水や土などを採取して研究室に持ち帰り、その中にいる微生物を分離します。
採泥器を用いて川底の泥を採取している様子。様々な環境から水や土などを採取して研究室に持ち帰り、その中にいる微生物を分離します。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

地球環境問題がよくわかる本 改訂版

浦野紘平、浦野真弥(オーム社)

現代の地球環境問題を平易な言葉と豊富なイラストでわかりやすく説明しており、環境問題の基礎知識を知ることができるよい本だと思います。


Dr. STONE

原作:稲垣理一郎、作画:Boichi(ジャンプコミックス)

人類が一度失われた文明を取り戻していく過程がとても面白いです。随所に科学のワクワク感が詰まっています。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

経済学を学んでみたいです。環境問題の解決のためには、自然科学と社会科学の両方が連携して社会を変えていく必要があると感じています。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

企業で働いていた際に長期出張で訪れたタイは私の第二の故郷です。タイの人は明るくとても親切で、生きる上で大切な多くのことをタイで学んだ気がします。

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。原作は30年以上前に書かれているにも関わらず、現在の地球環境問題の本質を捉えたような世界を背景にした物語で、とても考えさせられる内容です。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

大学では交響楽団に所属しトロンボーンを吹いていました。現在も市民オーケストラに入って演奏を続けています。

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

研究室の学生に紹介してもらった最近のアニメを見ること、芸人さんのラジオを聞きながらガンプラを作ること。


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