痛くない尿検査で、より正確な癌細胞の判定を
組織を取って調べる検査は痛い
皆さんは「尿」と聞くと汚いというイメージを持つかもしれません。でも、もし自分が検査を受ける時に、膀胱や腎臓に内視鏡などを入れて組織を採取する検査(生検)と、尿の検査ならどちらが良いですか(もちろん尿ですよね?)。尿は患者さんに痛みを与えない優れた検体です。
主観にたよらない手法を開発
以前は尿中の細胞を顕微鏡で観察して、その形態(顔つき)で癌細胞かどうかを観察者の主観で判定していました。しかし、例えば同じものを食べても味が濃いと感じる人もいれば丁度良いと感じる人もいるのと同じように、細胞の形態による判定では観察者によって結果が異なることがあります。
そこで、私は学生さんとともに免疫細胞化学や画像解析装置などの手法を用いた客観的で正確な検査方法の開発を行っています。その結果、糸球体腎炎などで腎臓の細胞がダメージを受けた後に再生してくる新しい細胞が、癌細胞とそっくりな形態を示すことを発見し(以前は癌細胞と誤診されていました)、その再生細胞と癌細胞を正確に鑑別できる検査方法を開発しました。
急増する20代の子宮頸癌
また、皆さんは日本で20歳代の子宮頸癌患者が急増していることを知っていますか?これは、日本で子宮頸癌ワクチンがほとんど接種されてこなかったことと、子宮頸癌の検診受診率が低いことが原因です。このような現状を改善すべく、私の研究室では神戸市などと連携して子宮頸癌ワクチンと検診の重要性についての啓発活動を行っています。
さらに、私の研究室では定期的に発展途上国に出向いて病理・細胞検査の技術指導を行っています。さらに、近年では水族館のイルカの健康維持のための細胞検査なども行ってます。
私は、大学教員になる前に臨床検査技師として病院で働いていました。私が勤務していた病院は中小規模病院であったため、一般検査と病理検査という異なる検査部門を兼務していました。一般検査では尿中に出現する腎臓由来の細胞を、一方の病理検査では尿中の癌細胞を顕微鏡で観察していました。
私は、同じ尿中の細胞を観察しているのに分野ごとに全く異なる細胞を観察対象としていることに疑問を持ち、病理検査で腎臓由来の細胞を観察する研究を始めました。その結果、糸球体腎炎では腎臓由来の再生細胞が癌細胞のような形態を示すことを発見しました。そして、この再生細胞が病理検査では癌細胞と判定されていたことを免疫細胞化学で証明し、海外の学会や学術雑誌で発表しました。この経験から、研究においては様々な分野の知識や経験が重要であると考えています。
「IgA 腎症の新たな非侵襲的検査法の開発 -腎生検と透析を回避するために-」
◆ 大﨑研究室HP
◆主な業種
(1) 病院・医療
◆主な職種
(1) その他医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士等)
◆学んだことはどう生きる?
私の研究室の卒業生は、研究能力を有する臨床検査技師や細胞検査士として臨床現場で活躍しています。
神戸大学の医学部保健学科検査技術科学専攻では、半数以上の学生が学部卒業後に大学院に進学します。私の研究室では、修士課程の大学院生に対して神戸大学病院や兵庫医科大学病院の病理部の協力のもとに細胞検査士の資格取得の支援を行っています。
細胞検査士は、原則的に臨床検査技師の有資格者のみが挑戦できる難関資格で、子宮頸癌や膀胱癌などを検出する細胞診検査を行うためには必須の資格となっています。学部卒業時に臨床検査技師の資格を取得した大学院の学生は、学位(修士)と細胞検査士資格のダブル取得を目指して研究と勉強を頑張っています。