自然災害科学・防災学

火山ガス

火口以外でも噴火は起きる!噴火しやすい場所の特定


寺田暁彦先生

東京工業大学 理学院 化学系(理学院 化学系 化学コース)

出会いの一冊

世界名作劇場 家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ

原作:ウィース『スイスのロビンソン』

かつて、毎週30分間、1年を通じて完結するテレビアニメシリーズが放送されていました。私が小学校2年生(1981年)の年の放送は、乗っていた旅客船が難破して無人島に流れ着いたある家族が生還するまでの物語でした。

この家族らが無人島を脱出するきっかけとなったのが火山活動でした。主人公らは、美しい自然の恵みで生き永らえつつも自然の営みをよく観察しており、その島が火山島であることを見抜きました。さらに、自然のわずかな変化を捉え、噴火が迫っていることを認識して島を脱出したのです。

主人公らは、自然に親しむだけではなくて、理学的知見に基づいて自然のなりたちを理解して災害を逃れました。私は、この主人公らの行動を心底「かっこいい」と思ったのです。本アニメは各種インターネット配信サービスで閲覧可能です。
(画像はDVD版)

こんな研究で世界を変えよう!

火口以外でも噴火は起きる!噴火しやすい場所の特定

山麓での噴火の恐怖

火山の噴火は、山のてっぺんの火口で起きるとは限りません。例えば、山麓のお土産屋さんの裏から噴火すると怖いですよね。噴火しやすい場所がどこかわかれば、お土産さんを移転するとか、避難のための道を作るなどの対策ができます。つまり、「想定外」を減らすことができます。

土の隙間にある空気の成分を調べる

この問題を解決するために土に注目しました。皆さんがイメージする、ふつうの土です。土のつぶつぶの間のわずかな隙間には空気が詰まっています。火山で土の隙間にある空気の成分を化学的に詳しく調べて、噴火しやすい場所を特定するのです。

この技術の基本的な部分は「地下資源探査」の分野で考えられていました。彼らの会合に出席していたときに、偶然、この話を聞いたのが15年前です。これは使えると思ったのですが、いくつか問題点もあり、そのまま火山に応用できないこともわかりました。

狙った通り!マグマガスを発見

深夜に山にテントを張って実験したり、雷に追われて逃げ回ったりと苦労は多かったですが、一緒に研究している学生達の奮闘のおかげで問題点を解決してゆきました。そして、狙った通り火山内部から染み出してくるマグマガスを見つけました。このマグマガスは、火山のごく一部にしか存在しません。そのような場所では、将来、噴火が起きる危険性が高いと思います。

この研究で役立ったのは、自分の野外調査の経験や、友人からのアドバイスもありますが、自身から湧き出てくる興味が一番です。自分の興味が満たされただけでも幸せですが、いずれ、この成果が防災対策に役立てられればさらに嬉しいです。

草津白根山で地中ガスを精密測定しているようす
草津白根山で地中ガスを精密測定しているようす
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

あまり計画性はなく、中学・高校生のときに将来のことは真面目に考えてはいませんでした。火山については「興味があるけどよく知らない」という中で、もっと知りたいと思って勉強してゆくうちに現在に至っています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「活動火口外で発生する側噴火の危険度相対評価~山体に潜在する亀裂のマッピング~」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
調査中に空から撮影した草津白根山。火山では美しい景観を楽しめますが、噴火の危険もあります。
調査中に空から撮影した草津白根山。火山では美しい景観を楽しめますが、噴火の危険もあります。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンサルタント・学術系研究所

(2) ネットサービス/アプリ・コンテンツ

(3) 鉱業・資源

◆主な職種

(1) 技術系企画・調査、コンサルタント

(2) システムエンジニア

(3) 営業、営業企画、事業統括

◆学んだことはどう生きる?

学生が山に登り、自分の手を動かして調査します。本物の活火山が相手ですから、先生からの指示待ちではなく自分で考えて行動する力が身に付きます。そもそも火山は制御できないので、計画通りに進むことの方が珍しいです。多少の困難にあたっても、臨機応変に、前向き思考な人材として活躍しているのかも知れませんね。

先生の学部・学科は?

大学教員が常駐する火山観測所を運営しているのは、国内では東京工業大学を含めて3大学だけです。本物の活火山を実験場として様々な研究を進めることができます。噴火発生時には、専門知識と大学観測データを活かして災害対応について助言することも大事な仕事です。

草津白根山・本白根山で2018年に噴火した火口内で微量の火山ガスを採取するようす
草津白根山・本白根山で2018年に噴火した火口内で微量の火山ガスを採取するようす
先生の研究に挑戦しよう!

自分や祖父母の住む地域について、どんな災害が起き得るのかインターネットや図書館、役所(役場)で調べる。実際に現地を歩くなどして、どんな対策がなされているか、それが本当に有効かを検討する。そして、なぜそうなっているのか、どうしたら改善できるかを地域事情もふまえて考える。

中高生におすすめ

死都日本

石黒 耀(講談社文庫)

火山学者を主人公とする数少ない小説。専門家が読んでも違和感ない描写。


理科系の作文技術

木下是雄(中公新書)

文章作成技術に留まらず、考えのまとめ方、伝え方などコミュニケーションの基礎を知ることができます。


最新科学が映し出す火山 その成り立ちから火山災害の防災、富士山大噴火

萬年一剛(ベストブック)

教科書っぽくない構成と読みやすい文章で、最新の火山知識を得られます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

農芸化学

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

イタリア。気候や自然、歴史、食事がよい。

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『この世界の片隅に』(監督:片渕須直、原作:こうの史代)。様々な見方ができる。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

テレビ局のコールセンター。社会の様々な方々と一対一で会話できた。


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