数理物理・物性基礎

スピン

光を利用した「超高速スピントロニクス技術」


高吉慎太郎先生

甲南大学 理工学部 物理学科(自然科学研究科 物理学専攻)

出会いの一冊

驚異の量子コンピュータ 宇宙最強マシンへの挑戦

藤井啓祐(岩波書店)

量子力学は大学の物理系の学科で学ぶ科目ですが、その基礎原理を利用して高速で計算を行う量子コンピュータは、今や日々のニュースでも耳にするような単語になりました。本書はこの分野の第一線の研究者が、「量子とはどういうものか」「量子コンピュータはなぜ高速な計算が可能なのか」などの問いについて、難しい数式は使用せず、正確さを損なわない範囲で簡単化して説明しています。

量子コンピュータ開発の現状や将来期待される産業への応用についても触れられているので、理系分野を学ぶ人以外にも役に立つ内容になっていると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

光を利用した「超高速スピントロニクス技術」

磁石の素「スピン」を操作する

磁石は「スピン」という微小な磁石の素が集まってできています。電子を操作する技術であるエレクトロニクスはパソコンや携帯電話など現代生活を支えるものですが、同様にスピンをデバイス作製に応用する試みもあり、スピントロニクスと呼ばれます。

私はレーザーなどの光を利用してスピンを素早く操作する「超高速スピントロニクス技術」の確立に向けた理論研究を行っています。電子に比べてスピンの操作は発熱を抑えることができるため、省エネ化の観点からも重要です。

スピン系の操作は物性のフロンティア

スピンにレーザーを照射した際の動きを計算するためには、物理系の学科で花形の科目である量子力学を駆使する必要があります。量子はしばしば我々の直観に反する振る舞いをするので、まったく予想しなかったような結果が出てくるところが面白いと思います。多数のスピンで構成される系の動的振る舞いの計算は大変難しい問題のため、まだ未解明のことが多く、新たな物性のフロンティアが広がっています。

量子コンピュータへの応用も期待

レーザーによって物質の状態を自在に切り替えたり、今まで知られていない新しい状態を実現したりすることも研究の重要な目的です。たとえば、系の細部には依存せずに全体的な形で性質が決まるような「トポロジカル状態」が近年注目されています。この状態は系の部分的な変更の影響を受けないので、ノイズに対して頑健であるという性質があります。そのため、トポロジカルなスピン系はノイズ由来のエラーに耐性のある量子コンピュータへの応用も期待されています。基礎研究と社会応用の両面で重要な研究であると考えています。

クラスター計算機です。これを用いて大規模な数値計算やシミュレーションを行います。
クラスター計算機です。これを用いて大規模な数値計算やシミュレーションを行います。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は中高の頃から数学オリンピックや大学で開かれる一般向け講座などに参加していて、数学や物理に興味を持っていました。大学では物理学科に進学して、学園祭展示のために実験をする機会があったり、また学生実験も楽しかったので、大学院の修士課程では物性実験の研究室に所属しました。

しかし、研究を進めるうちに数理を用いて物理現象の原理を解明したいという思いが強くなってきたため、博士課程から物性理論の研究室に移籍することになりました。その後は物性理論の研究者として働いていますが、実験に携わっていたことも大切な経験になっています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「外場駆動で誘起される乱れた系における新奇状態の探索」

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先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室のセミナーで説明している様子です。物理の理論系研究室では、本や論文を読んでその内容について説明するセミナー・輪講が定期的に行われます。
研究室のセミナーで説明している様子です。物理の理論系研究室では、本や論文を読んでその内容について説明するセミナー・輪講が定期的に行われます。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 一般機械・機器、産業機械(工作機械・建設機械等)等

(2) コンピュータ、情報通信機器

(3) 半導体・電子部品・デバイス

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) システムエンジニア

(3) セールスエンジニア・技術営業

◆学んだことはどう生きる?

物性物理学の研究をしているため、材料や機械などのメーカー系に就職する学生が多いです。またほとんどの学生が研究で数値計算・シミュレーションを行うことになり、プログラミングのスキルは自然と身につくため、システムエンジニアになる学生も多いです。

その他にも物理学の理論研究に取り組むことで、数理的なスキルや英語論文を読み書きする能力なども身につくため、それらを生かせるような仕事に従事することができます。

先生の学部・学科は?

甲南大学の物理学科は規模は大きくないですが、物性分野では半導体・光物性・強相関物性の分野の研究に集中しています。研究室の垣根を越えた交流も多く、物性の境界領域の研究に取り組むことができます。私の専門もスピンがたくさん並んだ強相関系(相互作用の強い系)に光を照射したときにどのようなことが起きるかを理論的に調べるもので、光物性と強相関物性の境界領域の研究に取り組んでいます。

先生の研究に挑戦しよう!

発光ダイオード(LED)には赤・青・緑など様々な色のものがありますが、色と電気的な特性(例えばどのくらいの電圧を印加すると発光するようになるかなど)の間にはどのような関係があるでしょうか。また家庭用のLED照明は白色をしていますが、どのようにして白色を作っているのでしょうか。

中高生におすすめ

量子力学と私

朝永振一郎(岩波文庫)

ノーベル物理学賞を受賞された朝永先生の著作です。研究をしていると大半のことはうまくいかなくて、成果を得るまでには苦労が多いのですが、朝永先生のような多くの業績を残された方でも研究の苦悩がたくさんあるということが書かれていて勇気づけられます。また量子力学が出来上がっていく時代の雰囲気を伝える重要な文献でもあると思います。


宇宙を解くパズル 「真理」は直観に反している

カムラン・バッファ、監訳:大栗博司、訳:水谷淳(講談社ブルーバックス)

一見「頭の体操」のようなパズルが並んでいるのですが、取り上げられている問題には物理的な背景があり、パズルを解くことで物理学の考え方を身につけられるよう工夫されています。実は物理の理論研究をしていると、このようなパズル的な問題に行きあたることが意外とよくあります。


研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす

長谷川修司(講談社ブルーバックス)

「研究者としてうまくやっていくには」というタイトルなのですが、研究者を目指していない人でも楽しく読めます。研究者が普段どのように過ごしているのかはなかなか想像がつきにくいと思うのですが、この本を読むと研究者の生活の雰囲気が少し感じとれると思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

数学でしょうか。やはり幅広い分野の基礎をなす学問だと思います。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

スイス。実際に住んだこともあるのですが、やはり身近に雄大な自然があるのが魅力です。

Q3.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

大学院生時代によくボードゲームをやっていました。特に『カタンの開拓者たち』はかなり遊びました。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

茶道部。日本文化に興味があったので入部しました。


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