数理物理・物性基礎

量子コンピュータ

超高速計算だけではなく、制御や計測にも活躍できる量子コンピュータ


尾張正樹先生

静岡大学 情報学部 情報科学科(総合科学技術研究科 情報学専攻)

出会いの一冊

ご冗談でしょう、ファインマンさん

リチャード・P・ファインマン、訳:大貫昌子(岩波現代文庫)

朝永振一郎、シュヴィンガーと共に1965年にノーベル物理学賞を受賞したファインマン先生のエッセイ。物理学者としてのファインマン先生の人生が面白おかしく語られます。

私は、高校時代にこの本を読んで「物理学者になれば、きっと凄く楽しい人生が待っているに違いない」と信じるようになり、物理学者になるために猛勉強を行いました。もちろん、後の人生において、“物理学者になるだけ”では幸せにはなれないことを思い知ることになりました。

この本を読んでファインマン先生のファンになった人は、大学入学後は是非とも「ファインマン物理学」に挑戦して欲しいと思います。ファインマン先生が最高に楽しく物理学を教えてくれます。また、ファインマン先生は、1980年代に量子コンピュータを最初に提唱した研究者の一人であることも付け加えておきます。

こんな研究で世界を変えよう!

超高速計算だけではなく、制御や計測にも活躍できる量子コンピュータ

0と1の単位、ビットで蓄えられる情報

現在の情報技術では、コンデンサーに溜まった電荷の量や、磁石の向きなどの様々な物理系の状態に情報が蓄えられています。そして、それらの物理系の状態に【0】と【1】というラベルを付けることで、情報をビットとして表現しています。このように、同じビットで情報を表現することで、どのような物理系に情報が保存されていたとしても、原理的には同じプログラムが実行可能となっています。

0と1を重ね合わせ超高速計算が可能に

原子や分子などの量子力学に支配されるミクロな物理系では、【0】と【1】のラベルが付けられた2つの異なる状態が存在すれば、同時に【0】でありかつ【1】であるような重ね合わせ状態も存在します。このような重ね合わせが可能なビットにより構成されるコンピュータは量子コンピュータと呼ばれ、素因数分解をはじめとした様々な問題を従来のコンピュータとは比較にならないほど早く解けることが知られています。

ついに実現した量子コンピュータ

20年前、量子コンピュータの研究を始めた頃の大学院生の私は、自分が生きているうちには量子コンピュータは実用化されないと考えていました。しかし、その後の急速なデバイス開発により、現在では数百ビットのメモリを持つ量子コンピュータが実現しています。

現在のコンピュータは機械の制御や、データ収集のための測定機器としても役立っています。そこで、私は、量子コンピュータが、問題を早く解くだけではなく、ミクロな物理系の制御や計測にも力を発揮できることを示すための基礎研究を進めています。

研究室においてディスカッションを行う学生達。当研究室は、理論とシミュレーションを中心とした研究を行っているので、ディスカッションは研究を進める上で非常に重要な役割を果たします。右側はインドからの留学生です。
研究室においてディスカッションを行う学生達。当研究室は、理論とシミュレーションを中心とした研究を行っているので、ディスカッションは研究を進める上で非常に重要な役割を果たします。右側はインドからの留学生です。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は高校生の頃に宇宙に関する物理に興味を持ちました。そのため、大学では地球や惑星に関する物理を勉強する学科に進学しました。しかし、勉強を進めると量子力学の研究がしたくなったので、大学院では素粒子理論の研究室を目指して物理学専攻の院試を受けました。

すると、面接の最後に、「新しく量子情報の理論の研究室ができますが、この研究室に入る気はありますか?」と聞かれました。私は、「量子情報」という言葉を聞いたこともなかったのですが、試験の出来が悪く、このままでは院試に落ちると思っていましたので、藁にもすがる思いで「はい。あります。」と答えました。これが、私と量子情報科学の出会いでした。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「ノイズのある中規模量子計算機を用いた量子多体系の計測と制御」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室の本棚から学術書を取り出し読むインドからの留学生。理論やシミュレーションを中心とした研究を進めるためには、様々な数学の定理や情報科学の技術を用いる必要があります。それらの定理や技術を学ぶために、研究室には多数の学術書を揃えています。
研究室の本棚から学術書を取り出し読むインドからの留学生。理論やシミュレーションを中心とした研究を進めるためには、様々な数学の定理や情報科学の技術を用いる必要があります。それらの定理や技術を学ぶために、研究室には多数の学術書を揃えています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンピュータ、情報通信機器

(2) 通信

(3) 自動車・機器

◆主な職種

(1) システムエンジニア

(2) 設計・開発

(3) 基礎・応用研究、先行開発

◆学んだことはどう生きる?

当研究室が所属するような地方大学では、博士課程に進学して研究者を目指す学生の数は少なく、多くの学生は学部や修士課程の終了後に技術職として就職します。特に、当研究室の多くの卒業生は、有名企業においてIT技術者として活躍をしています。

現在は、これらの職において量子コンピュータの知識を使うことは少ないと思います。しかし、量子コンピュータ開発の急速な進展により、近い将来、量子コンピュータが実用化された暁には、当研究室で身に着けた技術を生かせる日が来ると私は信じています。

先生の学部・学科は?

現在、量子コンピュータの研究室の数が急速に増加しています。それでも、その多くは超難関大学に集中しています。当研究室は、地方国立大学に存在する数少ない量子コンピュータを専門とする研究室の一つです。

静岡大学 情報学部 情報科学科では、ネットワーク、アーキテクチャ、データベースから機械学習まで、全ての情報技術を身に着けることができます。これらの技術は、量子コンピュータの研究を進める上でも強力な武器となります。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

生命40億年全史

リチャード ・フォーティ、訳:渡辺政隆(草思社)

地球誕生の数億年後に海が形成され、熱水が噴き出している海中で、有機物のドロドロのスープの中から最初の生命が誕生します。この生命の誕生から人類の誕生までの40億年を一冊の本で解説してくれます。特に、著者は三葉虫の研究者であることから、古生代の生物進化について詳しく解説が行われています。

私の専門は物理と情報で、生物ではありませんが、小さい頃は恐竜をはじめとする古生物が大好きでした。この本では、生命の進化の長い長い歴史が生き生きと描かれており、この本を読むと私は子供心に戻り、地球と生命の素晴らしさに感動します。地球と生命の歴史への入門として最高の一冊です。


エセー

ミシェル・ド・モンテーニュ、訳:原二郎(岩波文庫)

随筆を意味するEssayという英語の語源となった本です。日本は戦国時代だった頃のフランスで、弱小貴族のモンテーニュは37才で公職を辞し自領の塔にこもって、「自分自身の研究」を始めます。20年に渡る自分研究の成果は、約500ページの文庫本6冊からなる長大な作品となってまとめられました。

戦乱や疫病で多数の人々が命を落とす悲惨な時代において、モンテーニュは、自分自身を研究対象としながら、人間、社会、宗教、教育といったありとあらゆることに対して、自由奔放な考察を巡らせます。

皆さんは、人生で様々な困難に出会うと思います。今より遥かに困難な時代に生きたモンテーニュの言葉は、皆さんの人生の良い道しるべとなると思います。長い時間をかけて、少しづつ読み進めてみてください。


ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか

NHKスペシャル取材班(角川書店)

皆さんは、日々勉強に明け暮れていると思います。大人の我々も同じように、日々、仕事や家事育児などに全力投球をしています。そのような忙しい毎日の中で、我々は様々な悩みを持つことになります。そのような時に、「原点に戻って考えなおす」ことは非常に重要です。

この本は、「そもそもヒトって何ですか?」という原点を最新の研究を元に解説してくれます。人間は、進化した猿の一種です。人間は、類人猿と何が違うのでしょうか?  ヒトはどのようにして人間になったのでしょうか?  この本の中では、このような疑問に対して、様々な分野の世界的な研究者が回答を与えてくれています。

この本は人類学に対する最高の入門書であるだけでなく、人生や社会における現在の問題について考えるための基礎を与えてくれるでしょう。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

学部から大学院に進学するときに、「地球惑星物理学」から「量子情報科学」に専門を変えました。しかし、学部の3年生の実験でお世話になった先生が、後に惑星探査プロジェクトで活躍されたことなどを見ていますと、「地球惑星物理学」のまま専門を変更しなくても、それはそれで、楽しい研究生活があったのではないかと考えています。

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

高校1年生の時に映画館で観た、近藤喜文が監督、宮崎駿が絵コンテ&脚本を担当した『耳をすませば』が中高生の時に一番影響を受けた映画だと思います。ラブストーリーではなく、主人公の成長の物語として見ていました。あまりに好きになったため、大学院生の頃の一時期、この作品の舞台である聖蹟桜ヶ丘に住んでいました。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

高校まで私は音楽には全く縁がなかったのですが、大学では南米スペイン語圏の民族音楽を演奏する「民族音楽愛好会」というサークルに属しました。このサークルでは、尺八に似たケーナという縦笛や、パンフルートの一種であるサンポーニャ、アルパカの皮を用いた太鼓であるボンボ、5コース10弦の小型の撥弦楽器のチャランゴ、そしてギターなどを演奏しました。その後、ジャンルは変化しましたが、今に至るまで音楽演奏は、私の重要な趣味であり続けています。

Q4.好きな言葉は?

われわれは大馬鹿者である。だからこんなことを言う。「あの人は生涯を無為のうちに過ごした。私は今日何もしなかった。」-なんだと。あなた方は生きたではないか。それが、あなた方の仕事の根本であるばかりでなく、もっとも輝かしいものではないか。-「私だって重大な仕事をやらされたら、真価を見せてやれたのに。」-あなたは自分の生活を考え、それを導くことができたか。それなら、もっとも立派な仕事を果たしたのだ。 自然は、自己を示し、能力を発揮するためには、大きな運命を必要としない。あらゆる段階で、幕の裏でも、幕なしにでも、それができる。われわれの務めは、自分の性格を作ることで、書物を作ることではない。勝利と、諸州をかちとることではなく、生き方に秩序と平静をかちとることである。われわれの偉大な光輝ある傑作は、立派に生きることである。それ以外のすべては、統治することも、富を蓄えることも、建物を建てることも、せいぜい付随的、副次的なものにすぎない。
(ミシェール・ド・モンテーニュ著 原二郎 訳 『エセー』より)


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