日本語教育

母語による学習支援

授業についていけない外国人の子どもたち。母語を活用して教えるのがカギ


清田淳子先生

立命館大学 文学部 人文学科 言語コミュニケーション学域

出会いの一冊

はてしない物語

ミヒャエル・エンデ、訳:上田真而子、佐藤真理子(岩波少年文庫)

<現実世界>から<本の世界>に入り込んだ主人公の、様々な冒険を描くファンタジー小説です。子どもから大人まで、想像・創造することの楽しさや、物語世界に浸る醍醐味を味わわせてくれます。映画化もされ、文庫本でも読むことができますが、単行本では、本の装丁が二つの世界を視覚的に表しています。

こんな研究で世界を変えよう!

授業についていけない外国人の子どもたち。母語を活用して教えるのがカギ

増える外国人の子どもたち

日本では1990年頃から外国人労働者の受入れが増加し、親とともに来日する子どもが増えています。子どもたちの多くは地域の小中学校に通いますが、日本語がわからないため、学校の授業についていけないという困難を抱えています。学習場面で用いる日本語を理解することは、決して簡単なことではないのです。

まずスペイン語で教え、次に日本語で教える

日本語力が不十分な子どもにどのように教科内容を教えるか、その方法の一つに、子どもの母語を活用するやり方があります。これは、第1言語と第2言語は別々に発達するのではなく、相互に依存し合って発達するという理論に基づきます。

学習支援の場では、まず、強い方の言語である母語を使って教科内容を学びます。例えば、メキシコ出身の子どもを対象に国語を教える時は、国語教材文をスペイン語に翻訳したものを用意し、先生と子どもはスペイン語でその内容についてやりとりします。その後、母語での学習で得た確かな理解を手がかりに、日本語で内容理解を進めます。

母語を使った遠隔教育

私はここ数年、このような母語を使った授業を遠隔で行うことに取り組んでいます。参加生徒の自宅にはパソコンがなかったり回線容量の問題があったりして、国語の授業を「スマホを使って音声だけで」行ったところ、そこでは実に多様で高度な読みの活動が行われていることがわかってきました。

外国から来た子どもの「わかった!」は、同じ教室で学ぶ日本人生徒の学びも豊かにしてくれる、そんな思いで研究を進めています。

大学のゼミの光景〜発表内容についてのグループ討議
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SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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外国から来た子どもは、来日後、学業に困難を抱えたり、中には、第一言語も第二言語も不十分な状況に陥ってしまう子どももいます。これは、当人にとってだけでなく、受け入れ側の日本社会にとっても、貴重な人材(=資源)を失ってしまうことに他なりません。

このような課題に対し、年少者日本語教育に関わる研究は、外国から来た子どもたちが安心して学び続ける手立てを開発することで、問題の解決を図っていきます。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「言語少数派の子どもを対象とする遠隔型の「母語による学習支援」の開発」

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◆講義「年少者日本語教育」では

「大学にいる留学生と、外国から来た子どもたちは同じだろうか。年齢以外に、どんな違いがあるだろうか」、「<子どもはことばを覚えるのが早い>という話をよく聞くけれど、それは本当だろうか」といったことを問いかけます。

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大学のゼミの光景〜学生のゼミ発表
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◆学んだことはどう生きる?

中学や高校の教員になった学生は、勤務校に外国人児童生徒が編入したとき、バイリンガル教育の知識を活かして子どもの対応や教科指導を工夫します。また、一般企業に進んだ学生は、例えば航空会社や人材派遣会社の業務など外国人との対応が求められる場面で、「外国人と、日本語で、どうコミュニケーションを取るか」について、実践的に学んだ知識や技能を活かしています。

先生の学部・学科は?

言語コミュニケーション学域は、ことばとコミュニケーションに関わって、研究と実践の双方向的な学びができるところに特色があります。年少者日本語教育の場合で言えば、実際に学生自身が外国から来た子どもと接し、日本語や教科を教えながらデータを集め、それを学問的な見地から分析していきます。学生はこのような経験を通じ、日本語を母語としない人々とのコミュニケーションの取り方や信頼関係の築き方を学んでいきます。

中高生におすすめ

スパニッシュ・アパートメント(映画)

セドリック・クラピッシュ(監督)

主人公はスペインのバルセロナにやってきたフランス人留学生です。ヨーロッパ各国から来た6名の学生との共同生活は混乱続きですが、多様な人々との出会いの中で成長していく主人公を、ユーモアたっぷりに描いていきます。高校生や大学生の若者に、「外の世界」に目を向ける楽しさを教えてくれる作品です。


大きないちょうの木の下で いちょう団地に生きる子どもたち(テレビ番組)

NHKカラフル!班(企画・制作)

横浜市のいちょう団地には、様々な国から来た人々が多く住んでいます。この作品は、団地で暮らすベトナムや中国から来た子どもとその家族に焦点を当て、子どもたちが自分のルーツにどのように向き合っていくのかを描いていきます。

映像を見ることで「こういう子どもたちが実際にいる」ことが事実として把握されます。そして、登場する子どもたちは学校にも楽しく通っていますが、一人一人の内面に迫ると、自らの出自や親のことばとどう向き合うのか、葛藤を抱えています。子どもたちがどのように葛藤を乗り越えようとしているのか、その姿を知ってほしいと思います。

現在NHKには「NHKティーチャーズ・ライブラリー」というサービスがあり、学校の先生が申し込むと無料でDVDを貸し出してくれて、生徒に見せることができます。
[Webサイトへ]


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

イタリアのトスカーナ地方。画家の堀文子さんの画文集『スカーナの花野』が好きで、そこに、彼女が、70歳近くなってからの数年間、トスカーナで暮らしていたと書いてありました。それ以来、憧れています。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

OAUの『帰り道』が好きです。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『きっと、うまくいく』。2009年に公開されたインド映画です。3人の大学生を主人公とした、笑えて、泣けて、元気のでる作品です。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

合唱団に入っていました。

Q5.会ってみたい有名人は?

ピアニストのフジ子・ヘミング。言葉は交わせなくてもよいので、彼女がピアノを弾いているところを、すぐ横で見ていたいです。


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