正解は一つじゃない 子育てする動物たち
齋藤慈子、平石界、久世濃子、長谷川眞理子(東京大学出版会)
動物は子孫を残すように進化してきましたが、その子育ては種によって、また種内でも状況によって多様です。その多様性と、多様性を生みだす理論を紹介することで、ヒトの子育てを客観的、科学的に捉えてもらおうという本です。親を苦しめている、「親はいかなるときも愛情を持って子どもの世話ができるはず、できなければ異常」といった固定観念を覆すことも目的としています。
本書では、様々な動物の研究者が、研究対象種の子育てを紹介しています。執筆者はみな自身も子育て中で、各章にある子育てについてのエッセイから、研究者親子の生態を垣間見ることもできます。
子育てに関わる人を増やすべく、子ども好きな人の特徴を調査
「母親は育児に専念すべき」は本当か
皆さん、赤ちゃんはかわいいでしょうか。かわいい!と即答する方もいれば、そうでもない人もいるかもしれません。「かわいい」と思えないことはおかしいのでしょうか。
これまで日本では、母性神話や三歳児神話といった、母親は自己犠牲をしてでも子どもを愛すし、特に子どもが小さいうちは育児に専念すべきだ、しないと子どもの発達に悪影響がある、といった主張が広く信じられてきました。
しかし、私自身が子どもを産むまで、子どもをかわいいと思えなかった経験や、世間での虐待の多さから、生物としてのヒトの子育ては本来どのようなものなのかというところに立ち返って考えてみる必要があるのではないかと思いました。
現代日本の子育ては「孤育て」
進化的・生物学的な視点からすると、ヒトは母親単独では子育てができない生物です。それでも人類が発展してきたのは、母親以外の人が子育てに参加する、共同保育がなされてきたからです。
現代の日本では、核家族化が進み、子育ても「孤育て」といわれるほど(多くの場合)母親が単独で担っていることが多く、そのことが育児ストレスにつながっています。また子育ての苦しい状況が、少子化を加速しているともいえます。
子ども好きな人と関わりを促進
そんな現状を改善すべく、社会の中の子ども好きな人と子どもたちとの関わりを促進するために、社会の中でどのような人が子育てに関わってくれるのか、つまり、子どもが好きな人の特徴(年齢その他)を調べるのが、この研究の目的です。
「子どもの認知プロセス―環境要因を考慮した親・保育者・一般成人の比較」