ヨーロッパ古典劇を歌舞伎風に!鴎外の翻訳劇の魅力
医学と文学の両方を極めた森鴎外
森鴎外は日本屈指の国際人であり、医学、衛生学、都市工学などの自然科学分野と文学、美術などの人文科学分野の両方を極めた領域横断型の知識人です。このような知的関心の広さに私が最初に気づいたのは、鴎外の劇場論を読んだ時でした。
1880年代にヨーロッパで展開していた衛生学的、防災学的に安全な劇場を巡る議論を、鷗外はいち早く東京に導入し、日本の伝統的な劇場構造の利点を生かしながら、安全な劇場を設計する具体的な案を練っています。
ヨーロッパ文芸を日本語に溶け込ませる工夫
鴎外のドイツ語論文を読めば、その傑出した語学力に驚きます。しかし鴎外の優れたところは、その語学力を駆使して得たヨーロッパ文芸の精髄を紹介するだけではなく、日本語の文芸世界に溶け込ませようと、様々な工夫を編み出していることです。鴎外の演劇翻訳の世界を散策する楽しみは、その工夫に出会い、鴎外の知性の働き具合を実感できるところにあります。
ゲーテやイプセンにも挑む
カルデロンやレッシングのようなヨーロッパの古典を歌舞伎風の七五調に訳したり、イプセンの近代劇を日本の古風な定型詩の中に入れ込んでみたり、あるいはゲーテの大曲『ファウスト』を、当時の新しい標準的な日本語に移し替えてみたり、その技芸の鮮やかさと、それに挑む勇気にはいつも感心しています。
私はドイツ文学者であり、日本文学の研究者とは少し異なる視点から、ニーチェやゲーテに接するように鴎外にアプローチしています。
「鴎外の演劇翻訳・改作・創作に関する日独比較文体論及び文献学的詩学に基づく国際研究」