江戸時代に登場したカラフルな絵本の世界
手描きで挿絵に色を付けたのが丹緑本
丹緑本とは、江戸時代初期(17世紀初め)に出版された本(印刷本)の挿絵に、赤・黄・緑色等で彩色したもののことです。皆さんが知っている印刷による浮世絵は、様々な色を摺っていますが、このようなカラフルな印刷が流行するのは江戸時代中期(18世紀半ば)以降のことです。
冊子にするのも、彩色も、西洋の影響か
実は、日本では古い時代から絵を伴う作品は巻物、すなわち絵巻として作られていました。日本において冊子本の絵本が多く作られるようになるのは、16世紀半ば以降のことなのです。
これは、偶然かもしれませんが、西洋文化が本格的に日本に入った時期と一致します。しかも不思議なことに、西洋では15世紀末から、印刷本の挿絵に赤や黄色等の彩色をした本が多く作られているのです。もしかすると、日本の丹緑本は、西洋の本の影響を受けて作られているかもしれません。
趣味で集める人はいたが、研究は進んでいなかった
日本の丹緑本は、古本の市場で高価に取引されるものですから、近現代に偽物が制作されてもいます。
本物と偽物をどう見分けるのか。これらのことを明らかにするには、まず、丹緑本の実例を集めて、どのような物であったかを研究しなければなりません。残念ながら、丹緑本を趣味で集めたりする人はいましたが、研究はまったく進んでいませんでした。
実は私は、丹緑本の研究に入る前に、よく似た存在である奈良絵本・絵巻と呼ばれる作品群の研究をしていたのですが、これらを含めた日本の絵本の歴史を国際的な見地から明らかにしようとしています。
「丹緑本の基礎的研究」
丹緑本とよく似た存在の奈良絵本・絵巻は、テレビや中高の教科書にも挿絵が採用されていますが、その研究はほとんどなく、書かれたり話されていることも間違いが多くあるので、注意するよう促しています。
◆「美しく描かれた奈良絵本に魅了され いつ誰がどのように作ったのか制作者を探る」(慶応義塾大学)
◆「奈良絵本・絵巻研究からの進展」(科研費NEWS p.5)
◆「「奈良絵本・絵巻」を研究する中で、日本初の女性絵本作家を発見しました。」(at home)
◆主な業種
(1) 教育
(2) サービス
◆主な職種
(1) 中学校・高等学校国語教師
(2) 博物館職員
◆学んだことはどう生きる?
国文学専攻を出た場合、一番多い就職先は、中高の国語の教員です。大学や研究職に就職するのは難しいのですが、もちろん、このような研究職に就く学生もいます。私自身が奈良絵本・絵巻の展示に関わる事も多く、大学・大学院時代に手伝いをしていた学生が、いわゆる資料館に勤めて、そこで定期的に行われる展示を担当している場合もあります。
慶應義塾大学文学部人文学科国文学専攻は、近代文学や日本語学も学べますが、古典文学の場合は、実際に存在している資料を利用して新しい見地を開く研究が盛んだと言えます。私は、丹緑本だけではなく、奈良絵本・絵巻と呼ばれる、美しい彩色入りの絵本や絵巻の研究をしていますが、挿絵から国文学の作品を読み解くといった研究もできると思います。