縄文人骨のDNAや現代の未開社会から、縄文社会に迫る
発掘調査だけでは、社会構造まではわからない
私は今から4000年以上も昔に遡って、縄文時代の社会について研究しています。「社会」というとおぼろげなイメージで、社会構造(親族組織、婚姻制度、出自制度)などは確かに目に見えにくい分野で、しかも発掘調査だけではよくわかりません。
現在の部族社会を参考にする
そこで、開発の遅れた現在のオセアニア地域やアフリカの部族社会を調査して、縄文時代と比較する理論的な研究が必要になります。未開社会で人々がどのように考えて活動し、どのような社会を構築しているかを調べると、互いによく類似しています。その共通性は人類社会の法則性に近く、同じ条件であれば縄文時代にも適用が可能です。このように私の研究では、異なる学術分野と学際的に連携しています。
発掘された骨から姻戚制度がわかる
もう一つ、縄文人骨から抽出されるDNAのゲノム情報から、縄文時代の集団が持った婚姻制度、親族構造を知ることができます。私の研究では、考古学情報と集団遺伝学の情報をつなぎ合わせて、文理融合型の研究領域を作りました。この方法により、未解明であった縄文社会を解明する端緒が得られました。
新たな学問を創出するには、「日本の学問を変えるんだ」という強い志が必要です。そのためには、どんなことにも興味を持って課題を見つけることが大切です。素人じみた考えだと自分で決めつけないで、多方面の知識を学び、方法を練り上げていくことです。目標が見えてくると、学問は楽しいものです。
人間とは何者でしょうか。数百万年間の人類の歴史を通じて、その課題を扱えるのは考古学だけです。歴史や文化、社会の総合的研究を通じて、「人間とは何か」という問いに答えることができるでしょう。
「経済学」や「政治学」、「法学」、「社会学」、「心理学」などの個別科学は、人間の一部の側面に光をあてるものです。それに対して考古学は、人間の諸活動、思索、自然環境への適応等すべての領域を広く深くカバーしますから、あらゆる人文科学の領域を、時代と地域を超えて研究することができます。
◆先生が心がけていることは?
考古学研究を続ける場合、日本の研究だけでは不十分なので、欧米の研究成果や理論を積極的に学ぶため洋書を購読しています。質の高い研究と教育を目指すには、日本の研究にこだわることはマイナスだからです。
「縄文時代の氏族制社会の成立に関する考古学と集団遺伝学の共同研究」
山内清男(故人)
成城大学
1970年に亡くなりましたが、日本考古学の屋台骨を築いた大学者です。土器型式編年研究は山内先生が構築したもので、その後の日本考古学の秩序と枠組みとなっています。山内編年学の形成について研究したことが、将来の研究方向を決定づけました。
佐藤達夫(故人)
東京大学
山内清男の継承者です。実際に土器などについて詳しく話を聞きました。土器研究に関する深い理解と知識などを学び取ることができ、私の研究の方向を決定づけた研究者でもあります。
西村正衛(故人)
早稲田大学
修士課程の指導教員で、山内清男の弟子です。関東地方の細密な土器型式編年を構築しました。縄文時代の文化・社会を理論的に研究するように欧米の文献研究を通じて指導を受けました。私の民族誌研究の方向性は西村教授からの影響です。
大学院のゼミ生を中心に学術的な課題を設定し、そのための学術発掘調査を企画するように心がけています。それでもわからないことが多いので、民族誌調査のためにパプアニューギニアなどの海外調査に帯同し、実地で現場を体験させます。そうすると、学生は興味を持って喜んで研究するようです。
◆縄文時代の氏族制社会の成立に関する考古学と集団遺伝学の共同研究(科研テーマHP)
◆主な業種
(1) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(3) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
(1) その他教育機関教員、インストラクター
(2) 中学校・高校教員など
(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
考古学はまず発掘調査が基本なので、専門的な知識と技術を養成することが肝心です。卒業、修了後に、都道府県の教育委員会や博物館などに就職して、専門知識と技術を発揮することが多いです。12年ほど前に文科省の公募課題「社会人学びなおしニーズ対応教育推進プログラム」で設計した「考古調査士資格養成プログラム」を今でも継続し、国立・私立大学の参加を得て加盟大学13大学で運営しています。「一級」、「二級」の考古調査士資格を取得して、市町村、都道府県の教育委員会や埋蔵文化財センターに就職する学生が多いです。
早稲田大学の文学学術院には、文学部と文化構想学部の二つが併置されています。文学部には人文系の文学系(英文、仏文、露文、中文)や哲学系(哲学、心理学、美術史等)、歴史系(日本、東洋史、西洋史、考古学等)が設置されており、個別で深い研究が可能です。文化構想学部はそれらの枠組みの壁を取り払って、相互に融通する新領域、広領域が発達しています。学生は専門的知識の習得以外に大局的な視点から学べます。
星と朱と胎土と(漫画)
ミツミゾナツミ(マンガ図書館Z)
縄文時代中期の山梨県をモデルに、縄文時代の食生活や土器の謎など、人々の風変わりな生活が描かれています。視点と内容は斬新で、中学生、高校生におすすめできます。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 宗教学。人間の本質的課題を扱うので。経済状態などの如何を問わず、根源的に社会に影響を与える領域でもあると考えています。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 英国。かつてサバティカル制度で2回ケンブリッジに滞在し学びました。考古学に対する深い理論的研究が発達しています。 |
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Q3.一番聴いている音楽アーティストは? 北島三郎。『風雪流れ旅』が好きです。 |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 絨毯運び。大手ホテルのロビーに大人数で絨毯を運び込み、広げる作業。 |
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Q5.会ってみたい有名人は? 山中伸弥 |