中世・ビザンティン帝国の美術を通して、民衆の心を知る
民衆にとって、美術は大切なメディア
宗教をめぐる対立が21世紀の世界の大きな問題だと、皆さんも感じているかもしれません。キリスト教、イスラーム教、ユダヤ教。かつてビザンティン帝国という、千年以上続いた巨大な国家がありました。西欧キリスト教世界とイスラーム教世界の間に位置し、両者をつなぐ役割も果たしたのです。
美術は文字の読めない民衆にとって、何より大切なメディアでした。私の研究は、美術作品を通じて、中世の民衆の心のありようを理解しようとするものです。
第三者の日本人なら調査が順調
私は多くの日本人と同じように、不熱心な仏教徒で、神社にもお参りに行きます。その私がキリスト教の美術を研究するのは、とても大切なことです。しばしば宗教は対立し、戦争に至ります。キリスト教、イスラーム教、ユダヤ教も、過去繰り返し対立し、宗教の名の下に戦争を起こしてきました。幸い日本人である私は、その対立関係の外にいます。
ギリシア、イタリア、トルコ、シリア、ロシア、旧ユーゴスラヴィア。ビザンティンの美術を研究していると、様々な国の調査をしなければなりません。日本人であれば、どこの国に行っても歓迎され、調査が順調に進みます。日本が宗教対立の外にある、第三者であったからです。
人文系の研究によって、世界がすぐに変わる、ということはありません。しかし相手のことをよく知っていれば、喧嘩をしなくなります。人文系の知は、そのような相互理解の積み重ねです。
「ビザンティンと中世イタリアの聖堂装飾プログラム比較に基づく相互影響関係の分析」