芸術一般

マンガ表現

マンガの一コマには、複数の時間が表現されている


鈴木雅雄先生

早稲田大学 文学部 フランス語フランス文学コース(文学研究科)

出会いの一冊

テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ

伊藤剛(星海社新書)

マンガを研究するとはどういうことか知りたい人に、ぜひ手に取ってもらいたいのがこの本です。どこが面白いか、社会とどんな関係があるかといった「内容」の話ではなく、どういうコマ割りが読みやすいかといった「技術」の話でもなくて、マンガというメディアはどういう構造を持っていてどういう風に機能するのか、これを読んでそういうことを考えてください。

「キャラ」と「キャラクター」の区別とか、「フレームの不確定性」といった言葉に少しとまどうかもしれませんが、絵を見るのとも映画を見るのとも違い、もちろん小説を読むのとも違う、マンガを読むという体験の核心に触れることができるはずです。

こんな研究で世界を変えよう!

マンガの一コマには、複数の時間が表現されている

絵と音のあいだには「ずれ」がある

例えば、「誰かがパンと手を打ち鳴らしたところをマンガに描いてください」と言われたら、あなたはどんな絵を描くでしょうか。おそらく、両手が合わさった状態ではなく、離れた状態の絵を描いて、そこに『パン』という文字を重ねるのではないでしょうか。

すると、絵は音がした瞬間ではなく、そのほんの少し後の瞬間を表していて、絵と音のあいだには「ずれ」があることになります。人を殴るシーンや、ボールを蹴るシーンでも同じでしょう。いったいなぜなのでしょうか。

いつから、現在のスタイルが始まったのか

実は、マンガのコマの中には、一つの瞬間が描かれているのではなく、複数の様々な時間が絡み合っているのではないか。なぜそうなのか、そしてそのようなイメージのあり方は、いつ、どのようにはじまったのか。

私は今、そういう問題を考えています。私たちが、今ではごく普通のものと思っているイメージのあり方も、おそらく200年前には不可能なものでした。それはある時可能になった、歴史的なものなのです。

こう考えたとき、見慣れたポスターやマンガのイメージは一つの「問い」になるでしょう。研究することの楽しさとは、そうした「問い」に襲われることの楽しさです。世界を前に進めるのは「答え」ですが、世界を変えるのは、きっとそうした「問い」なのですから。

先生の似顔絵(卒業生が描いてくれたもの)
先生の似顔絵(卒業生が描いてくれたもの)
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「ポスター、絵本、マンガ等、近代の大衆的静止イメージ・メディアの原理に関する研究」

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今の一番の研究テーマは、マンガやポスター、絵画などを中心としたイメージの問題ですが、私自身の所属はフランス文学コースというところです。文学に関心を持つ学生は減り気味という印象を、多くの人が持っています。それも嘘ではありませんが、それによって不思議なことに、「文学」と名のつくコースの多くは、ジャンルの垣根を考えずに何をやってもいい場所になりました(少なくとも私のところはそう)。皆さんは、存分にこの自由さを活用すべきです。

中高生におすすめ

天体による永遠

オーギュスト・ブランキ、訳:浜本正文(岩波文庫)

大切なのは、「本気でこんなことを考えた人がいたのか!」という体験です。これは、宇宙には我々一人ひとりとまったく同じ人間が無数にいることを、科学的に証明しようとしたすごい本。しかも著者は19世紀フランス最大の革命家です。


自我論集

ジークムント・フロイト、編:竹田青嗣、訳:中山元(ちくま学芸文庫)

学問的な本と思わずに、「快感原則の彼岸」を読んでください。原生動物の話から、我々には「死の欲動」があるという結論まで進んでいきます。「本気か?」と思っていると、「自分でも本気かどうかわからない」と書いてあります。フロイトは素晴らしい!


悪徳の栄え

マルキ・ド・サド侯爵、訳:渋澤龍彦(河出文庫)

サドのものなら何でもかまいません。おそらく通読できる人は少ないでしょう。でも良いとか悪いとかでなく、200年以上前に監禁状態でこれを書き続けた人間がいたという事実に打たれます。若い人は、みな一度はサドを通過すべきです。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

音楽学

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

ラサーン・パターソン。特に、『The One for Me』。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ラスト・ワルツ』

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

湾岸戦争時代のNHKパリ支局におけるニュース番(大学院生の頃です)。


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