量子コンピュータって何でしょう。知るのは難しく、とてもハードルが高いです。永山翔太先生は、量子コンピューティング技術を使うと、とんでもないことができて、今のインターネット革命をはるかに超えたどんな未来が待っているのか、わかりやすく解説します。
量子コンピュータが奇跡を起こす、未来のネットワーク通信技術
スパコンで何万年かかっても解けない計算をたった数日で処理!
量子コンピュータは最近、よく耳にする機会が多いと思います。しかし量子コンピュータは、ふつうのコンピュータとどう違うのか、よく知られていません。
コンピュータは、0、1という2進法で動きます。このデジタル情報の最小単位を「ビット」といいます。量子コンピュータの場合には、デジタルなのは同じですが、普通のコンピュータで使うようなビットではなくて、「量子ビット」というものを使って情報処理を行います。
量子コンピュータの最大の特徴は、従来のコンピュータに比べて著しく計算速度が速いことです。どれくらい速いかというと、スパコンで何万年かかっても解けない計算をたった数日で処理してしまう。とんでもなく速いのです。量子コンピュータのすごさを見ていきましょう。
今、3量子ビットあるとします。量子コンピュータは、3量子ビットで、2の3乗=8個の状態の出現確率というものを持っています。
量子コンピューティングはこの確率を操作して、計算を行います。この際の計算ステップ数がすごく少ないので、量子コンピュータはとてつもなく速いと言われているのです。
なぜこんなことができるかというと、古典的な物理学による計算原理で解くには複雑すぎる問題を、量子力学の法則による計算原理を利用して解くからです。
次に1つの量子コンピュータが10量子ビット持っているとします。この時、2の10乗、つまり約1000個の解の候補の中から1つの解を高速に見つけてきます。
この量子コンピュータが2台あると、2の20乗個=約100万個の解の候補の中から、1つの解を高速に見つけだすことができるのです。
このような量子コンピュータに向いている問題と計算を探す「量子アルゴリズム」の研究も今盛んに行われています。
量子インターネットでできる究極の情報通信網
この量子コンピュータ同士を繋いでやると、量子インターネットが可能になります。
今のインターネットもすごい社会革新を起こしています。しかし量子コンピュータを広域につないだ量子インターネットは、さらにもっとすごいインパクトをもたらします。
例えば、量子暗号技術を使った量子セキュリティは、理論上、解読不可能な暗号が実現でできることがわかっています。非常にセキュリティの高いネットワークが構築でき、究極の情報通信網と期待されます。
他にも、例えば量子センサーネットワークという利用の仕方も考えられています。この量子センサーネットワークを使えば、例えば宇宙からの超微弱な信号を検知できるようになることが分かっており、それで遠くの天体の大きさを測ってやろうという研究も行われています。これはきっと、宇宙の成り立ちの解明にも役立つだろうと私は考えています。
これ以外にも、量子センサーネットワークは、地球の地面の中に地震の予兆を探し出したり、人体に向けて小さな病気の種を見つけるのに役に立つのではないかと期待しています。
私は今、量子のためのTCP/IPというのを作ろうとしています。TCP/IP とは、インターネットで広く標準的に利用されているインターネットの通信規約のことです。
この通信規約は、私たちがパソコンやスマートフォンなどでWebサイトやホームページを見るときに利用されています。そのおかげで、インターネットで何十億台っていうコンピュータが繋がって動いています。それは現代の奇跡といってよいほどすごいネットワークです。
その奇跡を量子インターネットのために起こし、その力で、インターネットに匹敵する社会革新をもう1回起こしてやる。そう考え、研究開発に励んでいます。
◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
私はもともと、量子コンピュータの研究をしていました。情報技術の歴史を顧みると、単体のコンピュータから、コンピュータネットワークへ発展することで、爆発的な革新がありました。量子コンピュータでもこのような発展を起こすべきだと考え、今の研究テーマである量子コンピュータネットワーク・量子インターネットへと至りました。