タンパク質と聞いて、なにを思い浮かべるでしょうか。タンパク質は、生きものを形作る分子の1つです。生物(バイオ)と情報学の融合を目指す齋藤裕先生は、人工知能を使って未知のタンパク質を予測、無限の可能性を秘めた機能性タンパク質をデザインします。
人工知能で機能性タンパク質をデザイン
医薬品、ワクチンとして利用される機能性タンパク質
タンパク質は英語で言うとプロテインです。その言葉から筋トレなどを想像するかもしれません。しかしそれ以外にもタンパク質は、人の役に立つ様々な機能を持っています。
例えば、抗体というタンパク質があります。これは様々な病気の検査薬や、抗がん剤などの薬として使われています。コロナのワクチンも、体内に入るとタンパク質に変換されます。
普段私たちが毎日使っている洗濯の洗剤や、食べすぎた時に飲む胃薬の中にも、酵素と呼ばれるタンパク質が配合されています。
少し変わったところでは、蛍光タンパク質という光るタンパク質があります。これは生体イメージングといって、実験動物の病変部位を光らせるなどの用途で、医学研究や生命科学研究の様々なところで使われています。
では、タンパク質をデザインするとはどういうことでしょうか。
タンパク質はアミノ酸という小さい分子が連なった構造をしています。このタンパク質のアミノ酸の並びのことを配列と言います。この配列を様々に変えることによって、様々な機能のタンパク質をデザインすることができます。
AIを使って、コスト削減に成功
問題は、この配列のパターンが非常に膨大なことです。そのため人の勘や経験に頼った方法ではなかなかうまくデザインができません。
これまでのタンパク質のデザインでは、人間の手で、タンパク質の機能を人工的に進化させるという実験的な方法がとられてきました。
しかし、このような方法では膨大なコストがかかります。例えば1年程度の期間と1000万円程度の費用がかかることが普通でした。私は人工知能の力を使ってこのタンパク質のデザインをスマートに行いたい。そう考え、人工知能によってタンパク質の配列から機能を予測するモデルを作りました。
それによって、従来の方法に比べてタンパク質の機能の改変のコストの大幅な削減に成功しました。これまでの10分の1、つまり1ヶ月程度の期間と100万円程度の予算でデザインすることが可能になっています。
世界初!AIで蛍光タンパクの色を緑色から黄色へ改変
具体的な成功例として、緑色に光る蛍光タンパク質を、より明るく光る黄色の蛍光タンパクに変えることに取り組みました。人工知能が提案したタンパク質は、一目瞭然、黄色く光っています。これは人工知能によるタンパク質デザインの有効性を示した世界初の発見です。
今後、副作用の少ない医薬品、環境にやさしい物質生産を行うためのタンパク質、そして感染症への迅速な対応を可能にするタンパク質などをめざしています。応用範囲は無限大です。
◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
生きものを形作るタンパク質などの分子は、その設計図の情報がゲノムのDNAの中に記されています。これまでの生物学では、その設計図を「読み解き」生きものの仕組みを調べることが主な目的でした。
しかし、もし設計図を私たちが「書く」ことができれば、これまでどこにも存在しなかった人に役立つタンパク質を新たに創造できるかもしれません。さらに、その「読み解き」「書く」プロセスを人間だけでなく人工知能と一緒に行えれば、もっと効率が良くなるはず・・・そう考えたことが研究のきっかけでした。
◆先生の研究室の卒業生は、どんな仕事についていますか。
兼務先の1つである東京大学大学院で研究室を主宰しています。卒業生には、AIによるタンパク質デザインの経験を活かして製薬企業で働いている人や、情報系の知識を活かしてITインフラ企業で働いている人がいます。