IoTセンサってちょっとズレたことを教えてくれることがあって、使いたいワタシの気持ちをほんとにわかっているのかなぁ……と思う時はないでしょうか。人にやさしいIoT技術に取り組む松田裕貴先生は、街に住む人々の力で情報を収集する「参加型センシング」を使って、人の知覚や感情を教え込んだスグレモノIoTを実現します。
参加型センシング技術で、人にやさしいIoTを創る
街灯の明るさを測定するアプリを開発
多くの人がスマートフォンなどの身近なデバイス、IoT(Internet of Things)を持っています。搭載されているセンサで周囲の状況をセンシングすることができます。街にいる人々みんなに頼んで情報を集め分析することによって街の様子を知ろう。そういった技術を参加型センシングと呼んでいます。
私が取り組んでいる1つ目のプロジェクトは、NightRoadScannerです。夜道を歩くとき、できれば安心安全な道案内をしてほしいものです。でも、夜道の明るさの情報は、実はどこにもまとまっていません。そこで、スマートフォンに搭載されている照度センサを使って、街の明るさをセンシングしました。
照度センサのデータを街を往来する人のスマートフォンから集めて、街灯の位置・明るさを判定するとともに、夜道の安全性を推定します。
そして実際に照度センサデータを集めるためのアプリを開発しました。街灯の下を通った時に街灯が検知されて、どこが明るいか一目瞭然になりました。
トング+センサで、ポイ捨てゴミを可視化
2つ目のプロジェクトは、Tongar(とんがーる)といいます。ゴミ拾いと参加型センシングを掛け合わせてポイ捨てゴミの情報を集めます。ゴミを拾う人は、自分の目で探してゴミを拾いますよね。その際に、どんなゴミを拾ったのかをセンシングすることで、どこにどんなゴミが落ちているのか、分布データを生成するのです。そのためにゴミ拾い用トングをIoT化しました。
トングに取り付けられたカメラで、ゴミを拾った行動や、何のゴミを拾ったのかを自動的に認識します。これまでに、ポイ捨てゴミデータを累計約400人の参加者で集めて、マップ上に、どんなゴミがどこに落ちているのかを可視化できるようになりました。
観光中の気持ちや感情をセンシング
人の面白い点は、気持ちや感情があるところです。
これをセンシングに活用したのが3つ目のプロジェクト、EmoTourです。街を訪れた観光客の気持ちや感情をデータ化するために、感情認識と参加型センシングを掛け合わせます。
観光中に抱く気持ちや感情は、実は知らず知らずのうちに行動や仕草として現れます。そこをウェアラブルデバイスなどを用いてセンシングすることで、気持ちや感情を推定するとともに、マップに可視化しました。実際にたくさんのセンサを人につけてもらって観光してもらいました。
これまでに、ドイツや京都、奈良でデータを集めて、感情の推定に関して再現率69パーセントという結果が得られています。
参加型センシングは様々な都市環境を知るために役立ちますが、まだまだ研究の余地はたくさんあります。これからも、人とIoTの力を掛け合わせて、世界中のあらゆる事象のセンシングを実現するための研究に取り組んでいきたいと思っています。
※松田先生の研究プロジェクトのWebサイトに上記で紹介した内容がまとめられています
https://www.iopt.jp/
◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
自分が普段生活している中でIoT・ICTのサービスに触れる機会はたくさんあると思います。そこで湧いてくる疑問点やこんな機能があったら良いのにな、という何気ない感想が研究の着眼点になることが多いです。ユビキタスコンピューティングシステムの分野では特に人の生活に密着したものが多いため、今までにない発想も実は普段の生活の中にヒントがあるかもしれません。あとは、SF映画なども遠い未来の「日常」をイメージするための手がかりが埋まっていたりします。そういったフィクションからもアイデアを得ることもできます。