今の時代、プログラマーは、めっちゃ体力と鋼の精神力が要るそうです。なぜって、Internet of Things(IoT)、ロボット制御、リアルタイムの画像処理など、プログラムの活躍する場が実世界に大きく広がっているから。机に向かってプログラミングするだけじゃダメという時代になっています。プログラマーが疲れないプログラミング環境技術を開発した加藤先生の話を紹介しましょう。
今や、プログラマーにも体力と鋼の精神が必要? プログラマーが疲れないプログラミング環境の開発
コンピュータは、プログラムがなければただの箱です(笑)。プログラムのおかげで、コンピュータは変幻自在の道具になります。私の専門はHCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)といいます。HCIは、人間とコンピュータの関係をもっとよいものにしていこうという未来志向の学問です。私は、プログラマーが疲れないで楽しくプログラミングするための統合開発環境を開発してきました。統合開発環境というのは、ソースコードを編集するためのエディタなどプログラミングするための道具一式をまとめた呼び名だと思ってください。今日は、そんな統合開発環境の中から2つを紹介しましょう。
まず、プログラマーが疲れない開発環境とはどういうことでしょうか? 今の時代、Internet of Things(IoT)、ロボット制御、リアルタイムの画像処理など、パソコンやスマホに閉じないで実世界で動作するプログラムが増えています。
例えば、最近、カメラの前で手を振ったりしてジェスチャー入力することで操作できる情報機器などが増えています。こういう機器を開発するには、机に向かってコンピュータの前でプログラミングするだけじゃなくて、コンピュータとカメラの前を行ったり来たり、立ったり座ったりする必要があるんです。それって、結構疲れますよね。つまり、プログラマーに体力が必要な時代なんです!
そこで私は、ジェスチャー入力の際にプログラムが実行される様子を録画して、あとから何度でも再生して詳しく観察できるプログラミング環境DejaVuを開発しました。
◇プログラミング環境DejaVuは下記サイトに詳細(動画もあります)
https://junkato.jp/ja/dejavu/
ご覧のように、早送りやコマ送りも自由自在で、プログラムの中で何が起こっていたかという内容を、非常にわかりやすく表示できます。これを使えば、コンピュータとカメラの前を不必要に行ったり来たりせず、疲れないで効率的に開発できるようになるでしょう。
また、私は、Internet of Things (IoT)を作れるプログラミング環境f3.jsも開発しました。
IoTというのは、センサ(温度や音量などを検知できる入力機器の総称)やアクチュエータ(モータやディスプレイなどの出力機器の総称)を使って動く情報機器のうち、インターネットに繋がっているもののことです。IoTの開発では、センサやアクチュエータを繋げ、筐体に固定する電子工作が必要です。ただ、外れやすいワイヤやもろい素材でプロトタイプを作ることが多く、壊れてもめげないで作り直さなければなりません。これには鋼のような精神力が必要ですね。
私は、こうした情報機器のプログラムを書きながら、同時にその筐体の設計図まで作ることができるプログラミング環境を開発しました。ご覧のように、普通のプログラムを書きながら、実物の筐体の展開図まで目で見て設計することができます。
これなら、丈夫な筐体を持つ情報機器を簡単に作ることができて、いかにやわな“豆腐メンタル”なプログラマーでも安心でしょう(笑)。
◆加藤淳先生のHPはこちらポピュラーサイエンスの時代―20世紀の暮らしと科学
原 克(柏書房)
原氏の著書の多くは、大衆から見た科学技術のイメージを具体例を通して議論したもので、人とコンピュータの関わりを考えるHCI分野の研究に興味のある人なら面白く読める内容だと思います。ここでいう具体例とは、20世紀の大衆向け科学雑誌に掲載された新技術に関する記事です。科学技術が切り拓く未来を誰にでも分かりやすく伝えようという記事群は、人とコンピュータの新しい関係を研究用プロトタイプで示し、説得しようというHCI研究とだぶって見えます。そこから一歩引いて論じている本書は、豊富な図版と具体的な記述で読み物としても面白いし、今のHCI研究が50年後どう見えているか考える材料としても面白いでしょう。
ちなみに、この本が入手しづらい場合は、他にも同著者の本で大衆文化史を扱ったものがあるのでそちらでもよいと思います。(どれも上記のような読み方ができます。)
電脳コイル
磯 光雄(監督)のテレビアニメ
「電脳メガネ」と呼ばれる眼鏡型のウェアラブルコンピュータが全世界に普及した社会が舞台。『攻殻機動隊』という作品が20世紀的サイバーパンクな未来像を描いたものだとすれば、『電脳コイル』はすぐそこにある未来を日常的な世界観の中で描いたものです。Augmented Reality (AR)/Mixed Reality (MR)/ Virtual Reality (VR)のような言葉がブームになる直前、ポケモンGOが配信されるよりずっと前に作られたものですが、そういった技術が実用化された社会像が非常に真っ当です。
もちろん話も面白いので楽しんで見ることができます! HCI分野の研究者が太鼓判を押す近未来を舞台にした日常系アニメを見てみたい人は、ぜひどうぞ。
翠星のガルガンティア
村田和也(監督)のテレビアニメ
地球が温暖化でほぼ全面大洋で覆われ、人類のほとんどが宇宙で暮らしている時代を描いたSF作品です。宇宙生物と戦っていた少年が相棒のロボットと共に地球に不時着し、大洋上の船団のなかで言葉も通じないところから徐々に居場所を作っていき、仕事を通して社会の中に位置づく物語です。ロボットのユーザインタフェース設計にほんの少しだけ加藤が関わったことから、エンドロールに東京大学五十嵐研究室がクレジットされています。
裏テーマとして、人類が新しい環境に適応する際に、人体を侵襲的に改変して進化するべきなのか、それとも人を補完するロボットのような相棒を作って共生していくべきなのか、という議論があり、このような未来志向の思考実験は非常にHCI的です。HCI分野に興味のある人なら面白く視聴できると思います。
serial experiments lain
中村隆太郎(監督)のテレビアニメ
1998年に放映されたアニメとは思えないほど、人々がネットワークで繋がった時代を的確に描いた作品です。不気味なところもありますが、わくわくします。見る人を選ぶと思うので多くは語りません。