人工知能という言葉が生まれて60年、人工知能は人間を超えるかとまで論議されるようになり、2015~2016年は、人工知能最大のブレークスルーの年と言われます。私たちの一番なじみの深いウエブサービスの世界でも、人工知能の導入が始まっています。ビッグデータが流入した今のコンピュータは、「もはや生命に見えることがある」と言う松本先生は、人工知能で人間の労働を開放された近未来の人間は「果たして幸せか?」と問いかけます。先生の示唆に富んだメッセージをお届けします。
人工知能がウエブサーバの異常状態を見つけ、サーバ管理者を救う~これってもはや生命?
私の所属するぺパポは、ウエブサービスの会社です。
ウエブサービスは、快適に利用できて当たり前、繋がらないとか表示が遅いというだけで、あっという間にSNSで拡散して評判が落ちるという厳しい世界です。
でも実際のウエブの運用はほんとに大変です。例えばウエブ上で起こった異常を検知するのは非常に難しいんです。下のグラフの赤い矢印は、実は異常が起きているんですが、パッと見ただけではイマイチ、異常が起こっているのかどうかわかりません。
こういう問題を早めに予測し検知したい。それも手作業でなく自動化することによって、サーバ管理者を疲弊から開放したい。そこで人工知能的なアプローチを導入しています。
考え方はすごくシンプルで、サーバとかシステムには必ず特徴があるはずなので、その特徴から外れた状態を学習します。つまり、ウエブサービスの通常状態を機械が学習しておいて、外れた異常状態を解析するという方法です。そのために大量データから知識を抽出する技術、データマイニングを用い、変化点検出に落とし込みます。これができるようになると、ウエブサーバの異常状態を自動的に検知し、自動的に制御できるようになるのです。
人工知能の導入は、夢のような話に見えますが、10年以上前から、基盤技術が整ってきています。
最大の課題はデータからコンピュータ自身が特徴量の抽出できるかどうかです。例えば、特徴量Aの時系列データ(下図)を見るだけでは、異常が起きている時点でほんとうに異常が起きているのかどうか、わかりません。
特徴量Bのそれ(下図)を見てもよくわかりません。
でも、AとB、2つの時系列データの相関関係から、特徴量を抽出することができるのです。
このように、人工知能によってサーバの異常を自動的に検知するための、真に有効な特徴量の定義と解析には、複数のデータの関係性が必要になってきます。
人工知能をやっていると、システムはもはや生命に見えることがあります。サーバが勝手に増殖したり、細胞のようにどんどん入れ替わったり…。そういう状況においては、大きな意味でのシステム相互の関係性を見ないといけないと考えています。そういうシステムのことを、我々は、なめらかなシステムと呼んでいます。それによって、システム管理から人間を解放するかもしれません。しかし、それで幸せかどうか。そこを今後みなさんと一緒に考え続けていきたいと思っています。