自動車や家庭用ロボット、スマート家電やスマートフォン・タブレットなど、一般の消費者が普段から使っているコンピュータ製品を快適に使うための技術を研究するコンシューマ・デバイス&システム研究を、ドコモのサービスのイノベーション(改革)を目指し、行っています。神山さんは、スマホの電池持ちを悪くしている原因を突き止めるために、独自の計算式を作りました。
何がスマホの電池をくっているのか可視化
スマホにアプリを入れたら電池の持ちが悪くなった、あるいは、使っていないのに電池の減りが早くなるということがあります。そんな時、購入してもらった会社としてできることはあるでしょうか。スマホ自体は、既に皆さんの手元にあって取り替えられません。しかし、ソフトウェアならば後で差し替えることもできるので、ソフトを改良することで、電池の持ちを改善できるのではないかと考えられます。
その際、「何が」つまり、どのアプリが、スマホの電池持ちを悪くしているのかを明らかにする技術、つまり、アプリを作るソフトウェア開発者にも使いやすいスマホ消費電力を見える化する技術を開発すべく研究しています。測定器がなくても、計算で電力が求められ、さらにはその原因も特定するような電力シミュレーション技術です。そのために、スマホの消費電力とその原因を突き止めるための計算式を作りました。端末全体の電力は端末を構成する部品ごとの電力を足し合わせたものだと考えることができます。
そこで、まずは部品ごとの電力を数式化していきます。ポイントは、何がその部品の電力を決定づける要因になるのか。つまり数式において何が説明変数になるかということです。
例えばCPUの場合、CPUの電力はCPU使用率が高いときに電力も高くなるということが知られているので、説明変数はCPU使用率となり、それに係数aをかけることでCPUの電力を見積もる計算式、「CPU電力=a×CPU使用率」が完成します。あらかじめ集めておいたCPU電力とCPU使用率の関係のデータから、係数aの値を導き出せば、CPUの電力が求められます。このように、各部分ごとで、電力消費を決定づける要因を説明変数として決め、その変数データを集め、統計的な方法で計算していき説明変数にかかる係数を求めていくわけです。
私はこのような方法で、各部品ごとの消費電力を見積もる計算式を作りました。その式に基づいて、アプリの電力を評価するシミュレーションツールも作りました。測定器で実測した値と比較しても、わずか10パーセントほどの誤差で正確に消費電力を測ることができました。
例えば、地図アプリの場合、起動直後はCPUによる起動処理や無線通信による地図データ取得の電力消費が大きく、それ以降はGPSによる位置測定に電力を使っているなどということがわかりました。
このように何で電力を消費しているか可視化することで、どのようにアプリを直していけばいいのか、ソフトウェア開発者に役立てることができると考えます。
◆研究に対しては、どのようなお考え・意識で臨んでいますか。
私が研究を行う上では、特定の手段(技術)にとらわれるのではなく、自分の研究で何を実現したいのか、目的を明確にすることを重視しています。今回の発表を例にとると、「スマホ利用時の電池持ち時間を延ばしたい」という目的があって、そのためには「ソフトウェアを省電力に設計する必要がある」という考えのもと、研究としては、「ソフトウェアの電力を見える化する技術(手段)」を作ることが必要と考え、これを研究課題としました(もちろん他にもありますが)。
技術に触れていると、技術的な面白さだけにとらわれて、結局何の役に立つ技術なのか曖昧になってしまうことがあります。皆さんもおそらく大学の卒業研究等で感じるのではないかと思います。ただ、少なくとも情報系の工学分野においては、技術そのものよりも、それが実世界の何に役に立つのかが重要だと考えています。ものすごく高度な技術であっても、役に立たなければ価値は認めてもらえません。そのため、私の研究では、常に目的思考で、目的に対して必要な手段(技術)は何なのか、十分に考えることを心がけています。
◆研究テーマをどのように見つけたのかを教えてください。
私がこの研究テーマに取り組み始めたのは、スマホではなくガラケーの時代で、「電池持ち」に関する問題意識が一般的に認知されていませんでした。一つの端末にいろいろな機能が詰め込まれていく流れの中で、このままだとエネルギー不足の問題が起こるかもしれないと、他の人より少し早めに課題感を持つようになったのがきっかけです。ほんの少し先でもいいので、将来に何が起こるか、いろいろと想像してみるのがいいと思います。
◆高校時代は、何に熱中していましたか。
釣り、バイクいじり、パソコンというように、それぞれ全然関連のない趣味に没頭していました。