スマホ、タブレット、PCから、スパコンまで、コンピュータの消費電力を減らすことができたら、世の中はもっと便利になります。三輪忍先生は、複数のハードウエア(プロセッサー)を交代で切り替えながらプログラムを処理する、省エネ型コンピュータを研究しています。ロールプレイングゲームの例え話で、わかりやすいコンピュータの最新省エネ技術を紹介しましょう。
交代制で戦えばエネルギーが節約できる? ハードウエアを増やしてコンピュータを省エネに
コンピュータの省エネ技術、それもハードウエアは増えるけど省エネができちゃうという不思議な話をしましょう。コンピュータが省エネ化できたら、駆動時間が増えたり、電気代の節約になったりします。コンピュータの中で一番電気を食うのはプロセッサ(ハードウエア)です。わかりやすく説明するために、ロールプレイングゲームの例え話をしてみましょう。
これまでプロセッサは「勇者」でした。勇者は武器を使っても魔法を使っても攻撃できる。つまりどのようなタイプの敵がきてもそこそこ1人で戦える、そういう万能キャラクターです。
敵とはこの場合、プロセッサの上で実行されるプログラムです。昔はハードウエアが非常に高価な時代が続いていたため、少ないハードウエアでなんでもできる万能型プロセッサを使う方が得だったんですね。
しかし今は事情が違います。30年前のプロセッサで使われていたハードウエアを1とすると、実に1万倍のハードウエアを大量に使える時代になりました。
こうなると勇者だけでなく、魔法使い、戦士…と様々なタイプのハードウエアを用い、敵の弱点に応じて戦う人を変更し、戦い方を変えることができるようになります。戦わない人はヒットポイントの消費を抑制してやればよい。そういうハードウエアの使い方をすることがコンピュータの省エネにつながるのです。
私たちは、そのようなコンセプトのプロセッサを提案してみました。プロセッサには共有のハードウエアが存在するんですが、その周りに汎用の高性能なもの、低性能なもの、あるいは整数演算しかできないようなものなど、様々な特徴を持ったものを配置します。そうして、プログラムの実行に合わせて、一番適切なものに切り替え、プログラムを実行させる。そういうことをハードウエアが自動的に判断するプロセッサを提案しています。どれくらい省エネができたかと言うと、我々の開発した技術で、従来の68%のエネルギー節約が実証できました。
まとめると、コンピュータの開発は、少ないハードでなんでも処理する少数のジェネラリストによる専任制の時代から、大量のハードウエアを使って省エネを実現する、大人数の専門家による交代制の時代に突入しているのです。
スーパーコンピューターを20万円で創る
伊藤智義(集英社新書)
GRAPEという天体シミュレーション専用コンピュータの研究開発プロジェクトをノンフィクション小説としてわかりやすく紹介しており、コンピュータの開発現場や大学の研究室の雰囲気を伺い知ることができる。著者は研究開発チームの初期メンバーの1人。高校生でも気軽に読むことができる内容となっている。
スティーブ・ジョブズ
ウォルター・アイザックソン 井口耕二:訳(講談社)
Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズの伝記。マッキントッシュに代表される数々の洗練されたコンピュータが、どのようにして生み出されたのかを知ることができる。コンピュータに限らず、ものづくり全般に興味のある人は読んでおいて損はない本である。