うつや自閉症などが起こる機構について不明な点が多くあるため、これらの疾患に対する予防法や治療法は、まだ不十分な状況です。精神神経科学は、種々の心の病の予防・診断・治療を目的として、脳の正常の働きや疾患について動物モデルを用いた遺伝子レベルの研究から、人の脳や行動レベルでの研究まで、様々な次元で精神活動を理解しようとします。
例えば、プレリーハタネズミは一度交尾した相手と夫婦となって終生ペア形成したり、父親や兄弟姉妹が育児に参加したりする小動物です。ヒトと同じように、配偶者や子ども、兄弟を認識する社会性を示し、その脳内機構はヒトの社会性に関わる神経機構も、ある程度共通していることが知られています。
戦争、震災、トラウマによる夫婦のキズナを回復!
一方ヒトでは、湾岸戦争などに参加した退役軍人は、恋人や配偶者と別れてしまう頻度が高いことが報告されていました。そこで私は、プレリーハタネズミを用いてトラウマが雌雄の絆に与える影響を調べました。するとトラウマを経験したオスのプレリーハタネズミは、パートナーのメスを好きになることができませんでした。しかし、ある種の抗うつ薬を投与すると、トラウマによる夫婦の絆形成が回復することがわかりました。
実験を進めていくと夫婦になったプレリーハタネズミは、夫婦になっていない個体よりも怖い記憶が形成されにくいことや、この現象にオキシトシンというホルモンが重要な働きをしていることもわかってきました。人でも男性は好きな女性の前では勇敢になりますから、こうしたことに似た現象かもしれません。
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「12.医療・健康」の「46.医学(心臓、血液、消化器、呼吸器、整形外科等)」
一般的な傾向は?
●主な業種は→保健医療系
●主な職種は→作業療法士
●業務の特徴は→作業療法は、種々の障害を負った患者さんが希望する日常生活を営めるように様々な支援を行う手法で、身体障害・老年医学領域、精神科領域、発達領域の3つの領域に区分されています。身体障害・老年医学領域では身体障害を負った患者さんや高齢者が日常生活を営めるように、様々なリハビリテーション訓練や生活に関わる提案・介助を行います。最近では病院ばかりでなく、通所介護施設(デイサービスセンター)などでの活躍も目立ちます。精神科領域は、精神疾患を負った患者さんに対してリハビリテーションを行います。例えば、集中力を高めるために絵画や手芸を行ったり、社会性を高めるためにグループでゲームを行ったりします。発達領域では、身体や精神に障害を持つ子どもたちの生活支援を行っています。
分野はどう活かされる?
大学の学部の所属は作業療法学専攻なので、卒業生は作業療法士として各地域の病院等で働いている人が多いです。また、卒業後に大学院へ進学してより高度な研究活動に従事する人も一定数います。大学院を修了した学生は、医学や保健学系の大学で教員や研究員として活躍しています。
作業療法士は、心身に障害を負った患者さんが日常生活を営めるように支援する医療職です。私の研究室では、精神疾患の患者さんの脳内で起きている現象を理解するための研究を行っていますが、ほかにも脳卒中患者さんなどのリハビリテーションに関する研究、小児の発達に関する研究など、いろいろな研究を行っている教員がいます。
チューター制度といって、学生に勉強や日常生活に関するアドバイスを行う教員を配置しています。本学の作業療法学専攻は1学年20名という少人数制で、新入生2名に1名の教員が対応する手厚い指導を心がけています。10年、20年先の医療を先導していける人材育成を目指して、しっかりとした教育研究活動に取り組んでいます。
君たちの可能性は無限に広がっています。上述したように作業療法士以外にも、卒業後に国立の研究所の研究員や大学教員、市役所の職員として活躍している人もいます。企業の研究所で働くことも可能だと思います。本学で充実した学生生活を過ごし、社会の様々な場面で活躍できる人材に成長していくことを期待しています。
自然科学の基本は、目の前の現象をよく観察することです。観察した結果を基に先人からの知識と併せて新たな発見に結びつけていきます。ですから、どんなテーマでもよく観察してください。
例えば、動物園の猿山のサルをよく見て、群の順位付けや互いのやり取りなどを観察して規則性を見出してみてください。人気がある先生は何故、人気があるか、どういう物の言い回しや仕草をしているかなどを観察してみてください。保健学領域では人間観察は重要な技術だと思います。
脳には妙なクセがある
池谷裕二(扶桑社新書)
脳は見たり聞いたりしたことを瞬時に理解し、次にどのような行動を取るべきかを判断している。脳内でどのようなことが起きているかは不明な点は多いのだが、最近明らかになってきた脳の不思議な活動が述べられている。例えば、恋をすると脳の処理速度が早くなる話、寝ている間に記憶が定着する話、言語を獲得するきっかけとなった遺伝子の話など。
筆者は周囲の環境から受ける刺激と、それに対する反応行動が基になり、心が形作られてきたと考察している。これまで哲学や心理学といった文系領域で取り扱われてきた脳の働きや精神活動も、今後生物学的な知見に基づいて理解されることにより、精神疾患に対する新たな治療法が開発されると期待される。