リンパ球は生体防御に携わるとても重要な免疫細胞です。リンパ球は大きく分けて、T細胞とB細胞があります。私たちの体に侵入してくる細菌やウイルスなどの様々な病原体を攻撃するリンパ球をチームに例えると、全体の司令塔の役割を担っているのがヘルパーT細胞です。
ヘルパーT細胞は、体内で「こんな敵(抗原)がいたぞ!」と敵の特徴についての情報を受けると、チームにその情報を伝えます。そして病原体を直接攻撃する役目を持つキラーT細胞が病原体を排除します。一方、B細胞は抗体という、病原体を攻撃する強力な武器を作る働きをします。また、T細胞の中には、制御性T細胞と呼ばれる他の免疫細胞の働きを制御する役割を持つ細胞もいます。
私は、これらのリンパ球の中でも、特に“免疫記憶”に深く関わる記憶ヘルパーT細胞の研究に取り組んでいます。“免疫記憶”は、“二度なし現象”とも呼ばれ、我々が、病原体に一度感染した後に同じ病原体に感染しないための重要な免疫システムの一つです。
例えば、私たちは、“免疫記憶”を利用して、インフルエンザをはじめとする様々な感染症を予防するためにワクチンを接種します。ワクチンが効果的に働くためには、記憶T細胞が重要な働きをすることが知られています。この記憶ヘルパーT細胞は、病原体を倒した後に体のなかで生き続ける細胞で、同じ病原体が再び体の中に侵入した場合は、他の免疫細胞にすぐに攻撃の指令を出すことが可能です。
一方で、この記憶ヘルパーT細胞が暴走してしまうと、いろいろな病気の原因となることが私たちの研究でわかってきました。今後は、記憶ヘルパーT細胞をはじめとする免疫システムが、どのように病気に関わっているのかを今まで以上に一生懸命研究していきます。
肺の病気に苦しむ患者に役立てたい!
私は元々、呼吸器内科の医師として、肺の病気に苦しむ患者に接してきました。その中で、現在の治療法で治せない病気がいかに多いかということを痛感し、基礎医学研究の道へ進みました。現在、肺の線維化の起こる仕組みの解明と、その阻止方法の開発に取り組んでいます。
重症の肺線維症の患者は、日本国内だけでも1万人以上存在し、診断確定後5年以内に50~70%が死に至る、極めて予後不良な疾患です。しかし、肺線維化を起こす細胞・分子レベルの制御機構についてはいまだ不明の点が多いです。そのため、肺線維症に対して既存の治療薬は限られた治療効果しか示しません。肺線維症はまだまだ研究が必要な病気なのです。
「免疫学」が 学べる大学・研究者はこちら
その領域カテゴリーはこちら↓
「9.基礎医学・先端医療バイオ」の「33.免疫、細菌等基礎医学(放射線等健康・生態系影響を含む)」
一般的な傾向は?
●主な業種は→医療関係、研究開発
●主な職種は→医師、基礎研究者
●業務の特徴は→新規治療法・診断法の開発
日本は、免疫学分野において世界的な研究業績を非常に多く出しています。そのような中で、私の所属する千葉大学は、日本国内の免疫学研究をリードする研究・教育機関の一つです。黎明期の免疫学を大きく発展させた多田富雄先生、NKT細胞の研究をがん治療の開発研究へ展開された谷口克先生、免疫記憶やアレルギーの研究で著名な中山俊憲先生といった先生方が代々の免疫学の研究室を主宰され、長年に渡り世界にインパクトを与える免疫学の研究を発信し続けています。
現在、米国国立衛生研究所(NIH,米国)、カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD,米国)、トロント大学(カナダ)、シャリテ・ベルリン医科大学(ドイツ)など世界各国のトップ研究施設との人材交流、共同研究、国際シンポジウムの共同開催なども積極的に行っています。
免疫学に興味がある学生さんは、ぜひ千葉大学で一緒に研究をしましょう!
皆さんの生きているこの世界は、素晴らしいコトで満ち溢れています。様々な分野に広くアンテナを張って、いろいろな事柄に興味を持ちましょう。そして、ぜひ、一冊でも多くの本を読んでください。その過程で、自分の好きなことや興味の対象がもし見つかったら、その世界へ向かって全力疾走で頑張りましょう。